うみゃの思いつき短編集

猫鈴うみゃ

【短編】ヒーローは絶対負けない

‪「クソッ! また全滅か!」


 とある秘密基地の最奥。

 総司令官のサカヅキは、大型の湾曲モニターには荒野の中で倒れる5人の戦士達と、爆炎の中に揺れる異形の黒い影を見ていた。

 

 地に伏す彼らは、武装戦隊ブキレンジャー。

 彼らは未知の隕石を元に作られた変身ベルトで武装し、悪の組織と戦う正義の戦士たちだ。


 その隕石の名は『ブキニウム』。敵もまた、その力を利用していた。


『フハハハ! この程度か? ブキレンジャー』


 画面の中で異形の怪人『ノコギリ男爵』が、両手のノコギリから爆音を響かせた。

 

 ノコギリ男爵は、では使ってこなかった奥の手を使ってきて、ブキレンジャーは全員やられてしまった。


「――しかし、これであいつの奥の手はわかったぞ」


 サカヅキは画面に背を向けると、彼しか知らない隠し扉を通り、厳重に封印された部屋へと足を踏み入れた。


「これで45回目か……」


 その部屋は光り輝く無数の電子機器に埋め尽くされ、壁面の中央には青く輝く宝石であるブキニウムの巨大な原石が嵌められている。


 サカヅキは部屋に入り深くため息を吐くと、自らを鼓舞するように強く吸った。


「武装戦隊ブキレンジャーは何度でも! 勝つまで挑む! クロノ・ドライブ起動!!」


 サカヅキが赤いボタンを押すと、マシンは激しい光と音を奏でながら激しく胎動。キラキラとした光が降り注ぐ中、次第にサカヅキの視界が揺れた。


 ――ゆらゆらと揺れた視界が戻ると、そこは同じく秘密の小部屋。しかし先ほどまで激しく胎動していたマシンは沈黙している。


 サカヅキはすぐに時計を確認した。


「……3月15日か。よし今回も成功だ」


 それは先の全滅から5日前の日付。

 このマシンは、起動した時点から5日前の時間軸へと戻ることが可能なタイムマシンだった。


 サカヅキは秘密の小部屋から出ると、すぐにブキレンジャーの面々へ声をかけ、緊急の会議を開いた。


「みんなよく聞け。次に出てくるノコギリ男爵は、ピンチになると背中のノコギリが飛び出してくる。まずは両手のノコギリではなく、背中のノコギリを先に破壊しろ」


 作戦会議室では、サカヅキがブキレンジャーの面々にこれから戦う怪人たちの特徴や弱点を説明した。これでノコギリ男爵に負ける確率は下がる。


 いわゆる時間跳躍。


 武装戦隊ブキレンジャーの隠された力。サカヅキはこれを使い、今まで何度もブキレンジャーを勝利へと導いてきた。


「スゲー! これだけの情報があれば楽勝ですね! 総司令官!」


 ブキレッドである赤松優斗が尊敬の眼差しを向けると、サカヅキは照れくさそうに手を払った。


「ま、俺も秘密基地でただ座ってるだけじゃないってことだ」


 サカヅキはブキレンジャーに対しても、過去へ戻れることは明かしていない。余計な情報は想定外の未来へ進んでしまうからだ。


「これが、長官の異能。――未来視、か」


 ブキブラックである黒崎元康が鋭い視線を飛ばしてくるが、サカヅキはそれすらも笑ってやり過ごす。


「ハハハ。ま、臆病者な俺にはぴったりだな!」

「そうだよぉ! 長官はいっつもこの中から出ないしー! たまには運動したほうがいいですよぉ」


 ブキホワイトがサカヅキの背中をバシンと叩く。こんな何もない日常すらサカヅキにとってはかけがいのないワンシーンだった。



 ――その頃。


「……妙だ」


 敵組織ワルインダの幹部の1人『時計騎士』が何やら神妙な顔つきで、ブキレンジャーと怪人の過去の戦いの映像を見返していた。


 ――先週戦ったニッパー伯爵は初対面のはずなのに、あの不意打ちを回避された。偶然ではない。まるで、事前に知っていたような……。


「……確かめるか」


  時計騎士は一言漏らすとマントをひるがえして、地上へと向かった。一歩一歩階段を昇る度に疑念は確信へと変わっていく。


「私の考えが正しければ、少なくとも奴らは未来を見ている可能性がある……」

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うみゃの思いつき短編集 猫鈴うみゃ @mametubu_ichigo

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