第6話 脳内ストーリーは実行不可
朝の早い教室で彼はやなぎを探すが
いつものメンバーしかいない。
やなぎが来るころには8割以上のクラスメイトが
登校していた。
「あ、あの……」
教室の賑やかな空気が彼の声をかき消したが、
彼はめげない。
「あ、あの……」
彼の頭には話すテーマやエピソードトーク、
話のオチとこの場から離れるタイミングまで
完璧なストリーがあった。しかし、
友達とスマホゲームをしながら友達と盛り上がる
「やなぎ」には届かない。
彼は一歩踏み出してもう一度
「や、やなぎ‥‥さん」
気弱さをアピールするかのような呼びかけでは
まだ足りなかった。もう一歩踏み出して
「や、やなぎさん」
もう一歩
「や、やなぎさん」
もう一歩
「や、やなぎさん」
そしてもう一歩踏み出して
「や、やなぎさん」
「ん?俺?どうした?」
ようやく気づいてくれたと喜ぶ彼は
駆け込むように半ば強引に話を始めた。
「やなぎさんの人生で最も大事なものって
何だと思う?自分は色んな人に恋することだと
思うんだけど‥‥‥」
「あ、ああ、そうか‥‥」
「「‥‥‥」」
2人は沈黙し、やなぎと共にゲームをしていた
友達たちが見物をやめて大きく笑った。
「こ、恋 っハッハハ」
「純粋すぎんだろ」
「じ、人生で一番大事っハッハハハハ」
彼は作った笑顔を引きつらしてぎこちなく
笑い声をあげた。
「いきなりどうしたんだ?突拍子もないこと言って」
今にも逃げ出したい彼にやなぎは微笑みながら
彼が話すのを待った。
「い、いやどうしてもやなぎさんと
話してみたくて‥」
「おい、人気者!人情家!」
やなぎをイジる彼らとやなぎは愉快そうに笑った。
「おいおいそういうことなら
もっと普通にこいよな?」
彼は安堵して肩の力が抜けスマホを落とした。
光る画面には一件の通知が。開くと
『半分正解で半分間違い』
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