極限物語

もうソウ太郎

第1話 鬼滅の万博極限物語

気温36度。灼熱の夢洲駅に降り立った瞬間、腹の奥から「ギュルギュル…」と鬼の咆哮が響く。

これは…確実に“来る”やつだ。

11時、東ゲート前。視界には地平線まで続く人の列。誘導員の指示で、二本の列のどちらかを選ばねばならない。

右列——そこには金髪190cm、サングラスのフランス人らしき男と、2リットルの水を片手に持つ彼女。

男は1リットルの飲むヨーグルトにストローを突き刺し、無言で彼女へ差し出す。

彼女は口をつけながら、男のバッグからバナナの皮を2つ取り出し、空いたヨーグルトパックに押し込む。

……あれは完全に“人食いの鬼”だ。炭治郎の直感が私を左列へと導く。

だがそこには、さらなる地獄が待っていた。

高齢者の集団が、荷物チェックの場でスマホの二次元コードを開けずにスタッフに泣きつき、バッグを開けば飴玉と駄菓子が零れ落ち、地面一面が縁日の屋台のように…。

私の顔色は灰色に変わる。

——ここにも鬼がいた。

右列のフランス人ペアは、バナナを食べながらゲートをすり抜ける。鬼ではなかった。判断を誤った。

私はすでに**水の呼吸 壱の型「腹痛限界突破」**の領域に入っていた。

ようやく私の番。

スタッフ「コーヒーのペットボトルは飲み切ってください」

——出た、本物の鬼。

もう一滴でも液体を入れれば即討ち死にだが、私は覚悟を決め、黒い液体を喉へ流し込む。全集中・腹の呼吸。

通過…かと思いきや、二次元コードを出そうとした瞬間、iPhoneのバッテリーが赤く点滅——「プツン」。

再び首を斬られた。皮一枚で繋がっている感覚。

慌てて充電ケーブルを抜刀すると、接続部はタイプC。iPhone13には刺さらぬ。

——神は私を見放した。

だが、その時奇跡が起こる。

消えかけた画面が一瞬だけ復活。光の刃が鬼の頸を断つように、二次元コードが読み取られる!

私はこの数年で最速の**駆け込みの型・拾参ノ型「生還」**を披露して入場。

全身の毛穴から湯気が立ち昇る。

教訓——たとえ万博でも、腹痛でも、列地獄でも、最後まで諦めない心こそが、真の“日輪刀”なのだ。










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極限物語 もうソウ太郎 @kamibuu04

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