雨音の書斎、魔女と眠り猫の約束【ASMR】【G’sこえけん】

☆ほしい

第1話

SE:ザーザーと降りしきる雨音。時折、少し強い風が窓を叩く。遠くでゴロゴロと雷が鳴っている。


SE:木の扉が、ギィ…と重い音を立てて開く。


SE:雨音に混じって、リディアの小さな足音が木の床を歩く音。(コツ…コツ…)


リディア:

(正面・少し遠くから、心配そうに)

あら…? こんな夜更けに、どうしたの?

びしょ濡れじゃない…。可哀想に。さ、お入りなさい。大丈夫、怖くないわ。


SE:リディアがしゃがみこむ衣擦れの音。


リディア:

(正面・近距離、優しく)

よしよし…。雷、怖かったわね。震えているじゃない。

…ふふ。綺麗な黒い毛並み。お鼻のところが少しだけ白いのが、チャームポイントね。

首輪は…してないみたい。迷子かしら。

とにかく、まずは体を温めないと。風邪をひいてしまうわ。

さ、こっちへ。暖かい暖炉のそばへ行きましょう。


SE:リディアが立ち上がり、ゆっくりと歩き出す足音。それに合わせて、リスナー(猫)の小さな足音も続く。


SE:パチパチと薪が爆ぜる、暖炉の音。近づくにつれて、その音が大きくなっていく。


リディア:

(少し右寄り・中距離)

はい、どうぞ。ここが一番暖かい特等席よ。

…うん、少し落ち着いたかしら。

ちょっと待っていてね。今、体を拭くものを持ってくるから。


SE:リディアが少し離れていく足音。数秒後、棚の扉を開け、何かを取り出す音。柔らかい布(タオル)が擦れる音。


SE:リディアが戻ってくる足音。


リディア:

(正面・近距離、囁きに近い声で)

お待たせ。これで、優しく拭いてあげる。

…ごめんね、ちょっとだけ冷たいかもしれないけど、我慢してね。


SE:ふわ、ふわ、と柔らかいタオルで体を拭かれる音。ゴシゴシではなく、水分を吸い取るような優しい音。リディアの細く長い息が時折混じる。


リディア:

(右耳へ、囁きで)

まずは、お顔から…。うん、綺麗になった。

次は、お耳の後ろ…ここ、濡れたままだと気持ち悪いものね。

…よしよし。


SE:タオルで拭く音が、体の側面、背中へと移動していく。


リディア:

(左耳へ、囁きで)

背中も、お腹も…ああ、冷たい…。

本当によく頑張って、ここまで来たわね。偉いわ。

…尻尾の先まで、ちゃんと拭いて…。

はい、おしまい。


SE:タオルを置く、軽い音。


リディア:

(正面・近距離、微笑むように)

ふふ、さっきよりずっとふわふわになった。

暖炉の火で、すぐに乾くわ。

…私の名前はリディア。この森の奥で、薬草の研究をしているの。…まあ、世間の人は、私のことを『魔女』って呼ぶけれど。

あなたのお名前は? …ううん、いいの。今はまだ、名乗らなくても。

今夜は、安心しておやすみ。ここは安全な場所だから。


(間。暖炉の音と雨音だけが響く)


リディア:

(少し立ち上がりながら)

さてと…。私は、少しだけ仕事の続きをしないと。

締め切りが近い研究論文があって…。

あなたは、ここでゆっくりしていていいからね。眠たくなったら、そのまま眠ってしまっていいのよ。


SE:リディアが書斎の中央にある大きな木の机へ向かう足音。椅子を引く音。


リディア:

(中央・中距離、独り言のように)

ええと…どこまで進めていたかしら。

ああ、そうそう。『月光草の変質に関する一考察』…。

参考文献は…これね。


SE:分厚く、大きな古い本を机に置く音(ドン…)。革の表紙がギシ…と軋む音。


SE:リディアがゆっくりと、乾いた紙のページをめくる音。(パラ…パララ…)


リディア:

(集中した小さな声で)

第3章…『銀の光が及ぼす触媒効果』…。

ふむふむ…。やはり、満月の夜に採取したものが最も純度が高い、か。

私の仮説と同じね。


SE:インク瓶の蓋を、きゅ、と開ける音。羽根ペンをインクに浸す音(トプン…)。


SE:羽根ペンが、ざらついた羊皮紙の上を走る音。(カリカリ…カリ…サラサラ…)

リディアの集中した、静かな呼吸が聞こえる。


(間。ペンを走らせる音、ページをめくる音、暖炉の音、雨音がしばらく続く。単調にならないよう、時々リディアが「うーん…」と考え込む声や、小さく息をつく音を挟む)


リディア:

(ペンを置いて、ふぅ、と息をつく)

…よし。今日のノルマはここまで、かな。

(こちらを振り返る気配)

…あら。


SE:椅子から立ち上がり、こちらへ近づいてくる足音。


リディア:

(正面・近距離、しゃがみこんで)

まだ起きていたの?

