第2話

メンバーが揃い、四人での練習が本格的に始まった。スタジオでの時間はあっという間に過ぎ、私たちの音は日ごとに洗練されていった。もちろん、私個人のYouTubeチャンネル「雨宮レイ」の活動は、これまでと変わらず続けていた。私の歌声が多くの人に届くきっかけになった場所だし、応援してくれる人たちがいるから。他のメンバーも、きっとそれぞれに音楽と向き合う時間を持っていたんだと思う。

​でも、四人で音を合わせるたびに、「この音を、もっとたくさんの人に届けたい」という気持ちが強くなっていった。私の歌と、優太さんのドラム、飛鳥ちゃんのベース、ちひろさんのギター。この四人だからこそ生まれる音を、一つの形として世に出したい。そう考えた時、私が思いついたのは、新しいYouTubeチャンネルを作ることだった。

​「ねぇ、みんな。私たちだけのYouTubeチャンネル、作らない?」

​練習の休憩中、私がそう提案すると、優太さんは目を輝かせ、「おお! それはいいっすね! バンドの練習風景とかも載せられるっすね!」とすぐに賛成してくれた。飛鳥ちゃんは「へえ、あんたにしてはええこと考えるやん」と、いつもの調子で言いながらも、その表情には期待が浮かんでいた。ちひろさんも、静かに頷いてくれた。

​チャンネルの運営や動画の編集は、主に私が担当することになった。個人のチャンネルで培った経験が、ここでも役立つなんて、少し不思議な気持ちだった。まずは、私たちの練習風景や、それぞれの楽器を紹介するような動画を撮ってみることにした。そして、いつか、この四人の音で本格的なカバー曲や、オリジナルの曲をアップロードしたい。そんな夢が膨らんでいった。


​そして、「残響」の誕生へ___

​新しいYouTubeチャンネルを立ち上げ、少しずつ準備を進めていた頃、ふと私は、幼馴染みで有名なピアニスト、風鳴火華のことを思い出した。彼女の受賞歴は数えきれないほどで、まさか、そんな彼女が私のYouTubeを見てくれていたなんて。ある日、火華から私に連絡が来たのだ。

​「レイの歌、最近聴いてるよ。すごく良くなったね。もしよかったら、私も一緒に音を出してみない?」

​火華の言葉に、私は驚きと喜びでいっぱいになった。彼女の卓越したピアノが加わることで、私たちの音楽はさらに豊かな表現力を手に入れるだろう。早速、優太さん、飛鳥ちゃん、ちひろさんに相談すると、みんな快く火華を迎えることに賛成してくれた。

​五人になった私たちは、初めてセッションした後、バンド名をどうするか話し合った。それぞれの音が重なり合って、長く心に残る「残響」のような音楽を奏でたいという思いから、バンド名を「残響」と決めた。そして、私たちが作った新しいYouTubeチャンネルは、この「残響」という名前を冠することになったのだ。

​こうして、「残響」は結成された。私一人では決して辿り着けなかった場所へ。この個性豊かなメンバーたちと一緒なら、どんな困難も乗り越えていける。そんな予感に満ちた、新しい物語の始まりだった。


​ネットの海に響く残響:熱狂と考察の渦

​YouTubeコメント欄の熱狂

​「残響」のYouTubeチャンネルに初めて投稿されたセッション動画がアップロードされると、瞬く間にコメント欄は熱狂の渦に包まれた。顔出しをしないボーカル・レイの歌声と、個性的なメンバーたちの演奏が織りなすサウンドは、既存の音楽シーンにはない衝撃を与えたのだ。

​@MusicLover777_jp (2日前)

え、マジで何これ?レイさんの歌声は前から知ってたけど、バンドになるとこんなに化けるん?!鳥肌立った!ドラムの重低音とベースのグルーヴやばすぎだし、ギターの音色、こんなにエモいか普通?!

