クズがざまあされる、ただそれだけの話

鳥頭さんぽ

第1話 別れの酒場ダイル

 俺は酒場ダイルの店主だ。

 ダイルってのはこの店を始めた俺のじいさんの名前だ。

 かつては二階を宿にしてたんだが親父の代で辞めちまった。

 何故辞めちまったかって?

 それはこの酒場に関する噂のせいだ。

 この酒場で飲むやつらは何故か争いを始めるんだ。

 そんでそいつらは関係を終わらせる。

 そんなことが続いて“別れの酒場”なんて嬉しくない噂が流れるようになった。

 その噂を耳にして仲のいいパーティ、カップルが興味本位でやって来た。

 そいつらの何組かは突然、方向性の違いや相手の嫌な点に気づいていい争いを始めて別れちまった。

 その場では別れなくても後で別れたってパターンもあったな。

 宿屋をやってるときなんか部屋で殺し合いを始める奴らもいた。

 で、親父が仲裁に入って危うく殺されそうになってな、「巻き添いはごめんだ」ってことで宿屋をやめて酒場だけすることにしたんだ。

 酒場だけ残したのは流石に店じまいしちまったら生活できねえからな。

 そんな悪い噂が立って店はやっていけるのかって疑問に思うだろう?

 やって行けるのさ。

 一人で飲みたい奴らが好んでやってくる。

 ついて来ようする者達もここで飲むと知ると遠慮すんのさ。

 あと別れたい奴らだな。

 長く付き合えば相手の嫌な面も知ることになる。

 ただ直接口に出したくない者もいる。

 そんな者達がここを利用するんだ。

 それで相手は別れたいって気づくわけだ。

 ああ、そうそう。

 まだ興味本位でやってくる奴らもいるな。

 そいつらがどうなったかは知らん。

 興味ないからな。



 今晩、四人組の冒険者パーティが予約していた。

 彼らはこの街に初めて来たらしい。

 俺も商売なんで自分の店の悪い噂をわざわざ話したりはしないが、子供の頃からこの店の手伝いをしてたから客の顔見りゃ大体わかる。

 予約しに来た者は俺の店の噂を知っている。

 知っていて予約したのだと。

 つまり別れたいメンバーがいるのだろう。



 夕方、そのパーティのメンバーが一人先にやって来た。


「おい!オヤジ!酒もって来い!料理もどんどん並べてくれ!」

「へい。けど、先に始めちまっていいのかい?」

「かまわん!がははっ!」


 今の会話だけで確信したね。

 ああ、こいつと別れたいのだと。

 きっとこいつの我儘に付き合いきれなくなったんだろう。

 しかし、当人はそのことを知らないようでなんか楽しそうだった。


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