万華鏡
夏木
万華鏡
万華鏡
幼い頃、わたしの小さな手の平にのせられたのは赤い千代紙で彩られた細い筒。
「覗いてごらん」
言われるまま小さな穴を覗いた先にあったのは、小さな欠片で作った大きな花。
「回してごらん?」
そう言いつつ祖母がそっと筒を回した。
花はその瞬間、星になった。
「うわぁ」
思わず声をあげて、筒を回す。
小さな欠片は違う花になり、雪になり、宝石になる。
キラキラと輝く小さな欠片は、その瞬間から、小さな星の集まりに見えた。
回すと小さな星が流れて新しい星になる。
「すごいね! すごいね」
ただただ、凄い凄いと褒めるわたしを祖母は笑ってみていたように思う。
あの時の感動を今でも覚えている。
壊してしまったのか、そもそも祖母のもので、あの時だけ貸して貰ったのかも分からない。
あの日以降も回したのか。それともあの日だけだったのか。
今となっては、分からない。
もしかしたら、母に聞けば、ある程度は分かるのかもしれない。
でも、それを知りたいとは思わない。
覚えていないという事は、二度目以降があったとしても、あの感動を味わえなかったのだろうから。
色あせて忘れていく記憶の中で、鮮明に残る思い出は、きっと、宝物みたいなものなのだ。
だからだろうか。
お土産コーナーの一角で、ひっそりとあるソレが少し寂しい。
思ったよりも安いそれを手にする。
覗き込むための穴は封がされていて見えない。
それでもスッと目の高さに構えてしまう。
あの時の感動はきっともう感じない。
幾通りにも変わる『華』の仕組みはもう分かっている。
だからきっと覗いても、『ああ、なるほどね』と、思うくらいだろう。
それでも気になってしまうのは、宝物となったあの思い出のせいなのだろう。
それを買ってどうするの? と思うわたしも確かにいるのだけど。
買ったとしても、きっとどこかに飾って終わるだろう。
それは分かっているのに、棚に戻す気にはならない。
きっと、あの時のような感動をもう一度してみたい、と言う思いがあるからかもしれない。
置物と化しても、毎日眺めているうちに、繰り返しだと感じてしまう毎日が、万華鏡のように、くるりと鮮やかな華となって彩りがつくかもしれない。
「…………お守りってことで」
過度な期待はやめて。って、万華鏡に心かあったら思っているかもしれないが、そんな言い訳を口にし、買うことにした。
くるりくるりと回す度に変わる華。
くるりくるりと、日常が少しずつ色づいていくだろう。
その方が楽しいと気づいてしまったのだから。
小さなものでもいい。心を揺さぶる華を見つけたい。
今日のように、ふと思い出す『過去』の華を。
子供には子供の。
大人には大人の感動が、きっとあるはずだから。
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短くてもいいから何か書きたいなぁって思い浮かんだのが、何故か万華鏡でした。
で、書いてて思った事は。
良い風に書きたいのに、万華鏡をくるくる回すっていうのを考えると、180度回転。お先真っ暗闇な人生に!? とか浮かんじゃって。
「いや、違う。そんなんじゃなくて、もっと良い感じにして終わりたいの……」
と、何度も心で言い聞かせてました。
万華鏡 夏木 @blue_b_natuki
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