第2話 あるパーティの追放劇 その1
別れの酒場ダイルにあるパーティのメンバーがやって来た。
店員に予約席に案内される。
そこには豪華な料理が並べられていたが、店に先に来ていた先輩冒険者が既に料理に手を出していた。
先輩冒険者はメンバーが到着したのに気づき声をかける。
「おう、遅いぞお前ら!」
勝手に始めて食い散らかしている先輩冒険者にやってきた者達が不機嫌な顔をするが彼は気づかない。
「すまなかったな」
そう言ったリーダーだが、全く気持ちはこもっていなかった。
「まあいいぜ。それよりCランク昇格よくやったな!俺も鼻が高いぜ!わはははっ!」
先輩冒険者はそう言うと骨付き肉にかぶりつき豪快に咀嚼する。
彼を他のパーティメンバーが冷めた目で見つめる中でリーダーが言った。
「ああ、ありがとよ」
食事が大方終わったところで先輩冒険者が言った。
「実はお前らに大事な話があんだ」
「奇遇だな。俺達もだが先にあんたの話を聞こうか」
「悪いな。話というのは今後のことについてなんだ」
その言葉を聞いてリーダーとメンバーの盗賊と女戦士が視線を交わし合う。
それに気づかず先輩冒険者が言った。
「これからは俺がこのパーティのリーダーをやろうと思う」
「「「……は?」」」
三人は彼の口から予想外の言葉が飛び出し唖然とした顔をする。
彼は気にせずそのまま続ける。
「お前らがCランクになり、Dランクである俺より上になった」
「そうだ。下のランクの者がリーダーになるなんて普通はありえないぞ」
「確かにな」
先輩冒険者はリーダーにそう答えて頷いたもののそれで終わらない。
「だが、考えてもみろよ。俺がこのパーティに入ってやった時だって俺の方がランクが上だった。二ランクもな。だが、俺はリーダーをお前に任せた。何故だと思う?」
その問いにリーダーではなく盗賊が答えた。
「あんたがリーダーをやりたいというのを俺ら全員が拒否したからだ」
「違う」
「「「はあ!?」」」
事実をあっさり否定されて彼らの頭は追いつかない。
彼はリーダーに顔を向けて持論を続ける。
「俺がお前の成長を見守ることにしたからだ」
「……そうか」
リーダーはなんとかその言葉を絞り出す。
「あんたね……」
女戦士が文句を言おうとするのをリーダーが手で制した。
「ちょっと!なんで止めるのよ!?」
「話は最後まで聞こう」
「これで最後なんだから」と小声で続けたことで女戦士はおとなしくなった。
リーダーの声は先輩冒険者には聞こえていなかったようだ。
リーダーが彼に先を促す。
「それで、なんでリーダーに?」
「言っただろう。これまではお前のリーダーとしての資質を見てたんだ。だが、やはり俺がやった方がいいとの結論に達した」
そう言った先輩冒険者だが、具体的にどこに問題があるかは言わなかった。
「「「……」」」
「安心しろ。俺がリーダーになったからって大きな変更はしないぜ。わはははっ!」
「「「……」」」
彼の笑いが収まったところでリーダーが口を開く。
「じゃあ、今度は俺達の番だな」
「おう!新リーダーに遠慮なくなんでも言ってみろ!」
彼の頭の中ではもうリーダー交代は確定しているようだった。
「じゃあ言わせてもらう。俺達はあんたとは別の道を進んだ方がいいと思う」
リーダーが神妙な顔つきでそう言うと彼は驚いた顔をした。
「いや、待て待て!俺がリーダーになるからってお前が抜ける必要はないんだぞ!」
「「「は?」」」
彼の言葉にリーダーだけでなく、盗賊と女戦士も思わず言葉を発していた。
彼は気にすることなく気持ちよさそうに先を続ける。
「リーダーには俺がなるがこれからもお前には力を貸してほしいと思っている。だからそんなこと言わなくていいんだぞ。がはははっ!」
「「「……」」」
リーダーは彼には遠回しの言葉は通じないと察した。
「今のは俺が悪かった」
「気にすんな。がはははっ」
リーダーは今度は勘違いされないようきっぱりと言った。
「俺達のパーティからあんたには出て行ってもらう」
「おう、そうか」
彼は残っていた骨付き肉を手に取るとかぶりつき、もぐもぐ。
更にかぶりつき、もぐもく。
そこでやってリーダーの言ったことが理解できて、肉を強引に飲み込むと顔を真っ赤にして怒鳴った。
「ざけんな!そりゃ俺をパーティから追放するって意味か!?あん!?」
リーダーが静かに頷いた。
「言葉は悪いがその通りだ」
「ざけんな!」
盗賊と女戦士がリーダーの先を続ける。
「今日のこの会は俺達の昇格祝いじゃなく、あんたとのお別れ会なんだよ」
「あ、昇格祝いは私達だけで別に行うから心配しなくていいわよ」
「ざけんな!」
納得できず怒りまくる先輩冒険者にリーダーが言った。
「俺はあんたも別れることを覚悟してると思ってたぜ。後輩に追い抜かれるなんて屈辱だろ。あんたが俺達に話があると言った時、てっきりパーティを出ていくもんだと思っていたぜ」
彼は全く覚悟していなかった。
ランクが下になってもこれからもずっと冒険者の先輩であることを前面に押し出して彼らと冒険を続ける気満々であった。
ただ、ランクが彼らより下になった以上、これまでのように先輩だからと威張るは難しいと考えた結果、リーダーになろうと思ったのである。
彼の危機察知能力は正常に働いたがその対応がおかしかったのである。
「お、俺はそんな些細のこと気にしねえ!寛大だからな!」
「そうか」
「おう!」
「あんたの考えはわかった。理解はできんがな」
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