第6話

「えー…、あの、バカはぶちのめしましたので、どうかご安心を」

「ぐす、えう、すいません、ありがとうございます…」


 1:新たな魔王の誕生が報告される

 2:勇者がその場所を特定し、長距離移動魔法を使って即座に襲撃する

 3:勇者が新魔王を戦利品として捕獲、魔法で戻る

 4:魔王が勇者を叩きのめし、新魔王の無事を確認する


 勇者は「むしゃくしゃしてやった、自分の推し以外の魔王の存在は解釈違いだった」などと供述したが、ヤァンは無視した。


 会議室は混乱から落ち着きを取り戻しつつあった。勇者は席から床に叩き落とされ、来客に座席が譲られた。彼女の膝の上には使い魔がうずくまり、水入りの湯飲みに嘴を突っ込んでいた。

 未だ少し半泣きの彼女こそが、タニゾコノ国の新たな長、アウロラその人だった。薄桃色のセミロングヘアーにゆったり目のロングドレス姿で、どこかの姫のような美貌だ。しかし、後頭部から天に向かって生えているいびつなツノが、彼女の底知れぬ力を表している。


「それでですね、今回はご挨拶…ということで、よろしいですか?」

 ヤァンは話を元に戻す。

「あ、ハイ、就任しましたので、その報告に…」

 アウロラは穏やかな声で答えた。会話中にも撫でられている使い魔は、平静になって目を閉じている。


「おい、もしウチの国に余計な真似したら、わかってんだろうな?」

 ヤァンの配下のひとり、ガーゴイルが噛みついた。これは他の個体よりひときわ血の気の多い質で、周りにも止められることが多々あった。


「静かに!、…失礼しました、うちの者が」

「ああ、いえいえ、…余計な真似というのは───」

 ヤァンが声を荒げる。思想の自由はあれど、初手で問題ごとになるのは避けたかった。


 挑発を受けた魔王アウロラは、低い声で唸った。

「このようなこと、でしょうか」

 その時、会議室の床一面から、悪魔の水晶が無数に飛び出した。ヤァンたちの足を椅子ごと雁字搦めに強く拘束し、一人残らず身動きを封じる。

 床に這いつくばっていた勇者は、ほぼ氷漬けのような状態になった。

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