短編集

一番星

花火

若葉が芽吹いたばかりの頃。五限目の化学基礎の授業のこと。私は、睡魔と奮闘していた。


 薄い意識の中、先生が何かを言っている。


「これ…炎色反応……これは、花火の…」


 眠気を飛ばそうと、手の甲をつねったりしてみるが、イマイチ効果がない。


「んで…問題……使われ…ない色…」


 結局、私は睡魔に負けて意識を手放した


ー数ヶ月後


「家族で花火かぁ…」

「寂しい人だねぇ、お姉ちゃん」


 妹のからかいに「うるさいなぁ」と、返す。


 今日は、市内の花火大会だ。


「たまやー!」と、叫ぶ子供の声。イチャつきやがっ…じゃなくて、お幸せそうなカップル。そして、夜空を幻想的に彩る花火。


 綺麗だなぁ…と、思いながら見ていたら、花火をみていたら父が突然「花火って、なんで色がついてるんだろうな」と聞いてきた。


「あー、なんか化学の先生が言ってた気がする」


 しかし、面白いぐらいに覚えていない。なんとか、記憶を掘り返して思い出そうとする…と、先生の言葉を一つ思い出す。


ー「花火は炎色反応の応用として、使われています」ー


 ああ、そうだった。そんなことを先生が言ってた…ような気がする。


 あと、もう一つ言ってた…けど、思い出せない…


 すると、ヒユー…という音が空から聞こえた。その方向を見ると目の前に光の大輪が咲く。

 

 あっ、そうだ。思い出した。花火には使われていない色があるって。


 なら、探してみよう。どんな色が使われてないのか。覚えていないなら、見つければいい。


 もう一度、ヒュー…と、聞こえた。


 空には色とりどりの花火が咲いていた。

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