Episode2:地神-chisin-



 皆様、ごきげんよう。

 私は『地神ちしん』という、文字通り地域を管理する神様です。


 この世界には私の他にも多数の『地神』がいて、さらに上には世界全体を支配する『総地神』がいるのです。

 今から五年前、私は訳あって人間の世界へと舞い降りました。


「──えーと」

 私が管理しているのは、都心からやや離れた地域一体です。その中でもこの街は、私のお気に入りです。

「こっちですわね」

 今日は久々に人間の世界に実際に足を運びました。こうやって世界に舞い降りるときは、人間と同じ体、スペックで舞い降りなければならないので大変です。私はそこまで大きな力を持った地神ではないので、体も小さいものしか生成できません。いつも空から見ているように高速で動くことはできませんし、もし仮にこの姿の状態で誰かに後ろから刺されでもしたら、私は存在ごと消えてしまうことになるのです。

 まぁ、でも、リスクを冒してでも冒険したいときはあります。それが今日──百貨店のスイーツ展開催日です。天界にはない美味しいスイーツがそろいます。なにせ、管理しているのはここら一体だけですから、全国のおいしいものを手に入れるチャンスはほとんどないのです(『地神』は管理している地域から出ることが基本的にはできません)。


「ふふふふー」

 テンションが上がります。神を祭る場所から歩いていたのですが、気づけばもう百貨店の目の前でした。

「ふふふ……ん?」

 しかし、そこで異変が起こります。何やら騒がしいのです。

「なんだろ?」

 この体は小さくて大変でしたが、頑張って人混みを抜けてみました。すると、百貨店の入口付近に銃のようなものを持った男性5人組がいるではないですか。

「うわ……」

 私は前に出てしまったことを後悔しました。既に3人の女性が人質のような状態になっていたのですが、私を見た5人のうちの1人が瞬く間に私のことを拘束してしまいました。


(やばいです……)

 先ほども言いましたが、この体は所詮人間を元にしたものでしかないので、とても非力です。イメージ的には小学生女子くらいの力しかないでしょう。なんとかして逃げたいのですが、どうにもならないのです。

「──今すぐ金を持って来い!そうしなければ20分おきにこいつらを殺していく!!」

 犯人たちはそう言いました。

 私の顔は真っ青になったと思います。

 先ほども言いましたが、もしこの体の状態で殺されたら私は消滅することになります。もしかしたら、私の神としての生命はここで終わるのかもしれません。


「……」

「ちっ……おせーなぁ!!」

 どうやら、彼らはこの百貨店1階にある銀行が目当てだったようです。もしかしたら銀行の中にも仲間が侵入しているのかもしれません。店の外で拘束されている私たちはパフォーマンスのために拘束されているのでしょう。人の命を何だと思っているのでしょうか。


「……もういい。俺たちが本気じゃないと思ってるみてーだなぁ!おらっ、そっちで撮ってるお前ら、ちゃんとネットに載せとけよ!」

 私を拘束していた男は、金を出すのが遅いと言って怒鳴る。そして私に突き付けた銃を私の顎の下付近に移動させました。

「……っ、ひ!」

 私は悟ります。これは、死にました。おしまいです。

「わりいな、嬢ちゃん。君の人生はここでおしまいだ」


 男がそう言った瞬間、『パンッ』と音が鳴りました。

 私の体が横に倒れる感覚がありました。

 不思議と痛みはありませんでしたが、それはおそらく顎の下から脳天を貫かれ、もうすぐ死ぬからでしょう。

 意識は後何秒持つのでしょうか。

 生命というものは、あっけないものですね。

 私は目を閉じました。









「…………………?」


 しかし、一向に、終わりの時はきませんでした。


「大丈夫?ケガとかない?」


 その代わり、私は誰かに抱えられていたのです。


「強盗はもう捕まったから大丈夫だよ」

「え……え?」


 私はぼーっとあたりを見回したのですが、状況を理解するのに数秒はかかったと思います。どうやら、強盗たちが警察官たちに一斉に取り押さえられたようなのです。

 そして、私を拘束していた男は、私を今抱えている男性の元に転がっていました。


「うん、ケガはなさそうだね。保護者の方はここに来てる?」

「あ……えっと……」

「あ、ごめんね。私はそこの銀行員なんだ。怪しい人間じゃないよ」


 私は思わずたじたじとしてしまいました。それは仕方のないことです。私を抱えていた男性がカッコよかったからです。

 一見地味を装っていますが、カリスマ銀行員なのは間違いないと、神の私は見抜きました。


「あ……ありがとうございます」

「いや、別に大したことはしてないけどね」


「──あ、箱庭はこにわさん!おかげさまで助かりましたよ!」

 警官と思われる若い男性がやってきた。


「ああ、陽太ようたくん!上手くいってなによりだよ」

「箱庭さんの銀行が襲われたと聞いて焦りましたが……流石ですね。潜伏作戦大成功ですよ!」

「ははは。まぁ地味だからね、私」

「またまたぁ、まるで忍者のような気配の消し方じゃないですかぁ。警官たちからもいつも羨望の眼差しで見られているんですよ?」

「はは……冗談が上手いね。じゃあ、これで私は失礼するよ。その子、多分保護者と離れちゃったと思うから」

「あ、了解です!」


 警官の人から箱庭はこにわと呼ばれた男性は私に少し手を振ると、そのまま銀行の中へと戻っていった。

 この後、私は「保護者の人がどこにいるか分かる?」などと困った質問を警官にされてしまい、少し対応に困ったのですが、それはさておき。


 後で知った話ですが、どうやらあの箱庭はこにわという銀行員、やはり普通ではなかったようです。彼は週の半分はこの町の銀行で働いているようで、圧倒的な強さ、スキル、そして善の心を持っていたのでした。

 

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