才能あっても意味がない!

こなもの

第1話 転生

俺は死んだ。多分、そうだ。

前日は酒に酔ってたし、よく覚えていないけど、死んだって感覚はあった。


そして、今。俺は赤ん坊ながら、周囲のよく分からん人たちに拍手されている。

それはもう、何かの賞を受賞したのかってくらい拍手されている。


言葉は分からないし、目もよく見えないけど、拍手の音だけが、鮮烈に耳に残っていた。


気づけば俺は泣いていた。泣こうと思って泣いたわけじゃない。体が勝手に泣いていた。

ともかく、泣いている赤ん坊をあやしもしない大人が周囲を囲んでいるこの異常な空間は、俺の体が発光を止めるまで続いていった。


◆◆◆◆



それから数ヶ月が過ぎた。俺はどうやらアミルという名前らしい。俺の世話をする使用人らしき人や、偉そうな人が何度も俺をそう呼んでいた。この数ヶ月、赤ん坊になったことで思考能力が極端に落ちた俺は、自分の名前を把握することくらいしかできなかった。まぁ、仕方ないじゃないか。だって赤ん坊だもの。


とにかく、自分の呼び名らしき、アミルという名で呼びかけてくる数々の大人たちを眺めて、乳を飲むことが、この数ヶ月で、俺に出来る唯一のことだった。それにしても、俺の名前をありがたそうに呼ぶ大人たちの中には、2割ほどの割合で、光っている人がいた。これはいったい何だろうか。疑問は尽きない。


◆◆◆◆



それにしても、死とは恐ろしいものだった。自分の輪郭がじわじわと削れていき、ひび割れていくような感覚。

そして自身が細かくバラバラになっていく感覚。

意識がはっきりとしてきた生後半年くらいから俺は、それが怖くてよく泣いていた。

死の感覚は死を味わった者にしかわからないだろう。とにかく、恐ろしい。消滅の、恐怖。これを思い出し、体の芯から怯え、泣きわめくことが、最近の俺の日課だった。母乳を飲まなければならないし、死の感覚に怯えなければならないし、すぐに眠気が襲ってくるし、そんな地獄のような新生児期を俺は過ごした。


しかも、こんなに泣いているのに、周りの大人は俺を無視するのだ。新生児の俺にはわからないが、俺が泣いていると言葉を投げかけてくる。そして、俺に光の玉をぶつけてくるのだ。意味がわからない。おそらくいつもそばにいるこの女性は俺の母親ではないのだろう。俺に言葉を投げかけてくることはあっても、抱きしめることなど無いし、いつも光の玉をぶつけてくる。本当に理解できない。俺が意識を取り戻してからの1年間は、こんな毎日が続いていった。

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