第2話 渡瀬家の食卓。

 仕事を終え学校を出る公平。愛車に乗り自宅へと走らせる。いつもの海沿いの道を走っているとちょうど太陽が水平線へと沈むところ神秘的な景色に少し得をした気分で家に帰る。


「おかえりなさい。」


「ああ、ただいま」


 家にはいると美香が出迎えてくれた。キッチンからはツンと香ばしい香りがする。


「今日の夕飯はカレーかい?」


「うん、シーフードカレー。漁港のほうへ仕事でいったら新鮮なイカと海老をもらったから」


 美香は今も地元で会計士として働いている。美香の人柄も合って地元ではかなり顔が広い。

こういうお裾分けもよくある


 夕飯を楽しみにしつつ自室で着替えをすませキッチンに向かおうとしたと部屋を出たとき目の前のドアもカチャリと開いた。部屋から出てきたのは少し大人びた雰囲気はあるがあどけなさの残る少年。美香の息子 圭人だった。


「おかえりなさい。公平さん」


「ああ、ただいま。圭人君。」


 しばらくの間無言の時間のあと


「夕飯できたみたいですよ。」


 圭人はそう言って一人キッチンへむかう。これが公平と圭人の距離だ。仲が悪いわけでもない。でも、仲良し家族とはほど遠い。いや、もはや圭人にとって公平は家族というよりも一緒に暮らしているだけのただの同居人という感じだ。本当はもっと圭人とも家族らしくありたいとは思っている公平だが圭人は今中学二年生。いろいろと複雑な年頃だ。そんな時に今までずっと母親と二人親子水入らずで暮らしてきた生活に突然あかの他人が入ってきたのだ簡単にはいかないことは分かっているつもりだった。美香との結婚前から1年以上もかけて距離を縮める努力はしてきたが初めて会ったあの日からまるで成果はでていない。公平は小さなため息を一つつくとリビングへと向かった。


 美香がカレーを公平と圭人の前に出すと三人でテーブルを囲い食事がはじまる。


「圭人どう?今日のシーフードカレー美味しいでしょ。」


「うん、今日も美味しいよ。」


そう言って笑う。圭人は年相応の少年だ。


「このカレーはもしかして隠し味にイカ墨がはいっているのかな?」


「あら、気が付いた。とても新鮮なイカだったからね。入れたら美味しくなるかなって思って」


「すごいな圭人くんは私は少しも気が付かなかったよ。」


「この前友達と映画見に行った時にイカ墨パスタ食べたから気がつけただけです」


 圭人はスプーンを止めることなくそっけなく答えた。やっぱりそっけないなそう思い公平もカレーをもくもくと食べ始めた。


「そうだ、圭人今回中間試験すごくいい成績だったのよ。クラスでもかなり上位なんじゃないかしら」


 少し気まずそうにしている二人に気づいた美香が思い出したように言った。


「それはすごいな。圭人くんは本当に頭がいいな。実は私は中学のときは成績イマイイチでね。教師を目指してるって進路相談したときはもっと勉強頑張れって当時の担任に言われたものだよ」


 そう言って笑う公平に圭人は返事をかえってくることはない。


「そうだ、なにか欲しいものを買ってあげよう。なんでもいいよ。ゲームソフトでもいいし圭人君釣り好きだよね釣具でもいいよ」


「まあ、よかったわね圭人。せっかくなんだしなにかおねだりしちゃえば」


 美香言われスプーンを止めてしばらく考える圭人。これは手応えありかと期待した公平だったが


「今のところ欲しいものはないですね。ゲームは今はまってるやつありますし。釣具よこの近くの釣り場でやるぶんなら今の道具でも十分ですし」


 そういってもくもくとまたカレーを食べ始める。


「そうか…まあ、なにかほしいものができたらいつでも声をかけてね。」


 公平の言葉に圭人は無言でうなずいた。


「うまくいかないな…」


 食事を終えて入浴をする公平がしずかにつぶやく。


 入浴を終えて自分の部屋に戻ろうとしたとき圭人の部屋の前になにか落ちていたことに気がつく。公平が拾うとそれは…



「メモ帳…?」


 パラパラとめくってみるとそこには公平にはよく分からない内容が書いてある。


「まあ、おそらく圭人君のものだろう」


 公平は圭人の部屋のドアをノックするが返事は帰ってこない。少し申し訳ないと思いつつもドアを開けるが部屋に圭人はいなかった。公平メモ帳を机に置いて部屋を出ようとしたとき微かに聞こえる音楽が気になって部屋を見回すとつけっぱなしになっているノートパソコンにを目が行く。どうやら、このパソコンに繋がってるヘッドフォンから漏れ聞こえているようだ。不思議に思いますパソコンに近くにいくとなにかの拍子にマウスでも動かしてしまったかモニターが突然ぱっとつくとなにかのキャラクターだろうか赤い鎧を着て大きな剣を構えた長い銀髪の戦士が表示されている。


「なにかのゲーム…か?」


 パソコンのすぐそばにある箱に目をやるとこのゲームのパッケージだろうものを手に取る


「ワイルドアドベンチャーオンライン…?うちの生徒もやってるMMORPGというやつか…圭人君こういうゲームが好きなのか…」


 まじまじとパッケージを見ている公平。


「あれ…公平さん…?」


 突然後ろから聞こえた声に驚き振り返る公平。そこにはキョトンとした顔で立っている圭人がいた。


「圭人君…すっ…すまない。ドアの前にメモ帳が落ちててね届けてあげようかと思って…いや、本当にすまない…勝手に部屋に入ってしまって」


 さきほど机に置いたメモ帳をとり圭人にみせた。


「あっ…それ、探してたんです。そうか部屋のドアのまえに落ちてたのか…よかった見つかって」


 圭人はメモ帳を受け取ると安心したように少し笑った。


「そうか…君の大切なものならみつかってよかったよ。それじゃあ…」


 圭人が怒っていなさそうな様子に安堵して部屋を出ようとすると圭人に声をかけられた。


「あの…見つけてくれてありがとうございます。」


「ああ、どういたしまして…それじゃあ」


 圭人の部屋を出て自分の部屋にあるベッドに腰を下ろし「ふう…」と一息つく。


「ワイルドアドベンチャーオンラインか……」








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