第5話 王子の告白、兄の来日
レオンの心臓は激しく鼓動していた。アヤカの言葉は、完璧な「嘘」を操る彼の心を、初めて真正面から揺さぶった。彼は、これまで誰にも見破られなかった嘘が、彼女には通用しないことを悟った。ごまかすことはできない。もう、この嘘を続ける意味もない。
「どうして、そう思ったんですか?」
レオンが絞り出すように問いかけると、アヤカはレオンの目をまっすぐに見つめた。
「レオンさんの話には、いつも矛盾がないんです。どんなに突拍子もない話でも、完璧に筋が通っていて。それって、真実を知っているからこそ、作れる嘘なんじゃないかって」
アヤカの言葉は、レオンの心臓を貫いた。彼女は、彼の天才的な頭脳を見抜いていたのだ。
「それに、レオンさんは、いつも少しだけ、**"不自然"**な演技をするんです。わざとらしいんです。まるで、本当の自分を隠すために、わざと不自然な動きを加えているみたいに」
その言葉に、レオンは何も言い返せなかった。彼は、自分の演技の欠点を、アヤカにすべて見抜かれていたのだ。その時、レオンのスマホが鳴った。母からの電話だった。
「レオン、大変よ!アルフォンスが、あなたのドラマにサプライズ出演するって、王室の記者会見で発表しちゃったの!」
レオンは、母の言葉に絶句した。兄の突発的な行動が、彼の「嘘」の城を完全に崩壊させようとしていた。もう、誤魔化しきれない。
彼はスマホをそっとテーブルに置き、アヤカに向き直った。
「実は…僕は…」
レオンは、言葉を続けた。
「僕は、アルカディア王国の第二王子です。本名は、レオナルド・フォン・アルカディア」
アヤカは、驚きを隠せない表情で、レオンを見つめた。
「信じられないかもしれません。でも、これが僕の本当の姿です。日本の戸籍を持つのも、日本の芸能界で活動するのも、すべて僕が選んだ道なんです」
レオンは、なぜ王族の身分を隠して芸能活動をしているのか、その理由を語り始めた。
「僕たちは、幼い頃から、王族としての義務や責任を叩き込まれて育ちました。僕は、常に完璧であることを求められました。でも、僕はただ、一人の人間として、自分の力でどこまでできるのか、試してみたかったんです。自分の才能を、自分の力で証明したかった」
彼は、王族としての教育や教養が、芸能界での活動に役立っていること、そしてそれが逆に自分の秘密を危うくしている皮肉な状況をアヤカに打ち明けた。
「完璧な嘘を、僕が作れたのは、真実を知っているから。でも、その嘘は、僕の心を蝕んでいきました。いつか、誰かに見破られるんじゃないか…そんな恐怖と常に戦っていたんです」
アヤカは、レオンの言葉を静かに聞いていた。彼女の表情は、驚きから、徐々に理解と、そして深い同情へと変わっていった。
「レオンさん…」
アヤカはそっと、レオンの手に触れた。
「ずっと、一人で戦ってたんですね。大丈夫。私には話してくれて、ありがとう」
その時、店の入口に人影が現れた。一目でわかる、洗練されたスーツに身を包んだ、金髪の長身の男性。それは、レオンの兄、アルフォンスだった。彼は、レオンを見つけると満面の笑みで駆け寄ってきた。
「レオン!会いたかった!」
アルフォンスは、レオンの隣にアヤカがいることに気づき、一瞬で顔つきを変えた。彼は王族としての品格を保ちつつ、アヤカに優雅に頭を下げた。
「初めまして。レオンの兄、アルフォンスと申します。弟がいつもお世話になっています」
アルフォンスの洗練された振る舞いと、その場に漂う威厳に、アヤカは改めて、レオンの告白が真実であることを確信した。
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