第15話

「なんで入ってくんの⋯⋯」

「お姉ちゃん遅いんだもん」


 雫は人の入浴中にもかかわらずこうやってたまに入ってくる。

 小さいときはそれこそ一緒に入ってたけど、今は湯船の大きさ的に無理。

 入れないことはないけど体が密着して息苦しいことになる。

  

 雫はシャワーを使って体を流し始めた。

 私は湯船に浸かったまま、なんとなくそっちに視線をやる。


 周りからは姉妹で似てると言われるけど、私はあんまり似てると思わない。

 雫のほうがずっと小柄だし、手足もほっそりしてる。ウエストも細いし胸も控えめ。   

 誰がデブだよ。


 フツーの私とは違ってわりと陽キャ? 実際学校でどんなかは知らないけど。

 これで少なくとも私より友達は多いっぽい。


 髪を洗い終わった雫は毛束をまとめて水気を絞り始めた。

 雫はことあるごとに私の真似をしてくる。中学で私がテニス部に入ったら雫もテニス部。髪型も同じだったけど真似すんなって言ったら伸ばしだした。 


「なに見てんのえっち」


 気づいたら雫がじろっと私を見ていた。そのくせ前を隠しもせず湯船に近づいてくる。

 このようにツッコミどころ満載です。


「ねえお姉ちゃん、一緒に入れるかやってみない?」

「やんない」


 我が妹ながら読めない。理不尽に読めない。

 もうちょっとお湯に浸かっていたかったけど出ることにする。

  

「うぇい」

「やめい」


 雫がすれ違いに横乳をつついてきた。手で振り払う。


「なんかまた大きくなってない?」


 なんか言ってるけど無視して私はお風呂を出た。

 


 



「雨音は明日行くでしょ?」


 着替えをしてリビングに戻っていくと、キッチンで洗い物をしていたお母さんに聞かれた。

 というのは、家族で月イチで行くイ◯ンのことだ。


 映画を見て食事して買い物して、というのが恒例になっている。私が小さいときに近くに新しくできてからずっと。

 ちなみに私の父親は月イチの家族イ◯ンが生きがいの男だ。毎度張り切っている。


「雫行かないんだって」

「え、なんで?」 

「友達と遊ぶんだって」


 珍しい。というか友だちと遊ぶを優先するのは初めてのことではないか。

 

「友達がうちに来るって言うから。だから部屋使うって」

「え、部屋?」

「うん。でも雨音はお母さんたちと◯オン行くでしょ?」


 だから別にいいでしょと言わんばかりだ。

 カーテンで仕切れるとはいえ私と雫の部屋は一緒だ。そんなだから雫が友達を家に呼ぶって滅多にない。てか今まであったっけ?


「それって、どしたの? 急にあいつ」

「ん~~⋯⋯それは、アレじゃない?」

「あれ?」

「彼氏とか? この前も来てたのよね、うちの前まで一緒に。男の子と」

「ふ、ふーん⋯⋯?」


 ふーんと口では流しつつ、内心焦っていた。

 あの雫が? 彼氏? いつの間に?

 てかあいつ、そんなことひとつも言ってなかったけど。まあお母さんにもはっきりそうとは言ってないっぽいけど。

 にしても家に招くって、それってもう結構な仲なのでは?


「それって、いいの?」

「いいって、何が?」

「いや、その⋯⋯。お父さんはなんか言ってた?」

「別に? 『ん~雫は行けないのか、そうかぁ~~~』って」


 いやイ◯ンより娘が家に男を連れ込もうとしてるんだが。

 お前はそれでいいのかたかし(父親の名前)。


 あれかな? 初めてのことでふたりともどうしたらいいかわからないのかな。

 私だってわからんし。親の前で恋愛話とかしたことないし。雫とだってしないし。


 姉の私が言うのもなんだけど雫はかわいい。見た目は。

 言動がちょっと意味不明でも、それをありあまってカバーできるほどに。

 ああいう若干天然? みたいなのがモテるんじゃないかなむしろ。


 だから彼氏できたとか言われても、そこまで驚きはしない⋯⋯いや驚いたけど。

 てかなんであいつ私には何も言わんの? いくらでも言うタイミングあったと思うが。


「で、雨音は行くでしょ?」

 

 最初の質問に戻ってくる。

 べつにぜんぜん嫌ってわけじゃない。映画見れるし。ちょっといいもの食べられるし。なんか買ってもらえるかもだし。

 

 だがしかし。

 妹は彼氏とおうちデート。

 私は今まで通りパパママとイ◯ンにお出かけ。

 いいのか? 姉としてそれでいいのか雨音よ。


「あ、明日は私も予定ができちゃって⋯⋯」

「そうなの?」

「と、友達と、ちょっと⋯⋯」

「ふぅん? 珍し」


 謎の見栄というか意地を張ってしまった。

 とっさに口走ってしまってから、「あ、やっぱ勘違いだった」とか言おうかと思ったけど、お母さんは忙しそうにキッチンを出ていってしまった。

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