YouTopia;

Mr.G

Chapter1

EP1「You know me, huh? ①」

 

 ――僕?


 あぁ、出会ったのは偶然だったよ。

 いやいや、本当だって。


 もちろん、ダークウェブに精通していた訳じゃない。

 僕だって普通の人と同じで、ちょっと見るだけの一般人って感じだった。


 でもある日見つけたんだ。

 “それ”を。


 ね?運が良かっただけさ。

 わざわざ見つけようとしてた訳じゃない。


 確かあれは……検閲されたアニメか、ポルノか、ともかく、フフッ、どうでもいいヤツを探してたんだ。

 でもそこにあったのは幸か不幸か招待状。


 ん?

 ハハッ、そうそう。


 うーん。

 そういう事になるのかな?


 あぁ!

 僕の時なんかはね――


 ……おっと、自分の話ばっかりだった。

 うっかり、うっかり。


 無駄話はまた後でしようよ。

 さて、まずは……。


 ――ようこそ、我らがCLUB『YouTopia』 へ。



 ***



 カタカタとキーボードの音が響く。

 暗い部屋の中、モニターの光だけが彼を照らしていた。


「……廃版。これも廃版。どこにもないなぁ。やっぱ潜るしかないかぁ、見つけたら配布しよっと」


 この男、名前を コール・ニノマエと言った。

 いわゆるオタクであった。


 ただ、彼はネット上ではちょっとした有名人だった。


 反体制的なハッカーの1人として、少しだけその名前が知られていたのだ。

 ネット上ではGE3Kと名乗っている。


 さて、そんな彼はこの日訪れたあるサイトで妙なものを発見する。


 ”君にその資格はあるか?”


 そう書かれた一文の広告を。

「え、なにこれ」


 ご多分に漏れず、そんな反応をした。

 特段目立つわけでもないし、特段面白い広告でもない。


 だが不思議と目が釘付けになった。

 普通の人間なら怪しいと感じるそれを、彼はこの日にクリックした。


 PCが壊れても僕なら直せる。

 そういった慢心からの行動だった。


 そして急な画面の暗転。

 彼はブラクラを疑った。


 しかし次の瞬間に奇妙な問題が映し出された。

 答えるまで画面を変えることが出来ないと悟ると、コールはそれを解いた。


 何問続いたかは定かじゃない。

 ジャンルとしては、一般常識やプログラミングに関すること、物理に関すること、それと工学に関すること。あとは思想に関することなどだった。


 得意分野が多く、問題自体は淡々と解いていったコール。

 しかし、次の問題に行くためには答えをURLに入れたり、画像を反転させたりと、それ自体もテストだと言わんばかりの形式だった。


 そしてその手が止まる。


 ラストもラスト、最終問題と題されたそれは「あなたは神を信じますか?」というものだった。


「なんだよこれ」


 急に毛色の違う問題が出てきた。

 驚きつつも、彼はそれに適当に答えた。


 Congratulations!という文字と、住所の暗号が書かれた画像が貼ってあった。

「え?来いってこと?」


 面倒くさい。

 その感情が彼の隅から隅へと渦巻いた。


 数十秒後、その表示は消えた。

 ウイルスに侵された形跡もなく、本当にもとのPCのままに戻ったのだ。


 その後、彼は何事もなくインターネットサーフィンに戻るが、さっきの住所のことが忘れられず、集中出来なかった。


 彼はついにしびれを切らし、その住所に向かうことになる。

 もう夕刻になろうかという時のことだった。


 言うまでもないが、彼は久々に外に出た。

 そしてもう二度と出ることは無いと、毎度ながら決意するのが常だった。


「ここ、かな?」


 目の前にあるのは倉庫だった。

 倉庫の上にはセンサー、カメラ、そして横にインターホンがある。


 目の前に立つと、センサーが起動した。

 緑のラインが彼を上からなぞっていく。


 最後に赤く光った。

 見たところエラーらしい。


 それはそうだ。

 初めて来たのだから。


 するとカメラがこちらに向く。

 それに驚いてそちらを見つめ返すと、インターホンから声が聞こえた。


「おい!誰だ!」

「……え、あの」


 もちろん、コールは口下手だった。

 誰だと大きな声で話しかけられて、急に話せる男では無い。


「誰だよ!もしかして、お巡りさん?だったら逃げる準備するから20秒だけ時間ちょうだいね!」

「……」


 意味もわからず突っ立っているだけのコール。

 彼の頭はやっぱり来なきゃ良かったで塗り替えられていた。


「……冗談だって。で?誰?」

「え、えーと。コ、コールです」


「コール君ね。どうしてここに?」

「ネ、ネットで、問題解いたらここが出たから……」


「え、嘘。新メンバー候補ってこと?先言ってよー!」


 新メンバー?

 不穏な言葉が出てきた。


 コミュニティや集団生活はごめんだ。

 逃げて帰ろう。


「あ、あの、やっぱ間違いです。帰ります」

「待ってよ!ごめんって!お願いお願い!とりあえず入ってお話しようよ!」


 そう言うと、倉庫が開いた。

 コールは押しに弱い男である。


 入った先をスキャンをするが何の変哲もない。

 だが、確かに感じる違和感がそこにはある。


 車が置いてあるのを横切ってその違和感を追う。

 すると突如地面の形が変わり、地下へと続く階段が現れる。


「なに、これ」


 同時に後ろで倉庫のシャッターが閉まる。

 閉じ込められた?そんな可能性も出てきた時、階段から人影が登ってきた。


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