​@AnimeGeek_Kento (1日前)

初期の「雨宮レイ」チャンネルから追いかけてたけど、このバンドはやばい。レイさんの歌声にめちゃくちゃ奥行きが出てる。しかも、あのドラマーの人、ガタイすごすぎw ギャップ萌え半端ないんだけど。

​@TsugaruFan123 (1日前)

津軽弁の歌姫がバンド…感動したべ!方言で歌ってる曲とかも出してほしい!!このメンバーの組み合わせ、意外すぎて最高。

​@GuitarKid_Leo (17時間前)

ギターの人のソロ、鳥肌立ったわ。あの無口そうな雰囲気からのあの表現力、えぐい。ベースの子もめっちゃ上手いし、ドラムも安定感半端ない。このメンツでレイさんの声活かしまくりじゃん…!

​@SecretVoice_Addict (5時間前)

顔出しなしでここまで人を惹きつけられるレイさんの歌声、やっぱりすごい。でも、バンドになってから、それぞれの楽器がレイさんの歌声をさらに引き立ててる感じがする。これは確実にバズる。

​匿名掲示板「雑談スレ」の考察

​匿名掲示板の「音楽雑談スレ」では、「残響」に関するスレッドが立ち上がり、メンバーの考察や今後の展開についての議論が繰り広げられていた。

​1: 名無しさん@雑談 (投稿日時:YY/MM/DD HH:MM)

「残響」ってバンド、聴いたやついる?あの雨宮レイのバンドらしいんだけど、メンバーがぶっ飛んでる。

ドラム:水凪優太→脳筋マッチョ(プロフより)

ベース:明日葉飛鳥→関西弁毒舌貧乳(プロフより)

ギター:高峰ちひろ→無口巨乳(推測)

ボーカル:雨宮レイ→顔出しなし歌姫(謎)

カオスすぎだろwww

​2: 名無しさん@雑談

​1 それなw なんかの企画かと思ったわ。でも音はガチ。マジでクオリティ高い。レイの声とあのドラムの相性良すぎ。

​3: 名無しさん@雑談

ベースの子のツッコミ聞いてみたい。ラジオとかやってほしいわ。

​4: 名無しさん@雑談

高峰ちひろって、もしかしてあの「Silent Echo」っていうギタリスト? 昔ちょっとバズったことあったような…違うかな。無口って聞いてピンときたんだが。

​5: 名無しさん@雑談

​4 あー!確かに言われてみれば!もしそうなら相当な実力者じゃん。レイもよくこんなメンツ集めたな。Xの募集でどうやってこんな人たち引き寄せたんだろ。

​6: 名無しさん@雑談

しかし顔出しなしでどこまでいけるんやろ。ライブとかどうすんの?プロモーションとかも難しそうやけど、それがまたミステリアスでええのか。

​7: 名無しさん@雑談

レイの歌声だけで勝負してるからこそ、バンドになっても顔出ししないのは一貫してるよな。むしろ、それが「残響」のコンセプトなんだろ。歌声だけが全て、みたいな。

​SNS(X)での反響と期待

​X(旧Twitter)では、「#残響」「#雨宮レイ」「#顔出しなしバンド」といったハッシュタグと共に、ファンたちが熱い感想を投稿し、そのムーブメントはさらに広がりを見せていた。

​@ZankyoFan_01

「残響」の動画、無限リピしてる。マジでこのバンド、売れるしかないでしょ。レイさんの歌声ももちろんだけど、他のメンバーの技術とキャラがやばい。早くライブで生音聴きたい!!! #残響 #最強バンド

​@MusicAnalyst_jp

「残響」の登場は、現代の音楽シーンにおいて非常に興味深い現象だ。ボーカルの雨宮レイが顔出しをしないことで、リスナーは純粋に"音"に集中せざるを得ない。そこに、各楽器の熟練者が集結し、予測不能な化学反応を起こしている。特に、ドラム水凪優太とベース明日葉飛鳥のリズム隊は、まさに"核"だ。そこにギター高峰ちひろの繊細かつ大胆なプレイが加わり、楽曲に奥行きを与えている。これは、単なる「歌ってみた」の延長ではない。新しい時代のバンドサウンドが、ここから生まれる予感がする。 #残響 #音楽考察

​@Ray_supporter

レイさんがバンドメンバー募集した時、どんな人たちが集まるのかドキドキしてたけど、まさかこんな最高のメンバーが集まるとは…!みんなの個性も際立ってて、それぞれにファンがつきそう。早くオリジナル曲が聴きたいなー! #雨宮レイ #残響応援

