第15話 疑う

次の日から犯人候補を探すことにした。犯人の特徴で分かっているのは、黒い帽子を被り、黒髪の短髪で、コートを着ているためかがたいは良さげなことぐらいだ。正直言ってあまりヒントにはならない。身長ぐらいは覚えていたかったが、何度記憶を振り絞っても私より高かったことしか覚えていない。あと分かってるのは、昨日ナオトに推理してもらったことだ。

「犯人は学校関係者の可能性が高いな。」

「えっ、どうして?」

「まず、六時頃に殺されたんだろ?この時間は生徒が帰り始める時間で、裏門以外はしまってる。そんな不審者が入りづらい状況で学校のど真ん中…中庭で刺されてるんだからな。学校関係者だと思われるだろ?次にチャイムの時間に合わせて殺されるんだったな。恐らく物音で周りにばれないために。これもチャイムの時間を知らなきゃできないし、さらに学校関係者の可能性を高めている。」

「なっなるほど!」

ようは、この推理で学校に犯人がいる可能性が高いことが分かったのだ。そのため、私に関わりのある人物をしらみつぶしに調査することにした。今までの同級生とか。私の情報から女性よりかは、男性の可能性がやや高いと考えたから、まずは男性優先で、次にスポーツとかやっててがたいが良さげな人。といった風に学校中を聞き込みした。と言っても犯人が周りにいるかもしれない以上なるべく慎重に……友達や先生に何気なく尋ねていった。気づいたらあっという間に二日が過ぎていた。

「この方法はやっぱ得策じゃないなあ、」

「うん。けど、何人か怪しそうな人は絞れたね。……」

「どうした?」

「いや、私…誰かに恨まれるようなことした覚えがないからさ。もしかしたら無意識に誰か傷つけてたのかもって…」

「……」

誰かに恨まれると思うことも、誰かを怪しむこともどれもこれもしんどいことで、私の胸に辛さが押し寄せる。正直言って、今回もうまくいく気はしていない。また、殺されるんじゃないかって思ってる。昨日は進展を感じたが、こういう気の遠くなる調査をしていると、そんなの気のせいに感じる。辛い。ずっと、他人を疑って何日も何日も終わらない日々を過ごさなきゃいけないんじゃないかって。

「ナナカ……」

ナオトの顔がぼやけて見える。そうか私、泣いてるんだ。駄目なのに。覚悟を決めたはずなのに。生きるって、生きて時間を進めるって。それなのに…

「辛いよ……ナオト。」

私はナオトの胸で泣いていた。ああ、いつまで続くのだろう。私はいつ十五日を迎えられるのだろう。

「ナナカ……お前が誰かに絶対に恨まれてないって断定はできない。ナナカに限らず、俺も他のみんなもきっと、生きてる以上誰かに迷惑かけたりしてると思う。」

「ナオト…」

「けど、だけど!殺されるほどのことをナナカがしたとは思えない!ナナカ!」

ナオトの体温が伝わる。暖かい。

「……ナオトも泣いてるね。」

「ああ?泣いてねーよ。」

ナオトも辛いんだ。それはそうだ。私に恨みを持つ人がいるとしたら、それは身近な人の可能性が高い。もしかしたら、私たちの友達かもしれない。大切な友人を疑うことは、誰でも辛いんだ。

「ナオト……」

もし今回も駄目だったら、次はナオトにこんな思いをさせないようにしよう。この聞き込みも二日ぐらいで終わったことにして。だから今回の一週間だけでもがんばるんだ。私の苦しみは次のためだ!

「ありがとう。もう大丈夫。私、がんばるから!」


それからも私たちは調査を続けた。橋本くんや、バレー部の佐藤さん、体育の先生や友達…美香子とかいろんな人を疑い、疑い、疑い……

「おえっ」

14日の早朝、私はトイレで吐いていた。胃液の酸っぱい味がする。涙が出てくる。結局犯人らしき人は分からなかった。だったら何でみんなを、疑ってたのかな?みんないい人じゃんか…前の一週間家にこもってる時、心配してメールしてくれた友達とかも疑って…最近は親も怪しく見えてきちゃってる。探偵部なんて作ったくせに、人を疑うのが向いてないなんて…あほくさいや。

「うぐっ、」

鼻水をすすり、涙を拭く。それでも進むんだ。今日死ぬことになっても。

今日はナオトとずっと一緒にいることにした。二人で誰にも知らせず、学校に行かず、電車で行ったことのないような離れたところへ行った。ナオトは私の辛さをまぎらわせるため、楽しいことをたくさん提案してくれた。二人で少ないお金をだしあって、遊んだりしたんだ。カラオケしたり、ボーリングしたり、美味しいごはんを食べたり、ここまで来れば犯人も来ないだろってナオトが私の不安をかき消すように、楽しませてくれた。けど、ずっと怖かった。それでも来るんじゃないかって。殺されるって。私と一緒だと、ナオトも…。そんな不安がずっと消えない。美味しい昼飯を食べても、歌を歌っても、一緒に笑っても。早いような遅いような時間が流れていく。私たちは遊び疲れて、二人で公園のブランコを漕いでいた。日も落ちて暗くなっている。今日はこの辺のホテルに泊まろうか?なんて話してるときだった。このままなにも起こらず、明日を迎えれるんじゃなんて思ってきた時だった。

「えっ、」

目の前にあいつが現れた。黒い帽子、サングラスとマスクで顔を隠し、コートで身をおおっている。右手には、ナイフ。私はナオトのほうを向いてすぐさま、叫んだ。

「逃げよ!」

私たちは逃げ出した。どうして?ここに?誰にも言ってない。親からのメールも全部無視して、友達にも連絡を取ってない。なのに…なんで!

「ナナカ!危ない!!」

ドンッとナオトに押される。倒れこんだ私はすぐさま顔を上げる。

「ナオトっ!」

目の前でナオトが、刺された。犯人のナイフでお腹を…

「逃げろ…」

ナオトは、両手で犯人の右手を押さえ、ナイフが抜けないようにしている。足は震えており、足元に血が落ちていくのが見える。

「はやくっっ!」

ナオトはそう言うが私は動けなかった。恐怖と後悔…悲しみいろんな感情が押し寄せる。私がナオトと行動しなきゃ、刺されなかった。もっと足が速かったら、逃げれたかもしれない。今私にできることはこの光景をしっかりと目に納めるだけ。犯人の背丈や、見た目をよく記録するだけ。次にいかすために。それに集中しないと…私の心はもう…

ドンッと犯人がナオトを蹴り、私のほうへ倒れてくる。受け身などを一切とらず、生気を感じない。

「ナオト?」

返事がない。口から血が出ている。目が虚ろで、息をしている様子もない。

「ナオ…ト…」

ぐちゅっと言う音がした。私がナオトの腹を触ると手が真っ赤に染まった。熱い血に対して体は冷たくなっていく。

「ああ、…ああ!」

なんで!なんで!ナオトまで!やっぱり一緒に行動するべきではなかった。薄々感じていたんだ。こうなるんじゃないかって。ナオトが私の目の前で死ぬんじゃないかって。

「誰……誰なの!!」

私はそいつに問いかける。返事はない。そいつは血の滴るナイフを上にあげる。次は私の番だ。殺される。どこに逃げても、殺される。学校でも家でも遠い町でも……こいつは現れる。まだ刺されていないのに胸がいたい。苦しい…ナオト!私はもういないナオトに助けを求めることしかできない。

「あああっ!」

カアーっとカラスが鳴いたのを最期に聞いた。


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