第31話 ラジオ出演

お互いにどんなに傷ついていても、人生のどん底を経験したとしても、その姿を笑う人達が居ても、2人は共に魂を成長させる『相棒』として生まれて来たのだ。だから大丈夫。

「なーんて曲はどう?」

と星夜が笑って話すと美緑は、

「悪くないね。」

と微笑んだ。親愛なる友の久々に笑った横顔を見て、

『君に出会えて本当に良かった。ありがとうございます。』

そう心の中でつぶやいた星夜は、涙がこぼれない様にまた空を見上げた。

2人はしばらく言葉のない世界に吸い込まれていた。星夜と美緑は昔から沈黙が苦にならない。そして、なんの前触れもなく美緑が

「星夜はこれから音楽を続けてどうなりたい?」

と聞いて来た。その質問に星夜は直ぐに答えた。

「音楽を始めた時から思ってる事が2つあるよ。」

すると美緑は「えー何?」

と再度聞いてきた。

「1つは、生きてる間に歌が上手くなったと思えるようになりたい。もう1つは、アルマクでいつか地元でLIVEがやりたいね。お客さんとか、こんなにぶわ〜っていてさ。子供からおじいちゃんやおばあちゃん達ぐらいの人まで、色んな人が集まってさ〜。ステージから皆んなの楽しそうな顔が見れたらもう最高じゃない?”俺、今超生きてる!”って。そんな風に思えたら人生最高の瞬間じゃないかとワクワクするんだよね。」そんな身振り手振りを使って話す星夜を見た美緑は、

「おまえ中学生かよ!」

と楽しそうに笑った。

星夜も美緑を見て少しホッとした。

「美緑はこれからどうなりたい?」

と聞く星夜に美緑は、

「そうだな…。長く続けたいかな。」

と言った。

「なぁ美緑。100点満点を目指すとしんどいよ。楽器が弾けなくても良いじゃん。右手動かしづらいならマイク左で持てば良いじゃん。楽器弾いてないアーティストいっぱいいるし。でも2人ともメインボーカルって最近あんまりいないじゃん。おまえら【KinKi Kids】かよ!って言われたら、イヤっ!ATSUSHIとSHUNのロックバージョンだよ!とか言っておけば良いじゃん。」

とケラケラ笑いながら星夜が話す。

「今の若い子はTAKAHIROしか知らなくね?EXILEで世代バレるわ。」

美緑はそう良いながらも、なんだか少し腑に落ちたようだった。

「美緑が入院する前に出来た曲早く出そうよ。それとさ、実はもう1曲あるんだ。」

と星夜が話すと、美緑は驚いていた。

「誰かにプレゼント渡す時にさ、どれにしようかな?これは喜んでくれるかな?とか色々考えるでしょ?そしたら今度は早く渡したいなー!ってなるでしょ?いつになったら渡せるんだよ。」

星夜がそう言うと美緑は、

「今でしょ。古いわ!」

と答えた。アルマクは復活を遂げる。

そしてこの期間が、嵐の前の静けさになる事を2人は知る事になる。


2人は、早速完成させた2曲を配信した。

この2曲は、TikTokやInstagramでジワジワいいねが増えて再生回数も日に日に上がっていった。トモちゃんの紹介でアニメーション映像を作成してくれる知人を紹介してもらい、その映像と曲を合わせた動画をYouTubeにアップ。

このSNSが重なり、初めてYouTubeで1万回再生突破した。この頃にはまだ登録者は300人程度だったのが、翌月に倍になり、3ヶ月後には1000人を突破。この2曲はどちらも再生回数が10万回を突破し、遂にこれまで出した曲の動画も合わせて累計の再生時間もクリア。

これで『収益化』が申請出来るようになったのだ。

アルマクのYouTubeの初任給は約12,000円。「俺達Vtuberデビューやん!」

星夜が美緑の肩を叩きはしゃいだ。

この時の2人の反応は対照的だった。美緑は手で顔を覆い肩が揺れていた。星夜が後ろから、「おーい!美緑!」

と言って来たので、美緑は

「泣いてるのか?」と聞かれると思ったが、

星夜は、

「しゃっくり止まらないの?」

と聞いて来た。美緑は、天然なのか?ボケてるのか?曖昧なラインでたまに聞いてくる星夜のこう言うところが結構好きなのだ。何はともあれ、アルマクの快進撃はここから更に加速していく。


