第14話

 第1試合が終わり、紗雪は目を見開いて驚いていた。


「凄い……!これが護りてたちの戦いなんですね。魔法みたい」

「ふふ、そうね。確かに一般人にはできない技ばかりだものね。今使われたのは呪符と人型ね」


 護りての術に疎い紗雪のため、幸江は解説をしていく。呪符じゅふを用いる符術は予め札に「どんな現象を引き起こすか」を書き、霊力を込めて道具として扱うことにより、望んだ現象を引き起こす。人型ヒトガタはその現象を式神に限定することで効果を強くするものなのだが、今回芦川は見た目で欺くために敢えて人型ヒトガタを使ったのだろうとの事だ。


 陰陽五行の関係は紗雪も小耳に挟んだことがあったので、なんとなく理解した。それにしてもあの短い時間でのやり取りの多さと手の内を分かっているどの属性で仕掛けるか、得意属性と苦手な属性、得意技をお互いに読みつつ展開する。

 更に幸江曰く芦川は目の前に3枚の人型を分かりやすく配置していたが、あと2枚実は出していたようだ。その内1枚が神代を捕縛した上に配置していたもので、実は後方足元にももう1枚避けられた時の予備で準備していたらしい。

 もう語彙力が喪失して「凄い」としか言えなくなってしまう。


「紗雪さんがそんな風に喜んでくれるなら、僕も今度式神見せてあげるよ!」

「まあ、本当?嬉しいなぁ~」


 くすくすと楽しそうに話す弟妹たちを見て、隼もまたほっこりとしてくる。本来はこうだったんだと思えば、紗雪を自分たちから奪った水卜の女が許しがたいが、反面それに守られていた一面もあるので気持ちは複雑だ。


「隼兄さん!次の試合が始まるわ、九十九の呪具は私は分からないから教えてくださいね!」

「みんな詳しいんですねぇ、私も勉強しないと……」

「大丈夫、まだまだ時間はあるし俺たちに分かる事なら教えるよ。」

「はい、ありがとうございます!」


 九十九悠斗と木崎晃の試合は一貫して木崎が有利に進めていた。木崎は如月の一族らしく力押しで進めたことと、九十九悠斗は双子の弟蓮斗と2人揃ってこそ本来の強さが発揮できるタイプなので致し方なかった。

 とは言え直系の矜持で簡単には負けてやらない、と使い捨ての呪具を暗器のように次々と使い木崎は思った以上に苦戦を強いられて苛立った様子が見られ、当主たちからは「大人げない」と評価を下げる結果となってしまっていた。


 悔しそうにする悠斗に、蓮斗が駆け寄る様子に仲の良い兄弟であることが感じられて、たった2歳の差とは言え微笑ましく紗雪には見えていた。


「蓮斗様と悠斗様がご一緒なら、大抵の方には負けないんですけどねぇ……」

「そうなの?」

「ああ、あの2人は双子なせいか2人で1つな所がある。蓮斗は九十九よりも如月かと思われるほどの霊力の多さを持ち、逆に悠斗は霊力を扱う繊細さ、呪具への理解が非常に深い。

 更に特徴的なのは、悠斗は蓮斗の霊力を自らのものとして扱えるという特性がある。これは我々卜部に近いものだが、悠斗の場合蓮斗だけは何の制限もなく使える。だから蓮斗が敵を牽制して、悠斗が蓮人の霊力と呪具を駆使して滅殺するというスタイルを取っている」

「それは、2人セットで戦っているのを見たかったですね」

「ああ、圧巻だと思うぞ。あれはあの2人しかできないことだ」


 隼の説明を聞きながら2人を見ていたら、蓮斗の方が気付いて手を振ってくれたので、紗雪もそっと手を振り返した。

 悠斗は長髪で、蓮斗は短髪に眼鏡、流石双子特徴がないと見分けられないや、などと考えていることには気付かないといいなぁ~と思っていた紗雪だった。だが、まあ、そういう感情は得てして伝わるものだ。


「なあ、蓮斗」

「うん、入れ替わったら絶対バレないタイプだと思うよ」

「いうて、そんな事したら半殺しの目に合うからなぁ~」

「あの人、大人げないからね」

「そんな事より蓮斗、お前の試合だよ。物部からは喜一さんで良かったな」

「ああ、あの人はお人好しだからな。作戦は悠斗に任せた」

「おう!」


 九十九に割り当てられた区画に戻りつつ、ステージの正面に位置する葛木の区画を見るが葛木清一郎も有希姫も見当たらなかった。葛木の側近である、芦屋あしや湊はいつもと変わらず葛木の席の後ろに立っている。

 空白の席に座ることなく、無表情で立つ湊になんとなく怖いものを感じ、悠斗はさっと目を逸らして進んだ。触らぬ神に祟りなし、の精神だ。


 第3試合は悠斗の片割れ、九十九蓮斗と物部喜一との対戦だ。

 悠斗から蓮斗へのアドバイスは1つのみ「1点集中」だった。蓮斗の霊力を拳に集中すれば、物部の結界も恐るるに足らず。必ず割って喜一を追い詰められると。

 脳筋ぎみの蓮斗にとっては分かりやすいアドバイスで、試合開始と共に膨大な霊力に物を言わせた遠隔攻撃を仕掛けると共に喜一に接近する。

 喜一も想定内の反応ではあったが、足元に仕掛けたトラップ諸共吹き飛ばされるのは想定外で巻き上がる土煙に蓮斗を見失った一瞬に距離を詰められ、慌てて結界に蓮斗を捕獲するしか無かった。

 ホッとした瞬間、ニヤリと笑う蓮斗と目が合うが、蓮斗の拳に集中させた霊力は結界を破り喜一に直接ダメージを与えて吹っ飛ばした。文字通り瞬殺だった。


「勝者、九十九蓮斗!!」


 如月当主の声に、やれやれと喜一は立ち上がろうとすると蓮斗が手を貸してくれた。


「すみません、怪我はないですか?」

「ああ、ちゃんと結界で守られた試合で助かったよ。もちろん、無傷だよ。

 しかし、蓮斗君はまた霊力が上がったんじゃないかい?」

「うーん、オレはあんまりそうゆうの分からないんですよね。悠斗に任せてるんで!」

「はは、君たちは相変わらずだね。次も頑張ってね」

「はい!」


 爽やかに別れると蓮斗は悠斗の元に帰る。

 蓮斗は悠斗を負かせた木崎と対戦したいが、その為には2回戦目で当たる神崎昂大に勝たなければいけない。昂大は蓮斗と同じくまだ高校生だが、尊大で嫌味で好きじゃないのでちょうどいい。

 次の自分の試合までには時間があるので、霊力の回復と闘争心をギア全開まで起こさねば、とギラつく闘志を隠すこともなく九十九の待合室へと向かった。


 蓮斗と同じく、闘志を燃やしていたのは悠斗と蓮斗の従兄弟である甘楽一成だった。第4試合に出る甘楽は九十九のため、主人となる双子のため神崎の後継者と言えども無様な試合をする訳には行かない。

 神崎昂大の手の内をなるべく引き出すこと。自分が勝つことではなくその後の蓮斗へと繋げるため、あの傲慢さを最大限利用しようと考えている。煽ってくるのも想定範囲内だ、と自分に言い聞かせて試合へと臨んだ。


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