第50話 秋の戦略

秋は明るく笑って席に向かう。

軽やかなテンポ、早いリアクション。

「すごいですね、ホストさん!羽振りの良さが他の人と違います!」

笑い声が弾む。

テンポの良さで場をつかむのは、秋の得意分野だ。


秋は三人組のホスト客のテーブルへ歩み寄る。

すぐに隣の席に座らず、少し離れて立つ。

(全員に、平等に印象を残す。)


一人目のグラスを見て言う。

「炭酸、もう抜けちゃってますね。私、替えてきますね。」


軽い会話。だが“お世話感”ではなく、

観察されていた安心感を与える。


次のホストに目を向ける。

「そのネクタイ、色変わりますよね。光の角度で。」

相手は驚いた顔をして、少し笑う。


三人目には、

「左の袖、少しだけまくりますよね。癖ですか?」

と言いながら、自分も袖を少し折る。

“合わせ”で無意識の親近感を作る。


──三人とも、それぞれ違う“刺激”を受ける。



「…秋のやつ、何してんすかね?」

佐川がぼそりとつぶやく。


「秋は“リーチ型”の接客だ。」

「リーチ型?」

「薄く広く、でも確実に残す接客」

店長はコーヒーを手に取り、静かに言った。


「コーヒーが特別にうまいわけじゃない。

でも帰る頃には、“あの店員、感じ良かったな”って思う店ってあるだろ?」

「あー、あります。個人店とか。」


「名前を聞かれたわけでも、連絡を取ったわけでもない。

ただ、カップを手渡す一瞬の“間”が柔らかい。」



秋はグラスを片付けながら、静かに満足した。


(一人を狙うより、三人に残る。

 それが私のリピート導線)


「なんか秋ちゃん、めちゃくちゃ可愛いよな。」

ホストたちが顔を見合わせる。


──そこに、ルナの沈黙がゆっくりと重なっていった。

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