会話怪談

つばきとよたろう

第1話 不動産屋と部屋を借りに来た学生さん

お客さん、学生さんでしたね。

ええ、まあ。

今日は暑いからそこに行くには丁度いいですけど。でもこの物件はあまりお勧めしないですよ。

そうですか。でもどうしてです?

どうしてって言われても。困りますけど。何となく。

何となくですか。何か訳があるのですか? 他の物件より家賃が随分安ですけど。

えっ? ああ。

何ですか?

何でもありません。ああ、ここです。二階の角部屋です。

北向きなんですね。

そうですね。日当たり気にします。

いいえ。安ければ、それほど気になりません。それが安い理由ですか?

いえ、そうじゃないですけど。はあ、本当に入ります。

ええ、お願いします。

本当に?

ええ、どうかしましたか? 気が進みませんか。

いえいえ、そういう訳ではありません。商売ですから、お客さんに言われたら、どこでも見せますよ。でもここはちょっとって考えてしまいましてね。

何かあるんですか?

いえいえ、そうではありませんよ。それじゃ入りましょうか。はあ~。気を付けてくださいよ。古くなっていますから。悪霊退散!!

えっ? はい。

わっ! ちょっとこれはまずいな。来るな来るな。

どうかしましたか?

えっ! ああ、何でもありません。こちらがキッチンです。狭いですかね。古いですし。あっ、来るな来るな。ちょっと、ちょっと。わー! わー! お経とか反則!

えっ、ぼくですか?

いえ、違います。お客さんに言ったんじゃありません。独り言みたいなものです。私独り言が多くて困ります。済みません。来るな。何だよ。増えてるじゃないか。

えっ? 何が増えてるんですか?

私そんな事言いました? 気にしないでください。独り言ですから。ここに来ると、おかしな独り言が出るんですよ。ちょっと来るな。来るなって言ってるだろ。ああ!!

大丈夫ですか?

ええ、まあ。大体分かりました。こんな感じなんですけど、まだ見ます。

もっと中まで見てみないと分かりませんよ。

そ、そうですよね。中見ます。玄関から一様中は見えると思うんですがね。行きます。これ以上行きたくないな。見えてるって足が。

はあ、足ですか?

いや、気にしないでください。独り言ですから、ああ。動くな。動くな。動くなって!

どうかしましたか? 動いたらいけませんか?

ああ、違います。お客さんに言ったんじゃありません。独り言です。それでは行きますか。こっちがリビングです。狭いですからすぐ見れますよ。ああ、見たくないな。

はあ、どうかしましたか?

何で中に座っているの?

誰かいます? 何も見えませんが。

はい、何もいませんよ。気の所為でした。気の所為です。どうです。もういいでしょう。こんな所出ましょう。

部屋はここだけですか?

へ、部屋? ええ。

間取りでは二つ部屋があったようですが。

ああ、あの部屋は今、開かないようになっているんです。その部屋は危ないですからね。

それはどうして?

どうしてって。わあ! 古いからですよ。そろそろ出ます?

トイレと風呂場も見せてください。

と、と、トイレと風呂場。まずいな。水場は多いのに。

何が多いんですか?

分かりません。

ええ。

何でもありません。そこにトイレと風呂場がありますから、自由に見てください。

あなたは見に来ないんですか?

ええ、何となく気が進まなくて

それでは見てきます。

どうですか? あまり長くいない方がいいですよ。憑いちゃいますから。

何がつくって言うんです。ああ、こんな感じなんですね。

お客さん、肝が据わっていますね。私ならそんな所無理です。

大体分かりました。

そうですか。それは良かった。それでは出ましょうか。どうです。止めます?

いいえ、ここに決めました。

ええ、本当に?

ええ。

何ともなかったですか?

はい。

そうですか。私なら絶対に借りませんけど。

そうですか。ぼく借ります。

いいんですか?

はい。

それでは契約書をお作りします。それじゃあ、出ましょう。出ろって言ったんじゃない。出るな出るなって。もう帰るから。

ええ?

何でもないです。


おしっこちびってしまったな。二十体も天井からぶら下がっていたからな。あのお客さんが二十一体目にならないといいんだけど。

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