私の作業する音が、うるさかったかしら。ごめんなさいね。

…ん? (猫がリディアの足元にすり寄るのを表現)

ふふ、どうしたの? 甘えん坊さんね。

…そうね。こんな雨の夜は、一人じゃ少し、寂しいものね。

私も、あなたがいてくれて、嬉しいわ。


(間)


リディア:

そうだわ。

あなたのために、特別に、よく眠れるようになる魔法の薬…ううん、飲み物を作ってあげましょう。

体も温まるし、きっと、素敵な夢が見られるはずよ。

少しだけ、待っていてくれる?


SE:リディアが立ち上がり、部屋の奥にある調合台の方へ歩いていく足音。


リディア:

(少し離れた場所から)

ええと、材料は…。

まずは、カモミール。心を落ち着かせる効果があるの。


SE:乾いた薬草を、カサカサと手で掴む音。


リディア:

それから、ほんの少しのラベンダー。安らかな眠りを誘う香り。


SE:別の薬草を掴む音。


リディア:

これを、このすり鉢で、優しくすり潰していくの。


SE:薬草を、陶器のすり鉢に入れる音(サラ…)。


SE:すりこぎで、薬草をすり潰す音。(ゴリ…ゴリ…、サリサリ…)

音に集中し、リズミカルに、しかし優しく。


リディア:

(囁き声で、作業しながら)

こうして、ゆっくり、ゆっくり…。

急いではだめ。魔法の力を、壊さないように…。

香りが、立ってきたでしょう?

甘くて、少しだけ、すーっとするような…。癒やしの香り。


SE:すり潰す音が止まる。


リディア:

よし、こんなものかしら。

次は、温かいミルクを準備しましょうね。


SE:小さな棚を開ける音。ガラス瓶を取り出す音。

SE:コルクの栓を「ポン」と抜く音。


SE:小さな鍋に、ミルクを注ぐ音。(トクトクトク…)


リディア:

これは、近所の農場から分けてもらった、特別なミルク。

お日様の光をたくさん浴びた牧草を食べて育った牛さんの、優しいミルクよ。


SE:鍋を、コンロ(魔法のかまどをイメージ)に乗せる音。

SE:小さな火が「ポッ」と灯り、コトコトと穏やかに温められていく音。


リディア:

温まってきたら、さっきの薬草を入れて…。


SE:粉末状の薬草を、サラサラと鍋に入れる音。


リディア:

金属のスプーンで、優しく混ぜてあげる。


SE:金属のスプーンが、鍋の側面や底に当たりながら、液体をかき混ぜる音。(カチャ…コーン…クルクル…)


リディア:

(囁きで)

美味しくなあれ、安らかになあれ…。

私の、小さな、可愛いお客さまが、今夜、素敵な夢を見られますように…。

(微笑む息)

…うん、できたわ。


SE:火を消す音。鍋を火から下ろす音。


SE:マグカップに、温かいミルクを注ぐ音。(トポトポトポ…)


リディア:

(こちらに戻ってくる足音)

お待たせ。

さあ、どうぞ。火傷しないように、気をつけて。


SE:リディアが床に座る衣擦れの音。マグカップを床に置く音(コトン)。


リディア:

(正面・至近距離)

熱いかもしれないから、私が冷ましてあげる。

ふー…、ふー…。


SE:ミルクを冷ます、優しくて長い息の音。左右の耳元で、交互に。


リディア:

(右耳へ、囁きで)

もう大丈夫かな。

ほら、飲んでみて。


(間。リスナーがミルクを飲む音を想像させるための、静寂)


リディア:

(優しく)

ふふ、美味しい? よかった。

…たくさん、お飲みなさい。


(間。暖炉の音、雨音)


リディア:

(正面・近距離)

…あら。お顔に、ミルクのおひげができてる。可愛い。

(優しく指で拭う仕草)

…ん。取れたわ。


(間)


リディア:

なんだか、眠たくなってきたみたいね。

目が、とろんとしてる。

…いいのよ。もう、頑張らなくて。

私の膝の上へ、いらっしゃい。


SE:リディアが自分の膝を軽く叩く音。リスナー(猫)がその膝の上に乗る、衣擦れの音。


リディア:

(とても近く、安心させるように)

よしよし…。重くないわよ、全然。

あなたは、羽みたいに軽いもの。


SE:リディアの指が、リスナー(猫)の頭や背中を、ゆっくりと撫でる音。衣擦れや、爪が毛を梳くような微かな音で表現。


リディア:

(右耳へ、囁きで)

気持ちいい?

