第14話 子役

──コメント欄はまだ荒れていた。

〈夏ちゃん圧勝確定〉

〈新人が1000万とか夢見すぎw〉

〈勝負させたら面白くね?〉


「勝負、か」

夏は画面に向かってウィンクをした。

「いいね、それ。舞台は整ったね」


客席がざわついた。

「夏ちゃんがやるなら見たい」

「来月は通うわ」


──空気は一瞬で出来上がった。


「……店長」

夏が振り返る。

「客が望むなら、やらせてあげたら?」


店長は葉巻に火を点け、ゆっくりと煙を吐いた。

「…うん。いいだろう。来月の売上勝負、月子 vs 夏」


「ふふ、決まりだね」

夏がカメラに向かって笑う。

「みんな〜、来月は絶対見逃さないでね!」


配信を切った瞬間、空気が変わった。

夏の笑顔は跡形もなく消え、鋭い視線だけが残る。


「ねえ、月子」

囁きは氷のように冷たい。

「あんたみたいなブッサイクが勝てるわけないでしょ」


ルナは一瞬、言葉を飲み込んだ。

だが次の瞬間、頭の奥でカチリとスイッチが入る。


「……ありがとうございます」


夏の眉がわずかに動いた。

「は?」


「賛否両論の中でも、私を支持してくれた方のコメントが数件ありました。

 いいデータが取れました。これは数字につながる。ありがとうございます」


夏の唇が引き攣る。

「……あんた、" プロデューサー "気取り? 偉そうに」


その声音には、遠い記憶を抉られるような怒気が混じっていた。

──子役時代の傷。

「夏ちゃん、一生懸命なのは伝わるけど…もう君の演技で数字は取れない」

「夏ちゃんを主演にするより他の子を使った方が数字になる」


「…?」

ルナは知らずに、その地雷を踏み抜いたのだ。


(……この人の強さの裏に、何かある)


ルナは胸の奥でそう確信していた。

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