閑話 国王の苦悩


アルカディア国王、レオポルドは、執務室の窓から、広大な王宮の庭園を静かに見つめていた。彼の手に握られているのは、日本のテレビ局から送られてきた、レオンが出演したドラマ**『偽りの肖像』**の最終回の映像が記録されたタブレットだった。


(レオ…お前は、本当に…)


国王は、レオンの完璧な演技の中に、息子が抱える苦悩と、そして、彼自身の力で夢を掴もうとする強い意志を見ていた。ドラマの主人公が自らの出自を明かす場面は、まるでレオン自身の物語を語っているかのようだった。


国王は、レオンが日本で俳優として成功したことを、心から誇りに思っていた。しかし、同時に、王族としての宿命を背負った息子が、いつまでも自由に生きることは許されないことも理解していた。それは、王としての義務であり、責任だった。

そして、先日、レオンからかかってきた電話。


「分かりました…父上が、僕の夢を潰すというのなら…僕はもう、父上のことを…家族を嫌いになります。僕が父上を嫌いになったら、どうなるか分かっているでしょう」


レオンの言葉は、国王の心を深く貫いた。レオンが自分を嫌いになること。それは、国王にとって、王位を失うことよりも、国民の信頼を失うことよりも、何よりも恐ろしいことだった。レオンは、国王がこれまで家族、特に自分を深く溺愛してきたことを知っていた。その愛情を利用しての言葉だったが、国王は、その言葉の裏にある息子の苦悩を痛いほど理解していた。 


(レオ…お前は、本当に…)

国王は、王としての仮面の下で、一人の父親として、息子の言葉に深く傷ついていた。彼は、レオンを愛している。しかし、その愛情が、息子を苦しめていることも、重々承知していた。彼は、レオンを王室の権威という「檻」の中に閉じ込めることが、息子にとってどれほどの苦痛であるかを、改めて痛感した。


その時、側近が、国王に契約書を差し出した。日本の大手芸能事務所から、改めてレオンに関する契約の打診が来ていた。


「陛下…日本の芸能事務所から、正式にレオン王子に関する契約の打診が来ております。王室が後援することで、レオン王子の活動は、より盤石なものとなります」

国王は、静かにその契約書に目を落とした。


「必要ない」

国王の言葉に、側近は驚きを隠せないようだった。

「しかし、陛下…」

「王族の権力で、息子の夢を壊すわけにはいかない」 


国王は、一つの決断を下した。彼は、息子が自分の力で、どこまでできるのか、見届けることを決意した。それは、王としての責任を放棄することではない。それは、一人の父親として、息子を信じることだった。

国王は、アルカディア王国の空を見上げ、静かに微笑んだ。それは、息子への深い愛情と、彼の決意を尊重するという、複雑な感情が入り混じった表情だった。

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華麗なる嘘の王子 銀雪 華音 @8loom

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