ここの、耳の後ろをこうして…くすぐったいかしら。

ふふ。


SE:指で撫でる音が続く。


リディア:

(左耳へ、囁きで)

ゴロゴロ…って、喉が鳴ってる。

気に入ってくれたのね。嬉しいな。


(間。リディアの穏やかなハミングが微かに聞こえる)


リディア:

(正面・超至近距離、心音を聞かせるような近さで)

私の心臓の音、聞こえる?

トクン…トクン…って。

あなたと同じ。生きている音。

大丈夫。あなたは、もう一人じゃないわ。


(間)


リディア:

(囁きで)

もし、あなたが望むなら…。

これからも、ずっと、ここにいていいのよ。

私の、大切な…家族として。

…なんて。ふふ、気が早いかしら。

でも…そうなったら、素敵ね。


SE:リディアが、リスナー(猫)の額に、優しくキスをする音。(チュ…)


リディア:

(囁きで)

さあ、もうおやすみなさい。

雨の音も、暖炉の火も、あなたのためだけの、子守唄。

何も心配しないで。

私が、ずっとそばにいるから。


(間。リディアの穏やかで、深い寝息が聞こえ始める。スースー…)


リディア:

(寝言のように、ほとんど吐息だけで)

おやすみ…わたしの…かわいい…くろねこさん…。

あしたも…いっしょに…いようね…。


SE:リディアの寝息が、ゆっくりと続く。

SE:暖炉の火が少しずつ弱くなっていく音。パチ…という音が、間遠になる。

SE:窓の外の雨音も、いつの間にか、優しいシトシトという音に変わっている。


(全ての音が、ゆっくりとフェードアウトしていく)


***


SE:パチ…、パチ…と、弱くなった暖炉の火が小さく爆ぜる音。遠くから、チチチ…、ピチュ…と鳥のさえずりが聞こえる。


SE:あなたが身じろぎする衣擦れの音。ゆっくりと目を開ける。


リディア:

(すぐそば・寝息に近い囁きで)

…ん…。

…ふふ、おはよう。よく眠れたかしら。


SE:リディアがゆっくりと体を起こす、布が擦れる音。彼女の膝の上から、そっと降ろされる。


リディア:

(優しいあくび混じりに)

ふぁ…あ。

…あら。雨、すっかり止んでいるわ。見て。


SE:リディアが立ち上がり、窓辺へ歩いていく足音。重いカーテンを、ゆっくりと開ける音。(シャ…ア…)


SE:窓から朝の光が差し込み、部屋の中の空気が変わる。


リディア:

(正面・少し遠くから、嬉しそうに)

わあ…見て、綺麗な朝焼け。

昨日の雨で、木々の葉っぱが洗われて、キラキラしてる。

空気も、なんだか澄んでいるみたい。気持ちのいい朝ね。


(間。鳥のさえずりがはっきりと聞こえる)


リディア:

さてと、朝の準備をしましょうか。

まずは、暖炉にもう少し薪をくべて…。

それから、朝ごはんね。あなたも、お腹が空いたでしょう?


SE:リディアが暖炉のそばへ移動する足音。薪置き場から、乾いた木を数本取り出す音。(カラン…コロン…)


SE:火かき棒で灰をかき分け、新しい薪をそっと置く音。


リディア:

(囁きで)

よし…これで、またお部屋が暖かくなるわ。


SE:リディアが立ち上がり、部屋の奥にある台所スペースへ向かう。


リディア:

(少し離れた場所から)

あなたは、そこにいていいのよ。

すぐに美味しいもの、用意してあげるから。


SE:戸棚を開け、食器を取り出す音。(カチャ…コトン…)


SE:金属のやかんに、水差しから水を注ぐ音。(トクトクトク…)


リディア:

まずはお湯を沸かして、ハーブティーを淹れましょう。

今朝は、ミントとレモンバームにしようかしら。すっきりして、目が覚めるの。


SE:やかんをコンロに乗せる音。火が「ポッ」と灯る音。


リディア:

それから…パンを焼きましょうね。

昨日焼いた、ライ麦のパンがまだ残っているはず…。


SE:パンを保管している箱を開ける音。パンを取り出し、まな板の上に置く音。


SE:パン切りナイフで、パンをスライスする音。(サク…サク…)


リディア:

(鼻歌交じりに)

ふふん…♪

一人きりの朝ごはんも慣れていたけれど…誰かのために準備するのって、なんだか、いいわね。

心が、ぽかぽかするみたい。


SE:お湯が沸き始め、やかんが小さく音を立て始める。


リディア:

あら、沸いたみたい。


SE:火を止める音。カップに乾燥したハーブを入れる音。(サラサラ…)


SE:お湯をカップに注ぐ音。(チョロチョロ…サー…)


リディア:

いい香り…。

あなたの分は、ミルクにしましょうね。昨日と同じ、特別なミルク。

昨日のお薬は入っていない、普通の温かいミルク。


SE:小さな鍋にミルクを注ぐ音。(トクトク…)


SE:再びコンロに火をつけ、ミルクを温め始める音。


リディア:

(こちらを振り返る気配)

ふふ、いい匂いに誘われてきちゃった?