​@KpopLover_Yuna

普段K-POPしか聴かないんだけど、「残響」の曲はマジで引き込まれた。特に、ボーカルのレイさんの声。透明感があるのに力強くて、鳥肌が止まらない。覆面バンドってかっこいい! #残響 #ハマった

​総括:謎と実力が生む新たな潮流

​ネット上での「残響」の評価は、まさに熱狂的だった。顔出しをしないミステリアスなボーカル・レイ。筋肉とプロテインを愛する規格外のドラマー・水凪優太。毒舌ながらも確かな腕を持つベーシスト・明日葉飛鳥。そして、無口ながらも感情豊かなギターを奏でる・高峰ちひろ。それぞれの強烈な個性がぶつかり合い、そして奇跡的に調和することで生まれる「残響」のサウンドは、多くの人々を魅了していた。

​その実力と、謎めいた存在感が相まって、彼らは瞬く間にネットの話題をさらい、新しい音楽の潮流を作り出し始めていた。リスナーたちは、次の動画、次の展開を心待ちにしながら、その「残響」がどこまで響き渡るのか、熱い眼差しで見守っていた。

​優太さん、飛鳥ちゃん、ちひろさん、そして私。四人になった「残響」は、スタジオで音を合わせるたびに、想像以上の化学反応を生み出していた。優太さんのドラムが力強くリズムを刻み、飛鳥ちゃんのベースがグルーヴを生み出し、ちひろさんのギターが豊かな色彩を添える。そこに私の歌声が乗ると、これまで一人で歌っていた時には感じられなかった、壮大な音楽のうねりが生まれる。私たちは、この音をどこまでも高めていける、そんな確かな予感に満ちていた。

​YouTubeチャンネル「残響」も順調に登録者数を増やし、コメント欄には熱い感想がたくさん寄せられた。「このバンド、ヤバい」「レイさんの歌声にこんなに合う音があったなんて」「早くオリジナル曲が聴きたい!」……。

そんな応援の声を聞くたびに、私の心は温かくなる。

​しかし、私の心の中には、まだ秘めた思いがあった。私はアニソンやJ-POPだけでなく、民謡や洋楽まで、幅広いジャンルの歌を歌ってきた。特に、日本の伝統的な音楽には、心の奥底を揺さぶるような魅力があると感じていた。もし、私たちの音楽に、もっと「和」の要素を取り入れたら、どんな新しい音色が生まれるだろう? そんな漠然とした好奇心が、私の胸の中で膨らみ始めていた。

眠れる尺八の響き:宗玄湊との出会い

​ある日、インターネットで日本の伝統楽器を使ったフュージョンバンドの動画を見ていた時のことだった。画面の中に、一人、異彩を放つ尺八奏者がいた。その人の名前は宗玄湊(そうげん みなと)。映像に映る彼女の目元はいつも眠たそうで、どこか覇気がなく、ステージに立っているのに、まるで夢の中にいるような雰囲気だった。しかし、尺八を構え、その音色を奏で始めた瞬間、空気は一変した。

​透明でありながら力強く、そしてどこか哀愁を帯びた尺八の音が、私の心にまっすぐに響いてきたのだ。その音色は、私の歌声と重なったらどんな響きになるだろう。居ても立ってもいられなくなり、私はすぐに彼女にDMを送った。

​数日後、湊さんから返信が来た。

「あー…レイさん。YouTubeの歌、聴いたっちゃんね。なんか、不思議な声しとるね。ちょっと興味あるけん、会ってみる?」

予想通りの、どこか眠たげで、そして博多弁混じりの返信だった。優太さんと飛鳥ちゃん、ちひろさんと相談し、湊さんに会うことになった。

​初めて会った湊さんは、やはり目元がとろんとしていて、カフェの席に座ってもどこか覇気がない。だけど、音楽の話になると、その目はわずかに輝き、尺八への深い愛情が垣間見えた。「尺八の音って、魂の音って言われるったい。人間の声に一番近い楽器かもしれんね」。彼女の言葉を聞いて、私は確信した。彼女の尺八が加われば、私の歌声はもっと奥深い表現ができるようになる。


​華やかな琴の旋律:鳴神颯との出会い

​湊さんとのセッションを重ね、尺八の音がバンドに新しい風を吹き込んでいるのを感じていた頃、私たちのチャンネルに一通のDMが届いた。それは、自分から積極的にコンタクトを取ってくるような、目立ちたがり屋の気質が伝わってくるものだった。

