一夜をわたる

青野 朔

一夜をわたる


うっすらとひびの入ったマグカップくちびるだけは傷ついていた


人生は最後にしたい トローチの薄いリングを舌で押し割る


いつまでも風は強くて傘も帆もただ待っていた、黙っていた


真夜中のいちばん深いところには風に震えて立つ避雷針


稲妻のように蜘蛛の糸のようにここまで届く唯一の声


少女は、とあなたが言ってわたしにはまだそのわたしが生きてると知る


まなうらにゆれる自分の足先を歌のあいだは忘れて泣いた


たかが歌たかが音楽に照らされてたかが命でわたる一夜ひとよ


いにしえの呪文をちいさく呟けばただそれだけの意味のあること


その日々の続きを知ったうつくしい鳥たちずっと遠くまでとべ

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一夜をわたる 青野 朔 @aonosaku31

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