第7話 大団円
今回の一連の事件は、
「二種類の血液」
というのが問題だった。
「血に関わる問題」
ということで考えた時、秋元刑事は、最初から考えていたことがあった。
それが
「吸血鬼ドラキュラ」
の話であった。
この話において、秋元刑事が注目したということは、
「ドラキュラが血を吸うと、吸われた人も吸血鬼になる」
ということで、
「それこそ、鼠算式に増えてくる」
ということであった。
「真実が一つなのか?」
というところで話をしたが、鼠算式に増えていく、
「ドラキュラ」
を思い起こさせるということは、それこそ、
「吸血鬼と真実」
というものを考えさせられる。
ドラキュラは、洗脳するわけでもなければ、催眠に掛けるわけでもない。
「しかし、血を吸われた人間は、ドラキュラの毒によるものなのか、自分も同じになってしまう」
という発想は、正直、
「画期的な発想だ」
といってもいいだろう。
ドラキュラというものが、殺されるわけではなく、その人に変身するという発想から、
「もう一種類の血液」
ということを考えると、
「今回の通り魔事件」
というのは、
「誰も殺されているわけではない」
ということで、入院はするが、記憶を失ったりという後遺症を経て、結局、普通の生活に戻って。その人は、
「事なきを得ている」
ということになるだろう。
しかし、事件自体は終わっているわけではない。
実際に、半年で何人もが襲われているというのは、どういうことになるのだろう。
ただ、
「殺された人がいない」
ということで、暴行を受けた人は、何か、犯人にとって、
「血が必要だった」
ということなのかも知れない。
ただ、もう一種類の血というのは、どうやら、どこかの病院で盗まれたものだったということだ。
「そういえば、血液に関していえば、失踪した清水刑事は、以前、血清をはこんだことがあったな」
というのを思い出した人がいた。
「じゃあ、その血清の一部を使った」
ということかな?
と考えたが、
「でも、血清を盗んだりすれば、見つかるのでは?」
ということであったが、
「いや、その血清というのも、本当は一つでよかったものを二つ使ったとして報告すれば問題ないのでは?」
ということであった。
その信憑性を高めるということで、
「清水刑事は利用されたということか?」
と考えると、清水刑事が失踪していることも分からなくもない。
ただ。問題は、
「清水刑事が、犯人の本当の目的を知らずに利用されただけということになると、清水刑事は生きていないかも知れない」
ということであった。
「本当の目的って何なんだろう?」
ということで、
「それは、催眠か洗脳の研究じゃなかったのかな? ドラキュラのような、感覚で、クローン人間を作ろうとして、血液を混ぜたりしての研究と考えると分からなくもない」
と秋元刑事は言った。
秋元刑事は、自分が、最初から、
「ドラキュラの発想」
だと思えば、すぐに、
「清水刑事は共犯者だ」
と感じたのだ。
もちろん、警察官としての勧善懲悪な気持ちというものがあるのだろうが、何も、法律だけが正義ではない。
逆に法律ではどうしようもないことを、いかに解決できるかということを絶えず考えながら、
「警察という組織の中にいる自分」
というものに対して。ジレンマを感じていたのだろう。
だから、清水刑事は、犯人の考えに同調した。
「血液を使って、これから自分が思うような、事件解決であったり、世の中の浄化ということで、血液の研究が不可欠だ」
と考えたに違いない。
だが、やっているうちに、なかなか成果も出ずに、事件ばかり起こることで、嫌気がさしたのだろう。
だから、逆らって、犯人から、
「もうお前はいらない」
と言われたのではないだろうか?