​「おはよ〜! 『残響』さん、いつも聴かせてもらっとります! 琴弾きの鳴神颯(なるかみ はやて)と申します〜。皆さんの音に、僕の琴の音が加わったら、もっともっと輝くと思いません? 僕、目立つのが大好きなので、ぜひご一緒させてくだされ!」

​彼のメッセージからは、明るさと自信が溢れていた。プロフィール写真を見ると、可愛らしい女性的な服装に身を包んだ、いわゆる「男の娘」と呼ばれる雰囲気の男性が写っていた。彼は鹿児島出身らしく、メッセージの端々から薩摩弁が垣間見えた。これまでのメンバーとは、また違った意味で強烈な個性を放っていた。

​優太さんは「面白そうっすね!」と興味津々で、飛鳥ちゃんは「また変な奴が増えるんか…」と呆れたように言いつつも、どこか楽しそうだった。ちひろさんも、静かに頷いてくれたので、私たちは颯さんと会うことにした。

​実際に会った颯さんは、写真で見た以上に華やかで、その場を明るくする魅力を持っていた。彼の琴は、優雅でありながらも力強く、そして驚くほど多種多様な音色を奏でることができた。ロックサウンドにも負けない、煌びやかな旋律が、私たちの音楽に新しい彩りを加えてくれるだろう。彼は「僕の琴は、何でもできるんです! みんなをあっと言わせたる!」と自信満々に語り、その言葉通りの実力を見せてくれた。

​和太鼓の轟き:白峰陽との出会いと、優太の新たなライバル

​颯さんとのセッションも始まり、私たちは日々、新しい音作りに夢中になっていた。そんなある日、優太さんが興奮した様子で私に話しかけてきた。

​「レイさん、ヤバイ奴見つけました! 和太鼓のバケモンです!」

​彼は、地元の祭りで見たという和太鼓奏者の動画を見せてくれた。画面に映っていたのは、上半身裸で、筋肉隆々の体躯から繰り出される和太鼓の音で、まるで大地が揺れているかのような迫力だった。その人の名は白峰陽(しらみね はる)。優太さんの興奮は尋常ではなく、彼が唯一認める「筋肉のライバル」を見つけたようだった。

​「この白峰って奴、俺と同じくらい筋肉がヤベェっす! でも、太鼓の音も半端ないっす! 絶対、俺のドラムと合わせたら、最強のリズム隊になるっす!」

​陽さんは横浜出身らしく、少し砕けた横浜弁が特徴的だった。優太さんの熱烈なオファーを受け、陽さんとのコンタクトが取れた。実際に会った陽さんは、優太さんに負けず劣らずの筋肉自慢で、会って早々、二人は筋肉談義に花を咲かせた。互いに腕を組み、力比べをする姿は、まるで兄弟のようでもあり、ライバルのようでもあった。

​スタジオでのセッションは、まさに圧巻だった。優太さんのドラムと、陽さんの和太鼓が重なり合った瞬間、スタジオ全体が震えるような轟音が響き渡った。力強いリズムが幾重にも重なり合い、そこに尺八の透明な音色、琴の煌びやかな旋律、そして私たちのバンドサウンドが加わった時、それはもう、ただの音楽ではなかった。魂を揺さぶるような、壮大で、どこか神秘的な響きが生まれたのだ。

​新生「残響」の誕生___

​尺八の宗玄湊、琴の鳴神颯、和太鼓の白峰陽。彼らが加わり、私たちのバンド「残響」は、レイ(ボーカル)、水凪優太(ドラム)、明日葉飛鳥(ベース)、高峰ちひろ(ギター)、そして幼馴染みの風鳴火華(ピアノ)に加え、総勢八人という大所帯になった。

​それぞれの楽器が持つ個性が、ぶつかり合うことなく、むしろ互いを引き立て合い、融合していく。ロックサウンドに日本の伝統楽器の音が加わることで、私たちの音楽は、誰も聴いたことのない、唯一無二の「和フュージョンロック」へと昇華した。

