第9話 新都
おおむね人間にとって最適な範囲内の数値で保たれた気温と湿度。
光熱だけに留まらず、適度な紫外線までほぼ完全に再現された人工太陽。
三百メールの高さを持つ天井一面を覆うディスプレイには高解像度の空模様。時間帯に合わせて昼と夜が切り替わる上、日によっては雨も降るし風も吹く。
そんな、およそ地下深くに位置しているとは思えない空間。
総面積は
西暦二〇二〇年のトーキョー封鎖後、二十年の歳月をかけて造られた、人類最後の楽園。
名を『
かつて暮らしていたこともある、俺の一番嫌いな場所だ。
その中で俺たちの立ち入りが許されるのは、エレベーター近郊の商業区だけ。
もしも他の区画に一歩でも足を踏み入れようものなら、治安維持局の
まあ、そもそも他区画に用など無い。
あえて治安維持局とコトを構えたいなら話は別だが、そんな真似をする理由も今日のところは思い浮かばない。
「まずは協会か」
「ええ。行きましょうか」
探索者支援協会。
元を
発足当初は名前通りに
が、そのことを
仮に後ろ指をさすべき相手が居るとしたら、
──人類諸君。我々の文明は
かつての『人類文明敗北宣言』を受けて政府全権が二大企業へと移譲されてからは両企業共有の下部組織という形で吸収。現代においては
細々と、だが。
「ここも相変わらずだな」
エレベーターから歩いて五分足らずの位置に門を構えた協会ビル。
中は閑散としており、両耳にイヤーカフ型の
当然と言えば当然。
スタンピードとは
そして外界で暴れ回るクリーチャーたちの振り
ゆえにこそトーキョー封鎖直後は数多くの
地上と海洋のみを対象とした
そう。
ゆえに極端な話、いつ放棄しても構わないのだ。かつて旧時代の政府がトーキョー以外の国土をそうしたように。
それでも協会を解体せずにいるのは、空間を汚染する毒素こそ除去済みとは言えエーテルを細胞へと染み込ませた
たまには外の空気を吸いたい。本物の太陽の光を浴びたい。そんな小さな未練を土台に据えて、俺たちは日銭を稼ぐための手立てを得ている。
なんとも
ジルの
「何がノルマ未達だよ、うざってぇ」
そして
未達成が何ヶ月か続くと矯正施設に放り込まれて
まあ名目こそ返納だが、その実態は買い取りゆえ、一応金銭と引き換えではある。
価格設定はかなり渋いが。
「てめぇらの出してくる雀の涙も同然な
「ふふっ。子沢山のパパは大変ね」
第一こちとら父親なんてガラかよ。ガキ共にとって恐怖の対象でしかないんだぞ。
ジルがママやら母さんやら呼ばれてるのは
ちなみに
そこはかとない舐められてる感。ジルより五つも年上なのにな。
ただ、見方によってはアイツが一番懐かれてる気もする。
ああも教育に悪影響な格好してるのに。
「いつも御苦労様」
考え込む
「子供たちも、きっとそのうち分かってくれると思うの。貴方が本当は、どんな人か」
若い女のヒトガタばかり食ってる異常偏食者とかか。
うーむ、事実陳列罪。訴訟も辞さない。
…………。
「興味ねぇな」
俺の拾った女どもが拾ってきたガキなら、最終的な責任の
だから好かれようが嫌われようが怖がられようが、どうでもいい。少なくとも自分で自分の面倒が見られる程度になるまでは、何があろうと寝食と安全を保証する。かつて
それだけのシンプルな話だ。
いちいち小難しく考える必要など、一切ない。
「食料以外に何か要るもんあるのか?」
「んー、
「となると、二番街の青看板だな」
そういう輩に限って、目ざとく耳の
それでなくとも、
無法な上と違って統治が行き届いてるから大抵は可愛いイチャモンをつけられる程度だが、中には厄介なのも居るんだよな。
「──待て」
例えば今、俺の目の前に立ってる、治安維持局の制服を着た役人とか。
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