嘘は半分まで
有部 根号
ナオトと一週間
第1話 超能力
「私、超能力に目覚めた!」
俺の友達『
「はいはい。いつも言ってるだろ?嘘は半分まで!半分は本当のことを混ぜた方が、相手は信じる。」
そうは言ったものの違和感がないわけではない。下手に嘘をつくときと違って目が真剣なのだ。
「嘘じゃないよ!……だったら当ててあげる!今日のナオトの弁当は、ハンバーグでしょ!あと、タコさんウインナーが二個入ってる。」
「!」
俺は弁当を開けて驚いた。弁当は母さんが作っていて俺も中身は知らない。ただ確かに、ハンバーグとタコさんウインナーが入っている!……しかし、
「そんなことだったら、俺でもできる。ナナカの弁当は唐揚げだ。」
「うん。当たってるよ。けどそれは、昨晩食べたことを知ってたからよね。」
「……!」
確かに俺は昨日彼女が嬉しそうに、「今晩唐揚げなんだ~♪」といっているのを聞いていた。彼女の弁当は大抵昨晩の残り物で、その事から今日の弁当は唐揚げだと考えた。ただそんなことより驚いたのは、彼女がそのように俺が考えたのを当てたことだ。いつもなら「なんで分かったの!?」とか言うはずなのに。
「……母さんに聞いたの?」
「聞いてないよ!分かったの、超能力で!ちょ、う、の、う、りょ、く!」
ナナカは口を大きく開け、一文字ずつはっきりと発音した。
「超能力で、未来を見たの!だから分かったの!」
「未来ねぇ…」
「信じてないよね!だったら他のことも教えてあげる。次の数学の授業、抜き打ちテストするよ!」
「……先生に聞いたのか?」
「聞いてないよ!」
彼女の目は真剣で、嘘をついているようには見えない。だからといって信じたくはない。馬鹿馬鹿しいし、何より嘘だった場合ナナカに煽られるのがひどく悔しいからだ。
「あと一分。」
ナナカがポツリと呟いた。
「何が?」
「橋本くんが、急いで食堂から戻ってきて、教室入った瞬間転ぶまでの時間。」
背筋がぞわっとした。先ほどまでより具体的で、誰かに聞いておくことのできない予知。もしこれが当たったら……
「よーし!パン買ってきたぜ!」
ガシャンッと扉が開く音と共に、橋本の声が聞こえた。俺がそっちを振り向くと彼はツルッと盛大にこけ、クラスのみんなは笑いだした。ただし、俺ら二人を除いて。
「あはは!橋本どんだけ腹へってんだよ!」
「ふふふ!橋本くん急ぎすぎ!」
クラスの明るい雰囲気の中、俺は恐らくこわばった表情をしていたと思う。そして、信じざるを得なかった。彼女の超能力を。クーラーが入り、涼しいはずの教室の中で俺は一人汗をかいていた。つーっと冷たい汗を。僕は唾を飲み込み、彼女の方へ顔を戻す。
「まじ…か……?」
「まじだよ。」
クーラーの風で彼女の茶色い髪が揺れる。
「頼みがあるの、ナオト。」
「…なんだよ。」
「一週間後、学校で殺人事件が起こる。その解決を手伝ってほしい。」
「!」
「ナオトにしか頼めない。他の人じゃ誰も信じないだろうし。」
「……突然すぎるぜ。あまりにも現実味のない…それに!ホントだとしてもっ!俺なんかに……」
ホントだとしてもというが、すでに九割方信じているけど…
「いけるよ!私たち探偵部じゃん!」
「探偵っつったってなあ、」
実際、ナナカが適当に言い出して、適当にできた部だ。部員も二人だし、誰も使ってない部室を借りてるだけで、もし他に使い道ができたらすぐに廃部になるような部活だ。それにいつも、のんびり話したり、友達を呼んでボードゲームしてるだけだ。
「私は本気だよ。」
しかし、その目は否定を拒んだ。俺は静かに頷き、一旦話を飲み込むことにした。
「………分かったよ。」
「ありがと!」
彼女はようやく笑顔を見せた。俺は一度周りを見渡した後、深呼吸した。
「それで、未来が読めるんだっけ?」
「うん!」
「じゃあ、未来読んで犯人分からないの?」
「うん!見た未来では犯人は姿を隠していたからね。」
「じゃあ……被害者は?誰が殺されたの?」
「んっとね……私。」
「は!?ナナカが!!!」
俺はつい大声をあげ、立ち上がってしまった。気づくとクラスの視線はこちらに向き、恥ずかしくなってきた。
「いや、気にしないで。」
俺は周りにそういうとゆっくりと腰を下ろした。しかし、声に反応して一人の女子がこちらに歩いてきた。
「あーあ。お二人さん夫婦喧嘩?お熱いねえ!」
彼女は『
「るっせ、関係ねぇよ。てか、付き合ってもねえよ。」
「はいはい。」
彼女はにやにやしながら言う。
「ナオト、話はまた後で。」
「ああ。」
「なになに?二人の秘密話?気になるう!」
「そーそー」
適当に受け流しつつ、鈴木の介入で話は一旦止まった。俺は無数の疑問を抱えつつ、弁当を食べ始めた。
昼休みが終わり数学の授業が始まると、ナナカが予言したように抜き打ちテストが始まった。ただもうこのときはそれどころではなく、ただたんたんと時が流れていった。気がつくと放課後になり、俺は職員室へ向かっていた。職員室は二階にあって、そこに全ての教室の鍵が保管されている。俺は職員室に入って、鍵かけから部室の鍵をとった。俺らの部室は三階の図書室の奥、『図書室横倉庫』だ。俺は鍵を開けて中に入り、扉の向かいにあるカーテンと窓を開ける。ここにはクーラーはないため扇風機をつけ、中央にある長机を隔てて俺らは座った。部室は教室の1/3ほどの広さで、棚には古い本が並んでいる。図書館室横倉庫となっているだけあって、不要な本がおかれているのだ。