​八人全員で音を合わせた初めての瞬間、私は鳥肌が立つほどの感動を覚えた。「これだ…! これが、私たちが目指すべき音だ!」と。

​「残響」は、ただのバンドではなくなった。それは、様々な個性と多様な音が、互いを尊重し、高め合うことで生まれる、まさに「残響」のような、深く、長く心に残る音楽を奏でる集団へと進化したのだ。この新しい音を、世界中の人に届けたい。その強い思いが、私たち八人の心を一つにした。私たちの物語は、ここから新たな章へと進んでいく。

優太さんの力強いドラム、飛鳥ちゃんのグルーヴィーなベース、ちひろさんの繊細なギター。そして、私と火華ちゃんのピアノ。そこに、湊さんの魂を揺さぶる尺八、颯さんの華やかな琴、陽さんの大地を震わせる和太鼓が加わり、私たちのバンド「残響」は、ついに八人になった。

​初めて八人全員でスタジオに入った日。それぞれの楽器が奏でる音が、まるで生きているかのように響き合い、重なり合う光景は、私にとって忘れられないものになった。優太さんと陽さんの力比べのようなリズム隊が、文字通りバンドの「核」を作り出し、その上で飛鳥ちゃんのベースが自由自在に音を踊らせる。ちひろさんのギターは、時に激しく、時に優しく、感情の起伏を描き出し、火華ちゃんのピアノがそこに深みと煌めきを加える。

​そして、湊さんの尺八が空間に独特の「和」の空気を運び、颯さんの琴がその上を軽やかに、時に力強く舞う。このすべての音が、私の歌声と溶け合い、誰も聴いたことのない、唯一無二の「残響」のサウンドが生まれたのだ。この音こそが、私たちが探し求めていたものだと、確信した。

​オリジナル曲:魂を削る創作の日々

​八人全員で音を合わせる感覚を掴むと、私たちはすぐにオリジナル曲の制作に取り掛かった。これまで私一人で紡いできたメロディーや歌詞に、みんなの音が加わることで、それは全く新しい生命を吹き込まれた。

​作曲のプロセスは、まさに化学反応の連続だった。優太さんは、いつも「もっとガツンとくるリズムっす!」と言って、曲にパワフルな推進力を与えてくれた。飛鳥ちゃんは「このベースラインは、もっと泥臭くした方がええんちゃう?」と、楽曲に深みとグルーヴを加えていく。ちひろさんは、黙々とギターを弾きながら、誰も思いつかないような美しいコード進行やメロディーのアイデアを出してくれた。

​火華ちゃんは、ピアノで曲全体の世界観を広げ、オーケストラのような壮大さを加えてくれた。湊さんは、眠たげな目を擦りながらも、「ここには、もっと深い寂しさがいるたい」と、尺八の音で曲に魂の響きを込める。颯さんは「僕の琴で、もっとキラキラさせちゃいますよ!」と、華やかな旋律で曲を彩り、陽さんは「ここはもっと、ドォンと響かせましょう!」と、和太鼓で曲に圧倒的な迫力と大地に根ざした力を与えてくれた。

​それぞれの個性と技術がぶつかり合い、議論し、そして融合していく日々は、まるで魂を削るような作業だったけれど、その分、完成した曲は、私たち八人の心がこもった、かけがえのない宝物になった。歌詞は私が担当し、私の内側にある感情、この出会いの喜び、そして未来への希望を込めた。

​カバー曲:広がる可能性

​オリジナル曲の制作と並行して、私たちはYouTubeチャンネルでカバー曲も積極的に披露していった。これは、私たち「残響」の多様な音楽性を多くの人に知ってもらうための、大切な戦略だった。

​私の原点であるアニソンやゲームソングはもちろん、親しみやすいJ-POP、そして私のルーツである民謡や、メンバーそれぞれが好きな洋楽まで、幅広いジャンルの曲を選んだ。選曲会議はいつも盛り上がり、時には激論になることもあったけれど、最終的には「残響」の音で新しい魅力を引き出せるか、という点で意見がまとまった。

​特に、民謡のカバーは大きな反響を呼んだ。「まさか、民謡がこんなにカッコよくなるなんて!」「伝統と現代の融合、感動しました!」。尺八や琴、和太鼓が加わることで、私たちが演奏するカバー曲は、原曲とは全く違う、深みと新しい魅力を持った作品へと生まれ変わった。特にロックサウンドに和楽器が溶け合う感覚は、多くのリスナーに新鮮な驚きを与えた。

