夜空ノムコウ【カクヨム短歌賞1首部門応募作】

天野せいら

夜空ノムコウ

 夏の夜は、音が少ない。

 遠くで虫の声がかすかに響き、街の灯りは少し離れた空の端をぼんやりと染めている。ベンチに腰かけ、君と並んで見上げる夜空は、まるで透明な海の底のようだった。


「ほら、あれがこと座だよ」

 君の指が、黒い空をなぞる。その先に、小さく瞬く星。

 名前を知ったところで、手が届くわけじゃないのに、なぜだか少し嬉しくなる。


 風がふわりと吹いて、君の声をさらっていく。その瞬間、まるで短歌の一節のように、言葉が心の中で形になった。


 ——夜空越え 遠くきらめく 夏の星

 君の声さえ 風にとけゆく——


 この想いも、いつか風に溶けてしまうのだろうか。それでも、今だけは、夜空の向こうに君といた。



・・・・・・・・・・


夜空越え 遠くきらめく 夏の星

 君の声さえ 風にとけゆく


・・・・・・・・・・

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