第23話「首都防衛作戦、語られざる英雄」
首都の夜は、星一つ見えない、鉛色の空に覆われていた。冷たい雨が降りしきり、アスファルトを濡らす。街灯の光が、濡れた路面に反射し、無数の光の筋を描いていた。水たまりには、不安に顔を歪める避難民たちの影が映り込んでいる。遠くで、人々のざわめきと、車のクラクションの音が聞こえる。テッサの心は、成功への確信と、宗介たちを危険に晒すことへの不安が、激しくぶつかり合っていた。
「テッサ、本当にこの作戦でいいのか?」
カリーニンの声が、テッサの耳に届く。宗介たちを、首都防衛の最前線に送り込むというテッサの判断は、あまりにも危険すぎた。しかし、テッサは、カリーニンの言葉に、何も答えることができなかった。彼女の心は、葛藤に引き裂かれていた。
(この作戦は、私が導き出した、最も合理的な判断だ…)
テッサの思考は、思考の暴走を始めた。
『この作戦は、まるでチェスだ。宗介たちは、私の駒。彼らを犠牲にすれば、勝利は確実だ。しかし、彼らは、私の大切な仲間だ。彼らを犠牲にすることは、私の人間性を犠牲にすることだ…宗介の、あの屈託のない笑顔が、モニターの隅に焼き付いている…彼の命を、私が駒として扱うのか…?』
彼女の心に、違和感が生まれた。彼女は、自分の論理が、彼女の感情を嘲笑っているように感じた。
「宗介! 敵のAS、多数確認!」
無線から、宗介の声が響く。宗介の瞳は、敵のASを、完璧なフィルタリング型で処理し、最適解を導き出していた。
宗介のAS、アーバレストは、敵のASを次々と撃破していく。銃撃音が、夜空に響き、爆発音がビルに反響する。雨に煙る射撃戦の中、マオは、ASを巧みに操り、市民の避難ルートを確保する。
「クルツ、左のビル! 避難民だ!」
マオの指示に、クルツは応える。
「了解! こっちは任せとけ!」
彼は、スナイパーライフルを構え、敵の操縦士を狙い撃っていく。
しかし、敵の数は、宗介たちの予想をはるかに上回っていた。敵のASは、連携をとり、宗介たちを追い詰めていく。
「くそっ、このままじゃ…!」
宗介の叫びが、虚しく響く。彼の心は、絶望と、無力感で満たされていた。彼は、テッサの論理が、彼らを、死の淵へと突き落としかねない、危険なものであることを、体感した。
宗介の心に、テッサに対する不信のベクトルが、強く刻み込まれた。
「テッサ…!」
宗介の叫びが、テッサの心に突き刺さる。テッサは、宗介の叫びに、涙を流した。彼女は、自分の判断が、宗介たちを危険に晒していることを理解していた。しかし、彼女は、この作戦を、止めることはできなかった。それは、彼女が、「司令官」としての使命感を、「一人の人間」としての感情よりも、優先させてしまったからだった。
その時、宗介のAS、アーバレストの機体が、敵の攻撃を受け、大破した。宗介は、意識を失い、地面に倒れ伏した。宗介の生命反応が、モニターから消える。テッサの心は、絶望と、悲しみで満たされていた。
「宗介…!」
テッサの叫びが、虚しく響く。しかし、その時、宗介の生命反応が、再び、モニターに映った。
宗介は、意識を取り戻し、ボロボロになったアーバレストのコクピットから、這い出してきた。彼の体は、傷だらけだった。しかし、彼の瞳は、強い光を放っていた。
「まだ…終わらない!」
宗介の声が、無線越しに響く。宗介は、自分の体に、「誰かを守る」という使命感を、改めて刻み込んだ。それは、宗介が、「なぜ戦うのか」という、彼の人生の原点を、改めて体感した瞬間だった。
この作戦は、宗介たち特別チームの決死の戦いによって、勝利に終わった。しかし、その代償は、あまりにも大きかった。多くの犠牲者を出したこの作戦で、宗介たちは「戦争の現実」を改めて突きつけられた。
宗介の「守りたい」という思いは、単なる使命感から、より個人的で「切実な願い」へと変化していく。この作戦が、宗介の価値観を根底から揺るがす、重要な必然性となった。そしてそれは、今後の物語を、より複雑で豊かなものへと導いていく。
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戦闘が終わり、首都に静けさが戻る。雨は、まだ降り続いていた。テッサは、艦長席で、静かに涙を流していた。彼女の瞳には、宗介たちの決死の戦いと、多くの犠牲が、鮮明に焼き付いていた。
その頃、宗介は、ボロボロになったアーバレストのそばに立っていた。彼の体は、痛みで震えていた。しかし、彼の心は、不思議なほど穏やかだった。
「…宗介、生きてたか…」
クルツが、軽口を叩きながら、宗介に近づいてくる。
「…ああ」
マオは、疲労困憊の顔で、二人のそばに立つ。
「…宗介、よくやったわ」
彼女の言葉に、宗介は、何も答えることができなかった。彼の心は、「俺は、守れたのか…それとも、失ったのか…?」という自己問答を繰り返していた。
この作戦が、宗介の「守りたい」という思いを、より個人的で切実な願いへと変化させた。この体験こそが、彼が、「なぜ戦うのか」という自問自答を繰り返す、彼の原点となった。
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