​YouTubeチャンネル「残響」の軌跡

​私たちのYouTubeチャンネル「残響」は、毎週決まった曜日に、オリジナル曲かカバー曲、あるいはその両方をアップロードするようになった。曲のレコーディングはもちろん、動画の編集は主に私が担当し、メンバーが協力してくれた。音源だけでなく、それぞれの楽器が映えるような映像作りにも力を入れた。顔出しはしないけれど、メンバーの演奏シーンや、楽器そのものの魅力を最大限に引き出す工夫を凝らした。

​コメント欄には、日々、国内外から熱いメッセージが届くようになった。「残響のサウンド、唯一無二!」「和楽器とロックの融合、最高にクール!」「このバンド、世界に行くべき!」。私個人のチャンネルを応援してくれていた人たちも、「レイさんがバンドでこんなすごい音を出すなんて!」と、私たちの進化を喜んでくれた。

​再生回数は飛躍的に伸び、チャンネル登録者数もあっという間に大台に乗った。私たちの音楽は、ネットの海を渡り、多くの人々の心に深く刻まれていく。それは、ただの数字では測れない、確かな「残響」を残し始めていたのだ。

​新たな始まり

​八人のメンバー、それぞれの個性と音楽への情熱が一つになった「残響」。私たちは、自分たちの音楽が、これほどまでに多くの人に受け入れられることに、大きな喜びと感謝を感じていた。まだ見ぬ景色が、私たちの目の前に広がっている。この「残響」の音を、もっと遠くへ、もっと多くの人々の心へ響かせたい。その強い思いを胸に、私たちはこれからも、最高の音を奏で続けていく。


​スクリーン越しの音から、リアルな衝動へ

​優太さん、飛鳥ちゃん、ちひろさん、火華ちゃん。そして、湊さん、颯さん、陽さん。八人になった「残響」は、YouTubeチャンネルでオリジナル曲やカバー曲を多数公開し、おかげさまで多くの方に聴いてもらえるようになった。コメント欄には「感動した」「生で聴きたい」という声が溢れ、私たちはその一つ一つに感謝していた。

​でも、いくらYouTubeでたくさんの再生回数を稼いでも、私たちの演奏はまだスクリーンの向こう側のもの。いつか、実際に人々の前で音を奏でたい。その思いは、メンバー全員が抱いていた。

​ある日の練習後、優太さんが汗を拭きながら切り出した。

「そろそろ、一回くらい、ライブやってみたいっすね!」

飛鳥ちゃんが「いきなりライブハウスなんてハードル高いやろ」と言うと、陽さんが「そしたら、路上とかどうっすか? いきなりデカい箱じゃなくて、まずは外で音出すのもアリじゃねぇすか?」と提案した。

​「まあ、ぼちぼち集まるやろ」というノリで

​最初はみんな、「路上ライブかぁ」「まあ、ぼちぼち人集まるくらいやろ」という、どこか緩いノリだった。YouTubeでは見てもらっているけれど、リアルでどれだけの人が足を止めてくれるかなんて、正直想像もつかなかったから。私自身も、顔出しをしていない私が、果たしてどれだけリアルな場所で受け入れられるのか、少し不安だった。

​「顔出ししてないのに、どれくらい来るんやろな」と飛鳥ちゃんが呟くと、優太さんが「レイさんの歌声と、俺たちの音聴いたら、そりゃあみんな立ち止まるっしょ!」と胸を張る。颯さんが「そうですよ! 僕の琴も、もっとたくさんの方に見てもらいたいし!」と意気込んだ。湊さんは相変わらず眠たそうな目で「まあ、人が来たら来たで、頑張るだけたいね」と、のんびりした口調だった。ちひろさんも静かに頷き、火華ちゃんはニコニコとみんなを見守っていた。

​大々的に告知はせず、数日前に「近いうちに、どこかでゲリラ的に音を出してみるかもしれません」と、私たちのYouTubeチャンネルとX(旧Twitter)に、ごく簡単に告知しただけだった。本格的な機材は持ち込まず、最低限のアンプとマイク、簡易的なドラムセット(優太さんが厳選した最小限の構成)、持ち運びやすいベースとギター、そして和楽器たち。本当に「まあ、数人でも聴いてくれたら嬉しいね」くらいの気持ちだったのだ。


