第49話 来店

──翌日。

Velvetのホスト数名がQ.E.D.に来店した。

黒服の背後には、シュンがいた。


「……ホストか。」

低い声。

黒服が小さく頷く。しばらく沈黙。


店長は、ゆっくりと煙草を灰皿に押しつけた。

「シュン、だと?」


黒服が確認するように目線を送る。


店長は短く息を吐いた。

「……あぁ。そうだな。あいつならいいか。」


黒服が一瞬だけ驚いた顔をしたが、何も言わず頷いた。


「春……は今日休みだな。

それなら月子につけろ。様子を見ろ。」


──理由は誰にも説明されなかった。

けれどその一言で、

“店の空気”が静かに変わった。



「こないだのお礼。今日は客として来たよ。」

「……わざとね。」

ルナはグラスを拭きながら言った。

(遅延効果を、試されてる。)


秋も少し離れた席で見ていた。

「ホストさん来てますよ、私も行っていいですか?」

「ええ。好きにして。」


シュンはルナの苛立つ顔を見て、

笑いながらつぶやく。


「ねぇ、秋ちゃん。君と、そこに座ってる月子さんでゲームしない?」

「ゲームですか?」

「そ。俺ら3人が指名したくなる方を選ぶ。

負けた嬢は、勝った嬢の言うことを聞く。」


秋は少し息を呑んだ。

(ルナさんに勝てば、証明できる。私が“娘”として選ばれるって。)


「……じゃあ、もし私が勝ったら」

秋は一瞬、唇を噛んだ。


「月子さん。私と一緒に住んでください。

もっともっと沢山教えて欲しいんです」


フロアの空気が一瞬止まった。

シュンが面白そうに笑う。

「ずいぶん個人的だね。」


ルナはグラスを置き、静かに言った。

「いいわ。その代わり――

もし私が勝ったらこの卓の売り上げは全部私のもの」

ルナはシュンを見る


「秋。あなたが“安心”を求めるなら、

私は1000万の為に“売り上げ”を求める。


一年で1000万稼ぐ。そのために歌舞伎町に居る」


「うん。いいよ。面白い。

秋ちゃんが勝てば月子ちゃんと住む。


…月子ちゃんが勝てば」


シュンは口角を上げ、指先でメニューを軽く叩いた。


「俺が70万のシャンパンを入れよう」


二人の視線が交差する。

それだけで、勝負の温度が変わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る