第2話 大攻勢

ヘス大尉は、門の異変を目撃した直後、即座に歩兵戦車中隊と随伴歩兵を門へ向けて派遣した。報告によれば、隊列は整然と進軍していたが、数分後に有線通信が途絶。帰ってきたのは血まみれの重傷兵数名だけであった。隊員たちの体は戦車の金属片や異常な熱で焼けただれ、表情は恐怖に歪んでいた。


生き残った兵士たちは、声を震わせながら証言する。

「……空を飛ぶ……人間が……襲ってきたんだ……」

「魔法のような力で、戦車は粉々になり、仲間が吹き飛ばされた……」


現実主義者として知られるヘスですら、眉間に深い皺を寄せ、目の前の状況を咀嚼するのに時間を要した。理性が説く現実と、兵士たちの口から語られる常識を超えた現象との間で、彼は言葉を失った。しかし同時に、冷徹な将校としての期待も芽生えていた。もしこの異世界に資源が存在するなら、戦局を一変させる可能性がある——マウアーは既に長期戦によって疲弊し、補給線は逼迫、戦争資源は枯渇寸前だった。


その数日後、司令部はウィリアム中佐を派遣、指揮権は彼に移る。初動の命令は、防衛線の強化だった。中佐到着から三日後、雲一つない快晴の下、事件は起きた。

門の封鎖に用いられた丸太が破壊され、独りでに扉が開いた。いつも通り各火器は即座に射撃準備を整え、戦車隊は照準を門に合わせて待機した。ウィリアム中佐は指揮所から、ヘス大尉は正面トーチカから状況を注視していた。


数分後、地鳴りと共に騎馬隊が姿を現した。現場にいた者はいつも通りの小競り合いでなく思わず絶句したであろう。兵士たちは一斉射撃を開始、数騎が倒れ散開する敵に続き、歩兵と重装甲部隊が出現した。外見は戦車に似るが、大砲はなく、銃眼から魔法の閃光が飛び出す。従来の火器は通用せず、戦車砲の徹甲弾すら貫徹することを許さなかった。後の調査で高度な魔法防御が施されていたことが判明する。ヘスは重装部隊破壊のため、邪魔となる随伴歩兵の排除を優先させようとしたが、彼らも熟練度と魔法防御を備えており、分断作戦は失敗。陣地は押し込まれ、兵士たちは後退を余儀なくされる。予備陣地にて防衛線を再構築するも、全滅の危険は迫る。航空支援の要請は幾度も送られたが、到着は遅れた。


その最中、門から突如として怪物が出現する。巨大な膂力で兵士を踏み潰し、トーチカを破壊する様は、戦闘記録の映像資料でも異様な迫力を放つ。ヘスはさらなる後退を検討するが、後方にはもう陣地が存在せず、持久戦を選択、死守命令が将兵に下される。


危機が頂点に達した瞬間、味方の急降下爆撃機が到着。敵重装部隊や怪物に精密爆撃を加え、魔法防御も爆撃には耐えられず、多数が撃破される。怪物も決死隊による肉薄攻撃により体の一部を欠損しながら撤退し、残存敵もそれに追随し始めた。その直後に援軍が陣地に追い付き、増援の機甲部隊が追撃を行ったが、門付近で追撃を中止。簡易防衛施設を再構築し、敵の再侵入を阻止した。余談だが、マウアー兵は多くが塹壕内にいたため、その多くが爆撃から生き延びた。


公式記録によれば、この戦闘により、門からの第一次大規模侵攻は完全に失敗に終わった。陣地の死傷率は高かったものの、兵士たちの戦闘行動は戦術的な耐久性を示し、異世界の脅威に対する初めての実戦データとして記録されることとなった。

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