だから、被害者が横山の時に、
「必要以上に大量の血を使ったのだ」
ということになる。
警察に対して、
「事件をこれで解決してほしい」
という自分なりのメッセージだったのだろう。
こんな暗号のような形にしたのは、あくまでも自分も犯人の口車に乗って、
「できもしないことをできると感じ、洗脳を受ける形だったものを恥じる形で、ハッキリそした形で言い表せなかったのは、自分に対しての戒めということで考えていたのだろう」
その気持ちは、
「俺にはよくわかる」
と秋元刑事は思った。
犯人は、しばらくすると捕まった。
清水巡査は、結局犯人の自供で、殺害された形で見つかったのだが、そもそも、清水刑事が殺されなければ、この事件は、
「殺人事件」
ということではなかった。
しかし、犯人は、この計画は、
「清水刑事に話したことと」
というものとはまったく違うものだった。
犯人が本当に欲しかったのは、
「地位と名誉とお金」
だった。
欲にまみれた犯人は、その欲というものに、終わりがないということを知らなかった。
ひょっとすると知っていたかも知れないが、だからといって、
「俺が、悪いわけではない」
と思っている以上、
「救いようがない」
といえるだろう。
そういう意味で、清水刑事は、途中で、
「欲に終わりがない」
ということに気づいたのかも知れない。
清水刑事は、警察に入る前から今まで、一貫してまわりからは、
「あいつに、欲なんてものがあるのか?」
と言われていたのだ。
だから、
「初めて、欲というものにまみれてみて、新鮮な気持ちで。欲に終わりはないと初めて感じた」
ということであろう。
だから、今回の事件を解決したのは、
「清水刑事」
であった。
本来なら犯人も、
「今回の事件で自分の考えていることが、いかに素晴らしいか?」
ということに気づいていた。
しかし、それが、
「自分の発明した薬によって、自意識過剰になっていた」
というのだ。
しかし、その副作用で、今度は正反対になってしまった。
「俺の薬は大丈夫か?」
という。
今度は、
「猜疑心と、自分への自信喪失だったのだ」
この辺りは、実は、
「清水刑事に似ていた」
本来であれば、犯人は、
「俺は清水刑事とは正反対なんだ」
ということから、清水刑事を利用した。
しかし、犯人にとっての、最大のミスがあった。
それは、
「犯人が、あまりにも、清水刑事と近い考え方にあった」
ということからだった。
「新しい薬を使えば、正反対の性格を自分に宿すことができ、まるでジキルとハイドのようであるが。今回は、その本の教訓を生かし、決して。もう一つの性格に自分を乗っ取られないようにしよう」
と考え、それは功を奏した。
しかし、その正反対の自分というのが、
「清水刑事と自分は同じ性格なのだから、正反対の性格の清水刑事も、自分がコントロールできる」
と考えたようだ。
しかし、ここに計算違いがあった。
「実際に裏を返した時の清水刑事は、自分の裏とは、まったく似ていなかった」
というのだ。
つまりは、
「似て非なるもの」
ということで、
「タイムスリップにおける、無限の可能性」
といえるもので、
「変わってしまった過去から、未来に戻っても、それは、まったく違う可能性から出てきた世界でしかない」
ということで、
「元に戻すには、狂ってしまったその場所から元に戻す必要がある」
ということになるのだ。
だから、今回において、
「マイナスにマイナスを掛けるとプラスになる」
ということであるが、その発想から、今度は、
「ボタンの掛け違いがどこかで起こり、それが、タイムパラドックスのような罰が当たるということから。事件は、犯人の想定外のところにいき、そもそも、それが、犯人が誰であるかということを、まったくわからせないところに来ていたのだった」
そして、それこそが、
「真実と事実の近いにつながる」
ということだったのだ。
だが、秋元刑事の発想ですべてがつながったことで、
「まさかお前が?」
という結末にはなったが、
「これで、清水刑事の供養になる」
というものだ。
しかし、これは決して、
「弔い」
ということではない。少なくとも、表の清水刑事は、
「自分にまけたのだ」
事件を解決するきっかけになったのは、
「裏の清水刑事の存在」
ということで、それを知っているのは、当の犯人と、秋元刑事ではないだろうか。
「今回の犯人が誰なのかって?」
そう、それは、
「佐久間刑事だったのである」
( 完 )
裏の裏 森本 晃次 @kakku
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