近年は、SNSが主流ではあるが、地元のラジオ局から何と出演のオファーが来た。このラジオ局は以前に一斉を風靡した人気ラジオDJが立ち上げた番組。

日本語が饒舌な【ブライアン】が、ゲストと面白おかしくフリートークをする番組だ。

ブライアンはとにかくトークが上手い。放送ギリギリを攻める切れ味鋭い言い回しでファンが多い。今日もオープニングで長めにしゃべり倒し、袖で待たされた。そして、いよいよアルマクが紹介された

「Hi Brian, how are you?」

星夜が大きめのボリュームで挨拶してアルマクの2人が登場。

「声でけーよ!ほんでご機嫌良くもないわ!」と普通に日本語で返して来たブライアン。掴みはまあまあだと星夜は思った。ブライアンがアルマクの馴れ初めを面白おかしく説明していく。「てか2人は誕生日一緒なの?あれ…保育園からずっと一緒。ヤロー2人でキモチわるっ」

などと独特の言い回しでスタッフ達はすっかり笑顔だ。ブライアンの話を遮って星夜が、「昔、ブライアンのお店に行った事ありますよ。ちゃんとボトル置いてある?」

と言った。ブライアンは、

「もうあの店潰れたわ!そんなの俺の喉を通って今頃海に流れてるわ!」

と笑わせる。今はカフェをやっているそうなので、今度行ってみようと美緑に話していた。


話が盛り上がって来たところで、

1曲目の『Let’s live on』が流れた。

曲が終わるとブライアンが、

「なんだよそこそこいい曲じゃねーか!おれ結構好きだわ。」

そう言ってくれた。ブライアンは面白おかしくするのが自らの存在意義とも思っているが、ちゃんと人に敬意がある人だ。もう日本も随分長い。日本人以上に色々とわきまえている気もする。

「2人とも42歳なんだ?遅咲きだな?散るのも遅いって事だよな?」

すると美緑が、

「うまいこと言いますね。でも本当に長くアルマクで居続けたいと思います。」

と返した。ブライアンはそれは違うだろという顔をしながら、

「おまえさぁ…ここは喫茶店か。普通の事を普通のトーンで言うなよ!」

とツッコミを入れた。ブライアンと話していると本当に時間があっという間に過ぎる。すると終わりの時間が迫って来た。

「次の曲はまた全然違う感じだな。この曲のサビ、先週の金曜日の夜に飲み屋の若い姉ちゃんが口ずさんでたわ。あの子おまえ達からギャラ貰ってんのか?」

またブライアンがかましてくる。これには星夜が、

「そうそう。僕らのYouTubeの初任給12,000円を全部その子にあげました。パイパイで。」

これにはすかさず

「PayPayな!」

とツッコミつつも、悪くないやんと言った表情を見せるブライアン。そして、

「ビジュアルは相方の方が良いけど、トークはおまえの方がええわ。」

と付け足していた。

「この曲はどんな思いで作ったの?」

と真面目にブライアンが聞いて来てくれた。

星夜は、

「いつでも身近にいる相棒や自分にとって大切な人を思い浮かべて欲しいなって気持ちを込めました。1人でもいいから誰かとちゃんと向き合えるって素敵な事だし、気持ちが軽くなるから。」

と星夜はわざと鼻にかかった良い声で説明した。ブライアンはそこも見逃さない。

「なんだよ。ちょっと良い声で語るなよ。この番組の好感度が上がるだろ。」

それに対しては星夜が、

「僕らの好感度じゃないんだ。」

とツッコミを入れる。番組も終わる頃にはだいぶ噛み合って来た。

「はぁ。。。この間一緒にバーベキューデートしたあの子、今日はこのラジオ聞いてるかな。。。あれからずっと考えてるよ。今度会った時はキスさせてくれるかな。。。この間言ってたよね?どうせ毎回違う子を口説いているんでしょ?って。それは違うよ。おれの目には惹かれた女性しか映らないようになっているんだ。だから僕の全てを捧ぐよ。誰の為にって?…この曲のタイトル何だっけ?」

星夜が答える

「君のために」。

「アルマクの2人でしたー!ありがとうー!またなー!」

とブライアンが叫び、2曲目が流れて番組終了。曲のタイトルを笑いに変換して締めくくる。

これが全部アドリブだから凄い。星夜と美緑は爆笑していた。番組終了後にブライアンが、

「1杯だけな。」

と言って飲みに連れていってくれた。自分もミュージシャンを夢見てた時代があり、異国の地で様々な谷があった事。毎日が全然笑えないどん底も経験して来たそうだ。プライベートでは結構聞き上手でとてもとても魅力的な人だと思う。次は番組冒頭から終わりまでずっと俺が敬語で喋るぐらい大きくなってまた遊びに来いとアツいメッセージを送ってくれた。

ありがとうブライアン。

今日は素晴らしい時間だった。

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