もう少しだから、待っていてね。

はい、私のパンも焼けたわ。


SE:こんがりと焼けたパンを、お皿に乗せる音。


リディア:

さあ、準備できたわよ。

テーブルで一緒に食べましょう。


SE:リディアがトレーに朝食を乗せ、部屋の中央にあるテーブルへ運んでくる足音。


SE:椅子を引く音。


リディア:

(正面・中距離)

はい、どうぞ。あなたのミルクは、このお皿に入れてあげる。

熱くないように、少しだけ冷ましてあるから。


SE:浅い皿にミルクが注がれる音。床に置かれる音。(コトン)


リディア:

(優しく)

さ、召し上がれ。


(間。あなたがミルクを飲む音を想像させる静寂。リディアがパンをかじる音、ハーブティーをすする音が穏やかに響く)


リディア:

美味しい? よかった。

たくさん食べて、元気を出してね。

今日は、きっと良い一日になるわ。


(間)


リディア:

ごちそうさまでした。

さて…朝ごはんが終わったら、少しだけ、あなたの体を綺麗にしましょうか。

まだ少し、湿っているところがあるかもしれないし。


SE:リディアが食器を片付ける音。


SE:彼女が戻ってきて、あなたの前にしゃがみこむ。


リディア:

(正面・近距離)

じっとしていられるかしら?

気持ちのいいこと、してあげる。


SE:リディアが棚から、柔らかそうな木のブラシを取り出す音。


リディア:

これはね、動物の毛を梳かすためのブラシなの。

優しく、優しく…こうして。


SE:柔らかいブラシが、あなたの背中の毛をゆっくりと梳く音。(シャ…シャ…、サワサワ…)


リディア:

(右耳へ、囁きで)

どう? 気持ちいいでしょう?

毛並みが整うと、もっとふわふわになるのよ。

…うん、本当に綺麗な黒色。光に当たると、少しだけ青く見えるのね。夜空の色みたい。


SE:ブラッシングの音が、お腹、尻尾へと移動していく。


リディア:

(左耳へ、囁きで)

よしよし、いい子ね。

次は、お顔の周り…。ここは、もっと優しくしないとね。

…はい、おしまい。


SE:ブラシを置く音。


リディア:

(正面・近距離)

それから…ちょっとだけ、お手々を見せてくれる?

…そうそう。ありがとう。


SE:リディアがあなたの前足をそっと持ち上げ、肉球を指で優しく撫でる。


リディア:

(囁きで)

ふにふに…柔らかいわね。

ここをこうして、優しく揉んであげると、血の巡りが良くなるの。

…嫌じゃない? よかった。


SE:指が肉球をマッサージする、微かな音。


リディア:

お爪も…うん、まだ短いから大丈夫ね。

無理に切ったりしないから、安心して。

はい、ありがとう。反対のお手々も。

…よし、おしまい。本当に、お利口さんね。


(間)


リディア:

(膝の上にあなたを乗せながら)

ねえ。

昨日、あなたの名前をまだ聞いていなかったでしょう?

もし、まだ名前がないのなら…私が、つけてあげてもいいかしら。


(間。あなたが喉を鳴らすのを表現)


リディア:

ふふ、いいのね。ありがとう。

そうねえ…どんな名前がいいかしら。

黒くて、綺麗だから…『ノワール』? ううん、少しありきたり、かしら。

あなたの瞳は、夜の森で光る琥珀の色みたいだから…『アンブル』? 素敵ね。

それとも、私たちが出会ったのは雨の夜だったから…夜や、星や、月にちなんだ名前もいいかもしれないわね。


SE:リディアが考えながら、あなたの頭を優しく撫でる音。


リディア:

(囁きで)

『ルナ』…『ステラ』…『ノクス』…。

どれも綺麗だけど…なんだか、しっくりこない、かな。

もっと、あなただけの、特別な名前…。


(長い間)


リディア:

(何かを思いついたように、小さく息を吸う)

…『ヨル』。

夜の、『ヨル』。

どうかしら。

静かで、穏やかで、全てを優しく包み込んでくれる…あの夜のような名前。

そして、これから始まる、新しい朝(あした)に繋がる名前。

…ヨル。

うん、いい名前だわ。あなたのための名前。


(呼びかけるように、優しく)


リディア:

ヨル。…私の、ヨル。

気に入って、くれた?


