第15話 子役からキャバ嬢へ
「小山 夏 5歳です
役者歴は五年目です」
「うん…いいね。夏ちゃんがいると数字になる」
オーデションは落ちたことがない
──拍手の音は、家の不仲を一瞬だけ忘れさせてくれた。
「すごいよ夏!やっぱりうちの子は天才だ」
父の笑顔を見たのは、そのときが最後だったかもしれない。
母と父は喧嘩ばかりだった。
けれど、テレビの前で私が子役として映るときだけは、二人とも隣に並んで座っていた。
──だから私は舞台に立ち続けた。家族をつなぎ止めるために。
最初は簡単だった。
「可愛い」だけで役はもらえた。
笑えば笑うほど、父も母も笑った。
それが私の居場所だった。
「夏ちゃん。主演のドラマ好調だね」
「夏ちゃんがいれば数字は安定だよ」
けれど、子どもは大人になる。
成長とともに「数字」がすべてになった。
「小山 夏 14歳です
役者歴は14年です」
「あー…小山夏ね。懐かしい。
なんか前より華がなくなったね」
オーディションに落ち、プロデューサーは冷たく言った。
「夏ちゃんを主演にしても数字は取れない」
──数字。
努力や夢じゃなく、ただの数字。
その一言で、家族は再び喧嘩を始め、やがて離婚した。
私が存在する意味は、もうどこにもなかった。
……ならば。
「舞台を変えればいい」
「小山 夏 20歳です
役者歴は20年です」
昼の芸能界は私を捨てた。
けれど夜の街は、私の“演技”を必要としてくれた。
笑顔も涙も、すべて計算し尽くした芝居。
舞台の上で演じ切ることができれば、拍手ではなく金が降ってくる。
煌めくドレス、照明、そして視線。
それはテレビカメラの代わりに、VIPルームのライトとスマホ画面に変わっただけ。
──昼の舞台で私は降ろされた。
なのに、月子のあの顔
当時のがむしゃらに役をとりに行くわたしとそっくりで
「…努力しても選ばれない役もあるんだよ」
夏は独り言のように漏らした
それは自分自身に呪いをかけているようだった
夏の夜は、果てしなく長い。
うだるような暑気がアスファルトにまとわりつき、
ネオンの光だけが街を飾っていた。
高層ビルの窓際に立ち、
彼女はガラス越しに広がる歌舞伎町の夜景を見つめる。
煌めく光の一つひとつが、舞台の観客のように思えた。
──昼の舞台では居場所を失った。
「だからこそ、夜の舞台でだけは輝いてみせる。」
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