その瞬間に、恋が見えた気がした
@syubi01
第1話 となりの彼女と、夏のにおい
教室の窓際の席って、なんか特別な感じがする。
外の光が斜めに入ってきて、風がふわっと机の上を通っていく。
僕はこの席がけっこう好きで、今の学期はずっとここ。
そして、となりには――佐々木さんがいる。
静かな子だ。
話しかけたことは、まだない。
髪はいつも後ろで結んでいて、朝、席に着くと、まずそれを結び直す。
今日も、暑い夏の湿気が残る朝だった。
蝉の声がやたらと耳にうるさくて、僕はうつむいたままぼんやりしていた。
そのとき、ふと横で動く気配がして、視線が自然とそっちに向いた。
佐々木さんが、腕をあげて髪をまとめているところだった。
制服の袖が、少しずれて。
光の加減で、その隙間から――
一瞬、何かが見えた。
というか、「見えてしまった」って言った方が正しい。
白い、でも少しだけ透けた感じの、薄い布。
その向こうにある、肌の奥の線みたいなもの。
それが何かは、言葉にするのは難しいけど、でも……
心臓が、ドクンと跳ねた。
背中に、汗が流れた気がした。
僕は慌てて顔を背けた。
でも、頭の中には、さっきの「隙間」の映像が、くっきりと残っていた。
なんなんだ、あれ。
いや、見ちゃいけなかったよな。でも、あれは……その……
なんていうか、ちょっと、刺激が強すぎた。
それからの一時間、授業の内容なんてほとんど入ってこなかった。
ノートに書いたのは、タイトルと日付だけ。
佐々木さんの動きが気になって、何度も視線が勝手に横へ流れてしまう。
そして気づいた。
その「一瞬」を思い出すだけで、心臓が速くなる。
喉が乾く。息が浅くなる。
……これって、もしかして――
『俺、佐々木さんのこと、好きなのかもしれない……』
ふざけてるわけじゃない。
本気で、そう思った。
だって、あんなにドキドキするなんて、今までなかったから。
その日、家に帰ってからもずっと彼女のことが頭から離れなかった。
夕飯の味も覚えてない。
テレビもつけたけど、内容が全然入ってこなかった。
胸の奥がざわついて、どこか熱くて、
何かをぶつけたくなるような、でも守りたくなるような――
そんなよくわからない情熱みたいなものが、溢れてきた。
理由なんて、いらなかった。
たった一つの「隙間」が、僕を完全に狂わせた。
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