第5話 土曜日の夕方のピザ会議

土曜日の夕方。

仕事もバイトも部活も被らず、めずらしく全員が揃っていた。

「ここに第524回、清音家の家族会議を行いたいと思います」

いつにもまして真剣な表情の夕夏。

ダイニングテーブルを囲む3人の中央には小さな紙片がひとつ。

『お好きなピザ1枚70%OFF!』

新しくオープンしたお店のクーポン。

普段なら高くて嫌遠するピザも今日だけは射程範囲。

年に数回のコスパの悪い外食が楽しめる日!

「お肉!この肉スペシャルにしようよ!」

スマホを姉2人に見せる花夜。

そこには焼肉や唐揚げが乗った、超こってり超ボリュームなピザが。

「私は油っぽいの苦手なの」

夕夏がついっとスクロールしてシーフードミックスを指差す。

「やだよそんなの!今日も沢山走ったんだからカロリー!」

「サラダ油でも飲め!」

「児童虐待!」

「私もまだ児童だわ!」

ぎゃあぎゃあ騒ぐ清音家の年下ふたり。

毎日繰り返される光景に、長女が一人大きく嘆息をしてボソリと言った。

「……マヨコーン」

これが大人の正解。

とんでもないドヤ顔だった。

「ま、まあそれは置いておいて」

「う、うん。ごめんね真昼お姉ちゃん」

「なんでよ!?美味しいよマヨコーン!」

「僕がトーストで作ってあげるから!」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ清音家。

「僕は成長期!」

「あんた去年から1mmも伸びてないでしょ。私は3cm伸びたわ」

「成長済みにも人権を」

それからしばらく言い合いは続き、すっかり夕飯時になった清音家。

誰のかはわからないけど、お腹がさっきから鳴り続けていた。

疲れ果てた夕夏がスマホを取った。

「もうこの唐揚げとエビののハーフピザを注文するわ」

「お肉へるけどもう僕むり」

ぎゅるるるる。

「私のコーン……」

「バランス悪いし僕サラダでも作るね、コーン多めで」

「お持ち帰りならドリンクサービスだって。真昼ねえ車出して―」

決まると早いがけっきょくバタバタしていた。



30分後

「……唐揚げピザおいしっ」

「僕エビのほうが好きかも」

「……ムシャ……ムシャ」

「真昼ねえが無言で食べてる」

「気に入ってくれたんだよ」

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