(間)


リディア:

(嬉しそうに)

よかった。

じゃあ、今日からあなたは、私の家族。ヨルよ。

…そうだわ。家族の印に、首輪を作ってあげる。

苦しくない、優しいものをね。ちょっと待っていて。


SE:リディアが立ち上がり、作業机の方へ。引き出しを開け、何かを探す音。


SE:柔らかい革の紐と、小さな鈴、道具を取り出す音。


リディア:

(作業しながら、独り言のように)

この革紐なら、肌触りもいいし、きっと嫌がらないわよね。

あなたの首のサイズは…これくらい、かしら。

少し余裕を持たせて、切って…。


SE:革用のナイフで、紐を切る音。(ス…ッ)


リディア:

そして、端に小さな穴を開けて…。


SE:専用の道具で、革に穴を開ける音。(コン…)


リディア:

ここに、この小さな銀の鈴を通すの。

あなたがどこにいるか、私に教えてくれるように。

でも、うるさくないように、とても小さな音の鈴よ。


SE:鈴が革紐に通され、チリン…と可憐な音を立てる。


リディア:

ふふ、いい音。

さあ、できたわ。ヨル、こっちへおいで。


SE:リディアが戻ってくる。


リディア:

(正面・至近距離)

つけてあげる。…少し、じっとしていてね。

…はい、できたわ。どう? 苦しくない?

…よかった。とても、よく似合っているわよ。


SE:あなたが動くたびに、首の鈴が「チリン…」と小さく鳴る。


リディア:

(満足そうに)

うん。これで、あなたはもう迷子じゃない。

私の、大切な家族。


(間)


リディア:

ねえ、ヨル。

お天気がいいから、少しだけ、外に出てみない?

私の、小さな庭があるの。薬草を育てている、秘密の場所。

きっと、気に入ると思うわ。


SE:リディアが立ち上がり、書斎の奥にある、もう一つの扉へ向かう。


SE:木の扉を開けると、外の穏やかな空気が流れ込んでくる。鳥の声が近くなる。


リディア:

さあ、行きましょう。


SE:リディアが土の上に降りる足音。それに続いて、あなたの小さな足音。


SE:そこは、色とりどりのハーブや花が咲く、陽だまりの庭。穏やかな風が吹き、葉がサワサワと音を立てている。


リディア:

(少し離れた場所から、楽しそうに)

どう? ここが、私の仕事場であり、宝物なの。

昨日の雨で、みんな生き生きしているわ。


SE:リディアが庭の中をゆっくりと歩く。土を踏む、柔らかい足音。


リディア:

少し、手入れをしましょうか。

ヨルは、そこの陽だまりで、日向ぼっこでもしていて。


SE:リディアが道具小屋から、小さなシャベルとハサミを取り出す音。


リディア:

(しゃがみこんで、作業しながら)

まずは、この辺りの雑草を抜いて…。

よいしょ。土が柔らかいから、抜きやすいわ。


SE:小さなシャベルで、サクサクと土を軽く掘り返す音。草を抜く音。(ブチ…)


リディア:

(囁きで、あなたに語りかけるように)

これはね、カモミール。

昨日の夜、あなたのミルクに入れた薬草よ。リンゴみたいな、甘い香りがするの。

ほら。


SE:リディアが摘んだカモミールの花を、あなたの鼻先に近づける仕草。


リディア:

ふふ、いい匂いでしょう?

こっちの、背が高いのは…フェンネル。お魚料理によく合うの。

あ、見て。蝶々が飛んでいるわ。


(間。穏やかな環境音)


リディア:

さて、次は…少しだけ、剪定しましょうか。

伸びすぎた枝を切ってあげると、もっと元気に育つの。


SE:剪定バサミで、細い枝や葉を「パチン、パチン」と切っていくリズミカルな音。


リディア:

このローズマリーは、お肉料理にも使うし、記憶力を良くするお薬にもなるのよ。万能なの。

…よし、綺麗になったわ。


SE:切った枝葉を、カゴに集める音。(カサカサ…)


リディア:

最後は、お水をあげましょうね。

みんな、喉が渇いているでしょうから。


SE:リディアが立ち上がり、ブリキのジョウロに水を入れる音。


SE:ジョウロから、サー…と優しい音を立てて水が撒かれる。土や葉に水が染み込む音。


リディア:

たくさんお飲みなさい。

太陽の光をいっぱい浴びて、元気に育つのよ。


(間。水やりの音が、庭のあちこちで続く)