​そして迎えた当日。都内のとある駅前の広場を選んだ。まだ人もまばらな時間を選んで、私たちは手早くセッティングを始めた。優太さんがドラムを組み立て、陽さんが和太鼓を並べ、飛鳥ちゃんとちひろさんがアンプに楽器を繋ぐ。私はマイクのテストをしながら、周りの様子をちらちらと伺っていた。本当に人が来るのかな……。

​数分もしないうちに、異変に気づいた。

ちらほらと、足を止める人が現れ始めたのだ。

最初のうちは数人だったのが、あっという間に数十人になり、私たちの周りに円を描くように人々が集まっていく。スマホを構える人、動画を撮り始める人、そして、目を丸くして私たちを見つめる人たち。

​「え、めっちゃ人おるやん…!」飛鳥ちゃんが驚きの声を上げた。

優太さんも「マジっすか?! 俺たち、そんなに有名だったんすか?!」と目を大きく見開いている。

湊さんは、いつもの眠たそうな目が少しだけ見開かれ、「あらま…こんなに人が集まるとは思わんかったばい」と呟いた。

ちひろさんは相変わらず無口だったけれど、その表情には微かな驚きと、喜びが見て取れた。火華ちゃんも「すごい…!」と感激した様子で、颯さんはすでに満面の笑みで、集まった人々に向かって手を振っていた。

​私たちの「残響」のYouTubeチャンネルをチェックしてくれていた人たちが、X(旧Twitter)の短い告知を見て、集まってくれたのだ。そして、その人たちがSNSで発信することで、さらに多くの人が駆けつけてきていた。

​私がマイクを握り、深く息を吸い込んだ。

​路上に響き渡る「残響」の音

​「皆さん、こんにちは…『残響』です!」

​私の声が、アンプを通して広場に響き渡った瞬間、ざわめきが歓声に変わった。その熱気に、全身の緊張が一気に吹き飛んだ。

優太さんのカウントと共に、最初の曲が始まった。

​優太さんのドラムと陽さんの和太鼓が織りなす力強いリズムが、広場の地面を揺らす。飛鳥ちゃんのベースがそのリズムに絡みつき、グルーヴを生み出す。ちひろさんのギターは、繊細なアルペジオから一転、感情を爆発させるような轟音を響かせた。火華ちゃんのピアノは、そのすべての音を包み込み、優雅なメロディーを紡ぐ。そして、湊さんの尺八が空間に和の風を運び、颯さんの琴が煌びやかに舞う。

​そして、そこに私の歌声が乗った。マイク越しでも、私の声は、これまでYouTubeの画面越しに聴いていた時よりも、何倍も力強く、そして生々しく響き渡るのを感じた。目の前の聴衆一人ひとりの表情が見える。彼らが、私たちの音楽に心を揺さぶられているのが伝わってくる。

​私は、顔出しをしていないけれど、この瞬間、この歌声で、確かに彼らと繋がっている。そう確信した。曲が終わるたびに、広場には割れんばかりの拍手と歓声が響き渡った。汗を流しながら演奏するメンバーの顔も、興奮と充実感に満ち溢れている。

​確かな手応え、そして次への覚悟

​短い時間だったけれど、私たちの初めての路上ライブは、予想をはるかに超える大成功だった。終わって機材を片付けながら、メンバーみんなで顔を見合わせた。

​「まさか、こんなに人が来てくれるとは…」

優太さんが興奮冷めやらぬ様子で言う。

「正直、ちょっとビビったわ」と飛鳥ちゃんが笑った。

ちひろさんは何も言わなかったけれど、その目には確かな達成感が宿っていた。

​私自身も、この日、改めて確信した。私たちの音楽は、画面の中だけでは終わらない。この「残響」の音は、リアルな世界でも、こんなにも多くの人々の心を揺さぶることができるんだ。この成功が、私たち八人の絆をさらに強くし、これからもっと大きなステージを目指すための、確かな一歩となったのだ。

​私たちは、この「残響」という名の音が、どこまで響き渡るのか。その答えを、これから見つけに行く。

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残響のレイ 匿名AI共創作家・春 @mf79910403

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