21話 ユーリVSエミリ
その男は、背丈は俺より少し高めの180cmほどで、細身でスマートだ。
真っ白な白髪が特徴的で、表情からは ‘‘冷静沈着‘‘ そんな言葉が似合いそうだった。
「カイ、任せたぞ」
「ああ」
そうか、こいつが2年の上級騎士―カイ・コレクティン。
確かに、情報通りのイケメンだ。
まあ、いらん情報か。
俺は振り返り、ロミオの所へ戻る。
するとロミオは心配そうな顔で俺を見つめていた。
「ユーリ……その、大丈夫なの?」
俺はそんなロミオに心配をかけないように笑顔で答える。
「ああ、作戦通りだ! ロミオ、少しの間、上着を持っていてくれないか?」
「うん、それはいいけど……ユーリ」
「ん?」
「……気をつけてね……」
「ああ!」
俺はニシっと笑顔を見せた。
制服の上着をロミオに預け、中央の場所へ戻った。
中央に近づくと
「おい」
そう言って、カイは俺に向かって木刀を投げた。
俺は木刀を受け取り、その場で軽く振ってみたが
めちゃくちゃ軽い。
真剣以外で刀を振ったことがないので、想像でしかなかったが思いのほか軽くて驚いた。
俺は手からすっぽ抜けないように木刀を強く握りしめた。
そして、エミリの正面へ向かい立った。
「相手の体へ先に打ちつけたほうの勝ちだ、いいな?」
カイが俺とエミリへ視線を向けてそう説明する。
俺たちは頷き答える。
目の前に視線を移すと、エミリがものすごい目つきで俺を睨んでいた。
少し、やりすぎたか?
まあ、こうするしかなかったから仕方ないよな。
そして―数秒の間を置き、カイが開始の合図を告げる。
「それでは……はじめ!」
ダンッ!
カイの合図とともに、エミリは地面を素早く蹴り、真っすぐに俺に向かって飛び込んできた。
速い!
そして低い!
エミリはまるで突進してくる獣のごとく、重心を落とした低い姿勢で突っ込んできた。
そして低い姿勢から体をねじり上げるように下から上へ木刀を振り上げた。
ガンッ!
俺は体幹に力を入れ、エミリの剣撃を迎えうつ。
ギシ、ギシィ
木刀がぶつかりあう中、エミリが口を開く。
「ほう、私は一撃で決めるつもりだったのだが……なら」
エミリはそう言って、俺の木刀を強く弾き、剣撃を連続して繰り出してきた。
速く、流れるような太刀筋で何度も何度も打ち込んでくる。
俺はエミリの猛攻を木刀で受け流していく……
だが、エミリの勢いに押され、俺は少しずつ後退させられていった。
「くっ……」
そして、俺の背中が訓練場の壁際まで追い詰められたところで、エミリは俺の頭部を砕く勢いで、上から下へ真っすぐに木刀を振り下ろした。
俺はエミリが木刀を上に振り上げたわずかの間を狙って、横に避け―
ダァンッ!
紙一重でエミリの剣撃をかわした。
そして、エミリから瞬時に間合いを取る。
「危ねえ……」
最後の一撃はまともに受けていたら危なかった。
俺が避けた、訓練場の壁にはエミリの木刀がめり込んでいた。
「やっぱりエミリさんはすげえ!」
「あの一年、手も足も出ず、防戦一方だ」
「エミリさん、そんなやつすぐにやっちゃって下さいよ!」
周りからそんな声が飛んでいる。
「……」
だがエミリは外野の声には見向きせず、口を閉じたまま、めり込んだ木刀を壁から引き抜いた。
そして、こちらに向かって、何やら不服そうな表情を向けていた。
だが、エミリはすぐさま表情を引き締めなおし、スーっと大きく息を吸い込んだ。
そして、剣先を真っすぐ俺に向け、木刀を自身の目線の高さまで高く上げた。
息をゆっくりと吐きながら、膝を曲げ体勢を低く構え
次の瞬間―
ダンッ!
エミリは再び俺の間合いに飛び込んできた。
そして目にも止らぬ速さで何度も何度も、俺を穿つように剣撃を繰り出す。
突き技!
しかも連続して、こんなにも速く!
突き技というのは、決まれば大きなダメージを与えることができるが
外せば大きな隙がうまれる諸刃の剣だ。
だが、エミリはその柔軟な筋肉をしならせ、速く連続して繰り出すことによって、その隙を極限まで減らしている。
学校一の剣術使い……ここまでの物だったとは。
……だが!
俺はエミリの剣撃を受け流し―
ガンッ!
エミリの木刀を上方へ強くはじいた。
ここだ!
木刀を上に弾いた瞬間ー
エミリの体は無防備となり、俺はこの瞬間を狙い、エミリへ向けて木刀を振った。
だが―
エミリは後方へくるりと宙返りし、紙一重でそれをかわした。
あの体勢から、飛んでかわすのか。
エミリの強靭な脚力と、しなやかで柔軟な体が今の動きを可能にしているのだろう。
これは……おもしろい!
俺は、勝負の最中にもかかわらず、胸が高鳴っていた。
エミリは地面に着地すると、後方へ下がり、俺から間合いを取った。
そして、真剣な表情で口を開く。
「どうやら口だけの男ではないようだな。私は貴様を見くびっていたようだ」
想像していなかった言葉がエミリの口から飛び出してきて少し驚いた。
「そうか、学校一の剣術使いにそんな言葉をいただけるとは光栄だな」
「ふん、思ってもいないことを」
「そんなことはないぞ。あんたのような強者と勝負ができて、俺は楽しいんだ」
「ほう、貴様には楽しめる余裕があるのか。ふふふ……なら私も久方ぶりに、全力が出せる」
そう言うと、エミリを囲む空間に異様な魔力を感じた。
エミリは木刀をまるで腰の鞘に納めるかのように構えた。
そして、次の瞬間―
「水無月流 ―霧雨の舞― 」
エミリはそういうと、周りには霧のような靄が見え始めた。
この霧は……魔法か?
辺りは霧で包まれ視界がぼやける。
そして消えるように、エミリは目の前から姿を消した。
……だが、本当に消えたわけではない。
あちこちでエミリの気配をまだらに感じる。
なるほど、この霧の中、俺の周囲をもの凄い速さで移動しているのか。
これならどこから攻撃を繰り出してくるかわからない。
俺は目を閉じ、エミリと同じように腰の鞘に剣を収めるように構える。
人というのは無意識のうちに視覚からの情報に頼りすぎてしまっている。
だがこの状況下で、視覚からの情報を頼りに動いていては
エミリの動きに対応できず、気づいたときには勝負はついているだろう。
俺は視覚からの情報を遮断し、周囲にちらばるエミリのわずかな気配や空気の流れ、音、ニオイ、それらすべてを全身で捉え、待つ。
「出た! エミリさんの十八番!」
「これで勝負はついたな!」
周りからそんな声が聞こえてくる中
「ユーリ、負けないで!」
周りの声をかき消すように、ロミオの声が俺の耳に届いた。
ああ、負けないさ。
俺は木刀を強く握りしめた。
そして次の瞬間―
!!!
バキッ!!!
「なっ……」
俺の右斜め後方から、エミリが向かってくる瞬間を捉え、俺は同じように腰から木刀を抜き、エミリの剣撃を向かえ打った。
そして―
エミリの木刀は、真っ二つに折れていた。
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