リディア:

(ふぅ、と息をついて)

…よし、おしまい。

ありがとう、ヨル。あなたが見ていてくれたから、なんだか、いつもより楽しかったわ。


SE:リディアが道具を片付け、あなたのそばに戻ってくる。


リディア:

(隣に座り込みながら)

ぽかぽかして、気持ちがいいわね。

風も、なんだか優しいし…。

…少しだけ、眠くなってきちゃった。


(リディアの小さなあくび)


リディア:

少しだけ…ここで、お昼寝しましょうか。

ヨルと、一緒に。


SE:リディアが芝生の上にそっと横になる。


リディア:

(すぐそばで、眠そうに)

おいで、ヨル。

お腹の上、暖かいでしょう?

…ふふ。ゴロゴロ言ってる。


SE:あなたの喉が鳴る音。リディアの穏やかな呼吸。首の鈴が、時折小さくチリンと鳴る。


リディア:

(寝言のように、ほとんど吐息だけで)

…あったかい…。

…ずっと、こうしていたいな…。

…わたしの、かわいい…ヨル…。

…おやすみ…。


SE:リディアの穏やかな寝息が聞こえ始める。(スースー…)


SE:風が葉を揺らす音、遠くの鳥の声、虫の羽音。全ての音が、穏やかな昼下がりの中に溶けていく。


(全ての音が、ゆっくりとフェードアウトしていく)


***


SE:穏やかな午後の陽光。庭の木々の葉が、そよ風に揺れてサワサワと鳴っている。遠くで、カナカナカナ…とヒグラシが鳴き始めた音。


SE:あなたはリディアの膝の上で、心地よくまどろんでいる。彼女の指が、あなたの背中をゆっくりと、規則的に撫でている。衣擦れの微かな音。


リディア:

(すぐそば・あくびを噛み殺したような、眠そうな囁きで)

…ふふ。また眠たくなってきちゃったわね、ヨル。

太陽の光って、どうしてこんなに眠たくなるのかしら…。

…まるで、優しいおまじないみたい。


(間。リディアの穏やかな呼吸音と、ヒグラシの声だけが響く)


リディア:

(何かを思い出したように、小さく息を吸う)

…あ。

そうだわ。忘れるところだった。

今夜は、年に一度の流星群が見られる日だったんだわ。

空が晴れてくれて、本当によかった。


SE:リディアがゆっくりと体を起こす。あなたは彼女の膝から、そっと芝生の上へ降りる。首の鈴が、チリン、と鳴る。


リディア:

(立ち上がりながら)

とっておきの場所で見るために、少しだけ準備をしないと。

屋根裏部屋に、昔使っていた天体望遠鏡がしまってあるはずなの。

…少し、埃っぽいかもしれないけれど。一緒に行ってくれる?


SE:リディアが書斎の中へ戻っていく。コツ、コツ、と木の床を歩く彼女の足音を、あなたの小さな足音が追いかける。


SE:書斎の中は、西日でオレンジ色に染まっている。


リディア:

(部屋の隅を指差しながら)

屋根裏部屋は、この上なの。

普段はあまり使わないから、ヨルも初めて見る場所ね。


SE:リディアが壁にかかっている、古びた麻のロープを掴む。


リディア:

(少し力を込めて)

よいしょ…。


SE:ギギギ…、ギィ…ッ、と、重い木が軋む音を立てて、天井の一部がゆっくりと降りてくる。折り畳まれていた木製の梯子が、姿を現す。


SE:梯子の最後の段が、床に「ゴトン」と音を立てて着地する。


リディア:

(手をパンパンと払いながら)

ふぅ。大丈夫、ちゃんと降りてきたわ。

さあ、探検しましょう。私の後に、気をつけてついてきてね。


SE:リディアが、トントン、と軽い足取りで梯子を登り始める。木が軋む、リズミカルな音。


SE:あなたも、爪を立てながら、その後を追って登っていく。


SE:屋根裏部屋に足を踏み入れる。ひんやりとしていて、乾燥した木の匂いと、少しだけ埃の匂いがする。


リディア:

(小声で、楽しそうに)

ふふ、ようこそ。私の、秘密の宝物庫へ。


SE:リディアが壁際にある、小さな丸窓の掛け金を外す。


SE:キュ…、と金属が鳴り、窓が開けられる。外から夕方の風が吹き込み、空気が入れ替わる。ヒグラシの声が、よりはっきりと聞こえるようになる。


SE:差し込んだ光が、空気中に舞う無数の小さな埃をキラキラと照らし出す。


リディア:

(周りを見渡しながら)