「いろいろと聞きたいことがある。」
「うん。なんでも聞いてね。」
「まず、超能力を得て未来を読めるようになったのは本当に本当なんだよな?」
「うん。」
ナナカは真剣に答える。
「じゃあ……いつ手に入れたの?その力?」
「さっきだよ。昼休みに突然。」
「さっ、さっき!?」
「うん。急に未来の景色が流れていたの。」
確かに昨日の夜とか、今朝とかにこの力を手に入れたなら、朝イチに学校に来たとき言うよな。
「え、えっと…じゃあ、どこまで先の未来が見えるの?」
「一週間先。そこまでの景色がぶわって流れてきたの。」
「七日か……にしてもなんで?心当たりは?」
俺は当然の疑問を口にする。
「…さあ?詳しいことは、私も。けど、女神像にお祈りしたからだと思う。未来が見えたらいいなって。」
「なんかフワッとしてんな。……女神像。中庭のだよな?」
「うん。」
女神像…この学校には中庭に女神を模した像がある。詳しくは知らないけど、この学校の人は時おり悩みごとやお願い事があるとき、この像の前で手を合わせて祈る文化がある。俺も一年生のころ、友達とテストでいい点がとれるように祈ったことがある。そのときは確かにいい点はとれたが、たまたまな気もする。友達は上手くいかなかったみたいだし。
「なんでそんなこと祈ったんだよ?」
「なんとなくかな?」
ナナカは適当に受け流す。
「そんなことよりナオト、殺人事件!これについて考えようよ!」
彼女は先ほどより一層真剣に話した。
「ああ、そうだな。一週間後……ナナカが…」
そのつぎの言葉がでない。言霊というものを信じてはないが、言いたくない。
「うん。私が死ぬの。誰かに殺されてね。」
「!」
彼女が嘘をつくときは分かりやすい。だが、逆に本当のことを言うときも分かりやすいのだ。さんざん疑ったが、この言葉は……本当だ。
「死ぬって…お前、嫌じゃないのかよ…」
彼女の様子は、いきなり自分が死ぬと分かったには冷静で…覚悟が決まっている。
「嫌だよ。けど、信じてるから。私自身を、ナオトを。必ず救える。」
「っ!重いもの頼みやがって…」
「ナオトの頭脳があればだいじょーぶ!」
「頭脳って、…ナナカと変わんねえだろ。」
「違うよ!確かにテストの点はほぼ一緒だけど、観察眼とかは足元にも及ばないよ。だから、探偵部作ろって言ったんじゃん!」
「……」
ナナカは買い被りすぎだ。ちょっと人より周りを見ているだけで、命を預けるんじゃない。といっても、ほっとくわけにはいかない。
「……犯人は誰か分かんないんだよな?」
「うん!協力してくれるんだね!」
「まあ…それで、なんで分かんないの?」
「マスクとグラサン、あとは黒い帽子に黒いコート!」
「要は姿を隠してたんだな。うーん、最低限分かるものはない?」
「髪の毛は短かったね。姿勢もよかった。ナイフを持っていて…あっ、右手でね。それで私のお腹をグサッて。」
彼女は質問が分かっていたかのようにたんたんと答える。そうか、未来が見えたなら分かって当然なのか?
「コートのせいかな?ややがたいもいい感じで…男の人っぽかったかな。身長も私より高めだったし。」
「俺くらいか?」
「もうちょい、175?くらい?」
やや高めだな。といっても到底絞り込める情報ではない。
「場所は?」
「…………女神像の前。」
「! また女神像か!」
あの像が鍵を握ってるのはたしかだな。
「時間帯は?」
「夕方だね。部活が終わって学校から帰る前だから六時かな。チャイムなってたし。私がお祈りにいくと犯人がいたの。」
「今度はなんのお祈りだ?」
「えっ、それはいいでしょ!関係ないよ!それより、犯人がそこにいたの!」
「……気になるがまあいいや。うーん。犯人は学校関係者の可能性が高いな。」
「そうね。六時は、部活終わりの生徒も帰り始める時間だし、裏門以外は閉じてるもんね。そんな部外者が侵入しにくい中、学校のど真ん中にある中庭にいたんだもん。その可能性が高いね。あと、チャイムに合わせることで、物音で周りの人が気づきづらくしてるのも、チャイムのなる時間を知ってるからこそだもんね!」
「よく、ナナカにそこまで分かったな!」
「失礼な!……まあ、未来でそうナオトが推理するのが分かってたんだけど。」
彼女は小さく微笑んだ。何か隠してるように感じなくもない。
「……参考までに聞くけど、殺されるようなことした、もしくはする予定はないんだよな?」
「あるわけないじゃん!」
「はは、分かってるよ。お前のことだもん。」
「なんなの…」
ナナカは少し頬を赤らめた。俺も俺で少し冗談を挟まなきゃ、この状況に面と向かえなかったのだ。ナナカが死ぬ…その事が頭のなかで何度もよぎる。
「……助ける。」
「なんて?」
「いやなにも!それより、女神像について調べようぜ。絶対大事だし。」
「うん!行こう!けど、私は未来読んである程度知ってるし、像の写真でも撮ってくる。」
「そうか、俺は図書室で調べとくよ。気を付けろよ!」
「一週間後まではだいじょーぶ!」
彼女は笑顔でそう答えた。強いな…そう思いつつ、俺らは部屋を出て各々行動を始めた。
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