スケールアイシステム 第1弾 -三年廃業伝説-

スケールアイシステム公式記録

プロローグ

「直接は言えなかったな……」

夕暮れのホーム。

 人々のざわめきとアナウンスが交錯する中、佐久間浩一は冷たいホームの端に立っていた。

『——まもなく三番線を列車が通過します。黄色い線の内側までお下がりください』

 スピーカーの声が、無機質に響く。

 佐久間の手にはスマホが握られていた。

 指先で文字を打ちながら、必死に何かを伝えようとしていた。

 ——俺の勤め先、峯島中央卸売で大規模な不正がある。

 ——行政契約品の私的流通、賞味期限の再ラベル、港湾優先枠の裏契約……。

 ——さらに、帳簿から“消された資金”がある。

 ——証拠は集めた。お前なら——。

「……送れ……っ」

 その瞬間、背後から気配。

 黒服の男が音もなく迫り、佐久間の肩に冷たい手をかけた。

 強い衝撃で体がよろめき、線路の方へ押し出され、反射的に振り返った。

「蓮司……?」

 声は鉄の轟きに押し潰され、空気ごと消えた。

 電車のライトが迫る。

 佐久間は血の気の失せた唇を震わせた。

「……由美……拓海……ごめん……」

 妻と幼い息子の名を呼んだ次の瞬間、身体は線路に叩き落とされ、轟音に呑み込まれた。

 スマホが弧を描いて宙を舞い、ホームに叩きつけられる。

 画面には未送信のままのメール。

 赤いマークが一度だけ点滅して、消えた。

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