わ…やっぱり、少し散らかっているわね。

お祖母様が使っていたものが、ほとんどそのままになっているの。

…望遠鏡は、確か、あの奥の隅だったはず。


SE:リディアが、屋根裏部屋の床をゆっくりと歩き始める。板張りの床が、一歩ごとに「ミシ…」「ギシ…」と小さく鳴る。


リディア:

(囁きで)

足元、気をつけてね。色々なものが置いてあるから。


SE:リディアがしゃがみこみ、古い木箱の蓋を開ける音。(パカリ…)


リディア:

これは…昔、薬草を乾燥させるのに使っていた籠ね。

まだ、ハーブのいい香りが残っているわ。

…これは違う。


SE:蓋を閉める音。別の場所へ移動する。


SE:古い布がかけられた何かを、リディアがめくる音。(バサッ…)


リディア:

あら…懐かしい。

これ、私が小さい頃に乗っていた、木馬だわ。

見て、ヨル。鬣のところが、少しだけ禿げちゃってる。

毎日、これで遊んでいたのよ。


SE:リディアが木馬を指で撫でる音。


リディア:

(少し寂しそうに、でも優しく)

あの頃は、一人でも寂しくなかった。

この子が、お話を聞いてくれるお友達だったから。

…ふふ。今は、あなたがいるから、もう大丈夫だけどね。


SE:リディアが立ち上がり、さらに奥へと進む。


SE:ガラス瓶がいくつか入った箱を、そっと動かす音。(カラン…コロン…)


リディア:

(囁きで)

ああ、あった。これだわ。


SE:大きな、長い木箱にかけられた布を取り払う。


リディア:

これが、お祖母様の天体望遠鏡。

真鍮でできていて、とても綺麗でしょう?

これで、星を見るのが大好きだったの。


SE:リディアが、木箱の留め金を外す音。(カチャ…、カチャ…)


SE:蓋を、ギ…と開ける。中に、分解された望遠鏡のパーツが、布に包まれて大切に保管されている。


リディア:

うん、大丈夫そうね。ちゃんと揃っているわ。

これを下に運んで、組み立てましょう。

…その前に。


(間)


リディア:

もう一つだけ、探したいものがあるの。

確か、この辺りの…小さな桐の箱に入っていたはず…。


SE:リディアが、棚に積まれたいくつかの小さな箱を、一つ一つ下ろしていく。


SE:箱が擦れる音、置かれる音。


リディア:

(独り言のように)

これじゃない…これも違う…。

ああ、あった。これだわ。


SE:手のひらに乗るくらいの、少し古びた桐の箱。蓋を、そっと開ける音。


リディア:

(息をのむ音)

…よかった。まだ、ここに。


SE:リディアが箱の中から、何かとても小さなものを取り出す。


リディア:

(あなたの耳元に近づいて、囁きで)

見て。

銀でできた、小さなロケット。

…少し、黒くなってしまっているけれど。

これも、お祖母様の大切な形見なの。


SE:リディアが、その小さなロケットを手のひらでそっと握りしめる。


リディア:

よし、行きましょうか。

夜が来る前に、準備を済ませてしまわないと。


SE:リディアが望遠鏡の箱を慎重に抱え、梯子の方へ戻る。あなたもその後ろをついていく。


SE:梯子を降り、書斎に戻る。外はもう、夕闇が迫っている。


リディア:

(望遠鏡の箱を床に置いて)

ふぅ。さて、まずはこれを綺麗にしないとね。


SE:リディアが望遠鏡のパーツを一つずつ取り出し、柔らかい布で優しく拭いていく。(キュッ、キュッ…)


リディア:

(作業しながら)

レンズは、特に慎重に…。

ここに傷がつくと、星がぼやけて見えてしまうから。

…よし。

本体も、優しく、優しく…。


SE:布が真鍮の表面を滑る、乾いた音。


リディア:

組み立ては、簡単なの。

こうして、この部分を差し込んで…ネジを締めるだけ。


SE:金属のパーツが組み合わさる音。ネジが「キュルキュル…」と回る音。


リディア:

はい、できたわ。

あとは、これを窓辺に持っていくだけ。

今夜は、きっと綺麗に見えるわよ。


SE:リディアが完成した望遠鏡を、窓辺に設置する。


リディア:

(満足そうに)

うん、いい感じ。

それから…さっきの、これね。


SE:リディアがポケットから、黒ずんだ銀のロケットを取り出す。


リディア:

これも、綺麗にしてあげましょう。

特別な、銀磨きのペーストがあるの。


SE:リディアが小さな瓶を取り出し、蓋を開ける。


SE:ペーストを、柔らかい布の切れ端に少量だけ取る音。


リディア:

(あなたの膝の上で、作業を始める)

