14話 穏やかな昼休み
―翌日の朝―
俺はロミオより一足先に起きて、朝食に取り掛かる。
昨日ロミオと決めたことで、朝食は俺、夕食はロミオの担当に決まった。
ちなみに朝食のメニューは、トースト、サラダ、ベーコンエッグ、スープといった簡単なものだ。
俺は下のキッチンでガヤガヤしていると、
「ユーリ……おはよう」
と、ロミオが寝ぼけ眼をこすりながら階段から降りてきた。
起こしてしまったか?
「おはよう。悪い、起こしたか?」
「ううん、違うよ、……僕は朝が弱いから、寝坊しないように少し早めから起きようと思って……」
ロミオは朝が弱いのか。
少しだけ、意外だった。
「そうか、ミルクでも飲むか?」
「うん、いただこうかな」
「りょうかい!」
俺は冷やしてあったミルクを取り出し、コップに注いでロミオに渡した。
「ありがとう」
ロミオはニッコリ笑顔になった。
朝から誰かの笑顔を見ると、俺まで元気をもらえる。
なんというか、とてもいい気分だ。
「それじゃあ、もう少しだけ待っててくれ、すぐに作るから」
「うん」
俺は急いで取り掛かった。
その後、ロミオと朝食を食べ終え、学校にいく準備を整えた。
「さて、行くか」
「うん」
そういって、俺たちは家の玄関を開けた。
玄関を開けると、日の光が視界に差し込んできて、眩しい。
まだ朝の8時にもなっていないが、外は人通りも多く、出店の準備をしている人や、積み荷を馬車に載せている人など、ガヤガヤと賑わっていた。
さすが大国バラドール。
田舎の村育ちにはなかなか慣れない、新鮮な光景だ。
ちなみに学校までの道のりは、家を出た先の道を左方向へ真っすぐ200mほど歩き、さらに左に曲がって500mほど坂道を歩いたところだ。
家の周りに建物さえなければ家から学校まで見えるほどの近距離だ。
この家を選んだ理由もこの距離の近さだったりする。
そして、俺たちは5分ほど歩き、学校まで行きついた。
俺たちは玄関から校内に入り、俺たちのクラス1-Eまで歩いていく。
玄関から教官室、1-Eの教室までの道のりは覚えた。
俺は基本的に、1度通った道は覚えられるので、迷うことはほぼない。
この校内だって一度ぐるっと巡回すれば覚えられると思うんだが。
なんせ広すぎる。
全体を見て回るだけで、骨が折れそうだ。
んなことを考えながら、廊下を歩いていると……
なぜか他の生徒たちが、俺たちの道を開けるように廊下の端へ避けていく。
さらに端によけた生徒たちから、ひそひそと声が聞こえてきた。
「お、おい、あいつだろ? あのマクルドを一瞬でボコったっていうのは……」
「ああ、なんでも、他の生徒を庇いながら、一瞬の内に10発以上殴ったらしいぜ」
「いいや、魔法でぶっ飛ばしたって聞いたぞ」
「マクルドキラー」
……なんだが、様々なことを言われているが一つ訂正させてもらうと
俺は魔法が使えないんだが……
しかもマクルドキラーってなんだ?
俺は誰も殺してないぞ?
「なんか、いろいろ言われているな」
「う、うん、注目されてるね」
「だな」
せっかく、朝からいい気分だったのに……。
ハァ~とため息をつきながら俺たちは教室へ向かった。
そういえば、昨日は朝の一件以来教室にマクルドが戻ってくることはなかったが
今日は教室にいるだろうか。
俺はふとそんなことを考えながら1-Eの教室のドアを開け、中へ入った。
あ……いた。
マクルドは相変わらず、制服を着崩しており、自分の机に座っていた。
マクルドと一瞬だけ目があったが、
「チッ」
っと、向こうが舌打ちをして、俺から視線を外した。
きっと怒っているんだろう。
だが、俺の知ったことではない。
奴の方からロミオへ謝罪の言葉などがあれば、俺だって普通に接しようとは思える
だが向こうがロミオへの態度を改めず
反省の色がないのなら、俺だって遠慮するつもりはない。
俺たちは自分の席まで向かい椅子に座る。
「……」
……なんだか、クラスの連中から距離をとられている気がするんだが。
それに、さっきから視線を感じる。
俺は視線に気づき、ハッと視線の先へ目をやるも
……誰もいない。
気のせいか?
そうこうしていると、教官が教室へやってきて、講義開始のチャイムが鳴ると同時に講義が始まった。
そして午前の講義が終わり昼休みになった。
俺とロミオは売店で昼飯を買い、中庭のベンチで食べていた。
ここはロミオが普段昼食をとっている場所らしい。
学校同様、中庭もかなり広く、中央には大きな噴水がある。
地面は人が歩く通路を除き一面芝生が敷かれており、その上にいくつかベンチが設置されていて、辺り一面に花まで植えられている。
なんとも上品な作りだ。
ほとんどの学生は食堂を利用しているが、俺たちのように売店で買ったり、弁当持参の生徒にはここは定番スポットらしい。
俺たちの他にもちらほらと中庭で昼食をとっている生徒がいた。
これだけ、日当たりもよく、綺麗な中庭なら定番スポットになるのも納得だ。
俺は売店で買った、カツサンドと握り飯を食べ終えた。
が……
ぎゅるるるるるるる。
……。
「それだけで足りるのか?」
俺は隣に座っているロミオへ話しかけた。
ロミオはジャムパン1つとミルクのみだ。
俺はカツサンドと握り飯を2つ食べているというのに
足りないんだが……
「うん、これも全部食べ切れるかな……」
ロミオは食べかけのパンを見つめて言った。
「そうか、ロミオは小食なんだな」
「そ、そうかな? ユーリは足りなかった?」
「ああ、……明日から弁当でも作ってこようかな」
俺はそういって空を見上げた。
実際、弁当をあと1つは普通に食べられるくらい腹に余裕があった。
弁当を作ってくれば、昼飯が足りないといった不足の事態も防げるだろう。
そうこう考えていると、ロミオが少しの間をあけて、呟くように口を開いた。
「……じゃあ、……僕が作ろうか?」
「え?」
俺はロミオへ目をやると、ロミオは顔を赤くして、下を向いていた。
そして、
「えっと、その……ユーリさえよければ……だけど」
と付け加えた。
俺はそのロミオの態度に少し、ドキっとしてしまった。
いや、ほんと
ほんの少しだけな。
ロミオは男、ロミオは男、ロミオは男……
「……って、いやいや、晩飯を作ってくれるだけでも、ありがたいのに、そんな弁当まで―」
俺の言葉の上からかぶせるようにロミオが話す。
「僕も!……ユーリの家にお世話になってるから、……僕にできることなら何でもしてあげたいんだ」
ロミオが勇気を振り絞って、言ってくれているのが伝わった。
俺はそんなロミオの思いを無下にはしたくなかった。
「そうか、……ならお願いしていいか?」
「うん、任せて」
そういって、ロミオは笑顔を見せた。
なんというか、穏やかだ。
「―おい、てめぇ、昨日はよくもやってくれたな」
……が、穏やかな昼休みに、穏やかとは程遠い言葉が
俺たちの背後から飛び込んできた。
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