第13話
武術大会当日――。
秋晴れの気持ちの良い、日差しの中とある場所にて日本各地より護りてたちが集結していた。とはいえ、各地の守りが手薄になっては不味いのと、今回の目的の半分が紗雪のパートナーとなる者を見極めるという一面より常識の範囲での招集となった。
つまり十代後半~30歳前後までの若手で実力のある男性の護りてばかりである。
現在日本の護りては六家ろっかとその分家が担っている。元は八家はちけあったと言われているが、後継者問題や鬼との戦いで二家が無くなり、今は武闘派筆頭の葛木家を中心に六家ろっかで守っている。
葛木一族からは清一郎と共に分家筋の20代の若手代表が2人参加。
九十九からは直系の高校生の双子、九十九つくも
その神崎からは直系である神崎
物部からは当主の従兄弟に当たる物部
今回の武術大会は各家の代表、合計11名で行われる。
今代最強である葛木清一郎を除いて1回戦を行い、葛木は2回戦からの参戦となり、トーナメント方式で最強を決める。最強が必ずしも紗雪のパートナーとは限らない。事実紗雪から黒髪に大太刀使いの男以外だったこともあるとは聞いているが、白藤を生かして惡羅と対峙できるのはその男だという。
緊張感が漂う武術大会会場に紗雪は卜部徹、美由紀、そして本来であれば兄弟に当たる長男
これに護衛となる多部祐希を始めに物部から5人、葛木から5人がついて護衛を行っている。
物々しさと卜部一家と居ることに慣れない紗雪は緊張していたが、長女幸江と次男渉が気遣って様々な話をしている内に少しずつ馴染んでいけた。長男である隼は本来自分のすぐ下の妹であったはずの紗雪にどう接すれば良いか分からずにいた。
見るからに両親、そして自分たちに良く似ている紗雪を嫌ったり拒否する気持ちはない。ただ、生まれてすぐ離れてしまった妹との距離感に迷っていたのだ。
自分たちに割り当てられた観覧室で3人がはしゃいでいるのを見ていると、白藤が隼に近寄って来た。
「
「はい、白藤の君もお元気そうで」
「そなたや徹には無理をさせてすまぬのぅ。妾に戦う力がないために、苦労をさせる……」
「いいえ、俺も本来向いてないんで。自衛として武術は学んでいますけど」
「そうかえ?」
そこに葛木の者から水卜家の者たちの到着が少し遅れるとの一報が入った。
なんでも高速が渋滞して足止めを食らったらしい。武術大会は時間も必要なので、予定通りの時間で開催されることも合わせて知らされた。水卜家との対面は恐らく1回戦が全て終わった頃になるだろう、とも。
「紗雪さん、大丈夫よ。葛木様がつけた護衛は滅多な事じゃ遅れを取らないわ」
「ありがとう、そうよね……」
紗雪は再び大きな窓の外へと視線をやると、参加者11名が見えた。コロシアムのように中央に12畳ほどの四角いステージのようになっている。各護りての家は専用の観覧室がステージを囲うように作られている。
並びとしては物部、如月、卜部、葛木、九十九、神崎と並んでいる。戦闘力のない卜部を守る構成だ。神崎は監視と即応、物部は敵を拘束できるので入り口に配置されている。
そんな緊張感の中、武術大会は始まった。
1回戦は葛木一族から21歳の
対戦表は以下のようになっている。
①芦川潤vs神代勇飛
②九十九悠斗vs如月から
③物部喜一vs九十九蓮斗
④神崎昂大vs甘楽かぐら一成
⑤葛木から芦田あしだ満みつるvs崎口圭吾
葛木清一郎は神崎と甘楽かぐらの対戦で勝った方と2回戦目で当たるようだ。対戦表から見ても葛木が本命なのだろう。
参加者に如月当主からルール等を説明しているのを眺めていると、そっと葛木が振り返り目が合う。
葛木は今日も長い茶髪を緩く編んで邪魔にならないようにしていた。今日は白いシャツに黒い細身のパンツ姿だったが、相も変わらず立っているだけで色気があるが、少しだけ以前会った時と違う気がする。
とは言え、成り代わりなどではなく(あの圧倒的な存在感を真似できるとは思えない)、ほんのちょっとの差。恐らくこれから対戦があるのだから、そのせいかな?と独りで納得して紗雪は流してしまった。
第1回戦が始まると、ステージ上も観客席もしんと静まった。
芦川潤と神代勇飛、年齢も近い2人は任務でも一緒になることが多かった。どちらも分家筋では最優秀な部類で、護りての強さを表す尺度で陰陽五行から木(緑)>火(赤)>土(茶)>金(黄)>水(青)と上がって行き、最上位は中央である黒になる。
対峙している2人はどちらも青で、既にベテランの扱いだという。
神代は右手に複数の
ここで手を抜くのは相手にとって失礼でしかない、勝負は恐らく一瞬だ。
神代は「ひふみよいつむななやこことお ふるべゆやゆらとふるべ」と小さく唱えつつ、視線は芦川から一瞬たりとも離さない。芦川は悠然と立ちながら、3枚の形代を宙に浮かべていく。
仕掛けたのは神代からだった。札2枚は式神ではなく無数の炎の矢となって芦川に向かうが、芦川の正面に水の壁が出現し、炎の矢は雨のように降り注ぐが、壁を突破できない。そこに土の楔、いや、尖った丸太のような太い土の槍が水の壁を突破して芦川に襲い掛かる。
芦川は冷静に「結」と呟くと、土の槍がドゴンという重い音と共に芦川の目の前で止まる。見えない壁と土の槍とは火花を飛ばしながらぶつかり合い、にらみ合うようにぶつかり続ける。そして、数秒後土の槍が崩れた……!
「反射、倍加!」
「くそっ!」
芦川の結界が神代の術の霊力も上乗せして、神代へと返すのに対し、神代も必死で結界を張ろうとするが大技の連発の疲労で動きが鈍い、更にそこに追い打ちがかかる。「捕縛」と芦川の声が聞こえた時にはいつのまにか後ろに配置されたのか、
激しい土煙と悲鳴がステージを満たしたが、土煙が収まると神代は小さな半円の結界に守られていた。
「勝者、芦川潤!」
如月の判決と共に割れるような歓声が上がった。
歓声を受けながら芦川が神代に手を伸ばすと、苦笑して神代が手をかりながら立ち上がり、2人は如月に挨拶をするとステージを降りて行った。
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