見ていてね。

こうして、優しく、くるくると磨いていくの。

力を入れすぎると、傷がついてしまうから。


SE:布が、ロケットの表面を「しゅっ、しゅっ…」と、細かく、リズミカルに擦る音。


リディア:

(囁きで、語りかけるように)

このロケットね、お祖母様が、お祖父様から初めて贈られたものなんですって。

お祖母様も、私と同じで、森の奥で暮らす魔女だったの。

お祖父様は、遠い街から来た、植物学者だったそうよ。


SE:磨く音は、淡々と続く。


リディア:

二人は、この森で出会ったの。

珍しい薬草を探しに来たお祖父様が、道に迷ってしまって。

それを、お祖母様が見つけて、助けてあげたのが始まり。

…なんだか、私たちみたいね。ふふ。


(間)


リディア:

お祖父様は、お祖母様のことを、魔女だからって怖がったりしなかった。

それどころか、薬草に関する知識の深さに、とても感心していたんですって。

二人は、すぐに恋に落ちたそうよ。

そして、このロケットを贈ったの。

『君の知恵と優しさは、どんな銀よりも美しい』って、言葉を添えて。


SE:リディアが、新しい布でペーストを拭き取る。


リディア:

ほら、見て。

だんだん、元の輝きが戻ってきたでしょう?


SE:黒ずみが取れ、ロケットが鈍い銀色に光り始めている。


リディア:

(囁きで)

このロケットの中にはね、小さな、小さな…星の欠片が入っているの。

お祖父様が、お祖母様のために、夜空からこっそり採ってきてくれた、秘密の贈り物。

持っていると、心が安らぐ、お守りみたいなものなのよ。


SE:リディアが、ロケットの小さな留め金に爪をかける。


SE:「パチッ」と、小さな音を立ててロケットが開く。


リディア:

(吐息だけで)

…よかった。欠片も、ちゃんとここにあるわ。


SE:リディアがロケットを閉じる。


リディア:

よし、おしまい。

すっかり、綺麗になったわ。


(間)


リディア:

(優しく)

ねえ、ヨル。

このロケット、あなたが持っていてくれないかしら。

お祖母様も、きっとその方が喜ぶと思うの。

大切な家族が、いつもそばにいてくれる、印として。


SE:リディアが、あなたの首輪に、その小さなロケットをそっと取り付ける。鈴の隣で、銀のロケットが揺れる。


SE:あなたが少し動くと、「チリン…」という鈴の音に混じって、「カチャ」というロケットの小さな音が加わる。


リディア:

(嬉しそうに)

うん、とても素敵。

これで、あなたも、星のひとかけらを持つ猫ね。


SE:リディアが、窓の外を見上げる。空はすっかり暗くなり、星が瞬き始めている。


リディア:

さあ、見て。

星が出てきたわ。一番星よ。

そろそろ、始まるみたい。


SE:リディアがあなたを抱き上げ、望遠鏡のそばへ。


リディア:

(囁きで)

ここから、見てみましょうか。

私が、抱っこしていてあげるから。


SE:リディアが望遠鏡のレンズを覗き込み、ピントを合わせる。ダイヤルを回す、カリカリ…という微かな音。


リディア:

(興奮した、小さな声で)

わ…見える、見えるわ、ヨル。

お月様の、クレーターまでくっきりと。

…あ。


(息をのむ音)


リディア:

今、一つ流れたわ。

すごく、速くて…白くて、綺麗な光の筋。

…お願い事、しなくちゃ。


(間)


リディア:

(囁きで)

…また、流れた。今度は、あっち。

すごい…今夜は、本当にたくさん見られるみたい。


SE:リディアの、感嘆の混じった静かな呼吸音。


リディア:

(あなたに語りかけるように)

綺麗ね、ヨル。

こんなに綺麗なものを、一人じゃなくて、あなたと一緒に見られるなんて。

…私、今、すごく幸せよ。

あなたが、ここへ来てくれて、本当によかった。


SE:リディアが、あなたの額に、そっと自分の頬を寄せる。


リディア:

(心からの声で)

ありがとう、私のヨル。

私の、たった一人の、大切な家族。


SE:遠くで、フクロウが鳴く声。風が窓を優しく揺らす音。


リディア:

(囁きで)

これからも、ずっと一緒よ。

明日も、その次の日も。

たくさんの、綺麗なものを、一緒に見ましょうね。

…約束よ。


SE:あなたの首で、鈴とロケットが、チリン…カチャ…と寄り添うように小さな音を立てる。


SE:夜空には、いくつもの流れ星が、静かに、絶え間なく降り注いでいる。


(全ての音が、ゆっくりとフェードアウトしていく)

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雨音の書斎、魔女と眠り猫の約束【ASMR】【G’sこえけん】 ☆ほしい @patvessel

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