第2話 リザードマン集落の“もう一つの戦い”

 凍てつく大氷原。激しい吹雪が視界を奪い、生物の存在を拒絶するかのような極寒の世界。その片隅に、リザードマンの小さな集落があった。

 彼らは数日前から続く猛吹雪で食料が尽きかけ、絶望の淵にあった。だが、リーダーである老戦士は決して諦めない。彼の目は、燃え盛る炎のように熱い闘志を宿していた。

 「我らの血は、この大地を流れる川と同じ。決して止まることはない!」

 老戦士は、若き戦士たちの目を一人ひとり見つめ、その言葉を刻み込む。彼らは、種族の存続を賭けた最後の戦いに臨もうとしていた。それは生存のための本能であり、種族の尊厳を守るための必然だった。


 一方、集落の目前に迫っていたのは、コキュートス様の指揮下で派遣されたナザリックの別動隊だった。彼らを率いるのは、コキュートス配下の精鋭。彼らは「殲滅」か「交渉」のいずれかを、集落の抵抗の度合いを見て判断せよという、奇妙な命令を受けていた。

 部隊長は、その命令に「違和感」を感じていた。

 《殲滅を命じられれば、この小さな集落など一瞬で塵芥と化す。なぜ、あえて交渉の余地を残されたのか?》

 この「違和感」が、彼の思考の中で「感情の膨張」を引き起こす。コキュートス様は、単なる命令を遂行するだけの存在ではない。この選択には、必ず何らかの「意味」があるはずだと、彼は推測する。


 別動隊が集落の姿を捉えた。リーダーである老戦士は、一目見て彼らが異質な、そして絶望的な強さを持つ存在であることを悟った。しかし、彼は臆することなく、交渉の余地を探るため、一歩前に進み出る。

 「我らは、この地で生きる者。いかなる敵にも、容易く命を明け渡すことはない!」

 その声は、震えていなかった。それは生存をかけた、誇り高き者の叫びだった。

 部隊長は、その声を聞き、コキュートス様の命令の真意を理解する。これは単なる殲滅戦ではない。絶望的な状況下でも、尊厳を失わない「個」を見極め、ナザリックの支配下における「種族の価値」を評価するためのテストだったのだ。


 「我らは、ナザリックのしもべ。お前たちの命を奪いに来た」

 部隊長は、あえて冷たく告げる。しかし、老戦士はそれに屈しない。

 「ならば、その命、存分に奪ってみせよ!」

 彼の言葉に呼応するように、集落の戦士たちが一斉に武器を構える。彼らは、たとえ死が待っていようとも、ナザリックに屈することを拒んだのだ。

 部隊長は、その覚悟を称賛しつつも、命令に従い「殲滅」を決断する。しかし、その報告を受けたコキュートスの思考には、新たなデータが記録された。

 《絶望の中でも希望を捨てず、誇りを守ろうとする種族……。彼らには、単なる殲滅以上の価値があるのではないか?》


 この戦闘は、一瞬で終わった。しかし、コキュートスの内には、彼らの抵抗が深く刻み込まれた。この経験が、彼が後にアインズ様に「リザードマンを支配するにあたって、彼らの文化やプライドを尊重すべきか」と進言する遠因となるのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る