部室

「そういえば山崎氏ぃー、この話知ってますかー?」

「知らねえ」


 ハルミンの問いかけに、俺は殆どノータイムで即答した。


 地方の三流大学。

 そのやる気のない、もはや飲みサー同然であるオカルトサークルの部室。


 狭い室内には小さな机を挟んで、ソファーが向かい合って置かれている。

 壁際の棚には、オカルト関連の本や漫画、宇宙人やUMAのフィギュアなどが並んでいた。


 時刻は、午後の三時過ぎ。

 その時の俺はソファーに腰掛け、気怠げに手元のスマホをいじっていた。


 俺の名前は山崎いつき

 二十歳の大学三年生だ。


 金髪で目つきが鋭いのに加え、秋口にはだいたい竜や虎の描かれたいかついスカジャンを羽織っていることもあってか、初対面の人間によく怖がられてしまう。


 俺としては単に自分の格好いいと思う服を着ているだけなのだが、心ない後輩からは「オタクとヤンキーの最悪悪魔合体」などと呼ばれて小馬鹿にされていた。


 そんな心ない後輩——ハルミンこと須田すだ晴海はるみは、俺の対面のソファーに座っていた。


 こいつは、俺の一学年下の二年生。

 黒髪のショートカットに、黒縁の眼鏡。

 黒シャツに黒パンツという黒コーデで、身長は百五十センチに少し足りないくらい。

 女子の中でも小柄な方だ。


「もー、ちゃんと聞いてくださいよお」 


 不満げな声をあげるハルミンの方を見ずに、俺は答えた。

 

「後にしろ。俺は忙しいんだ」

「またまたー。さっきからすっげー暇そうじゃないすか。Xのタイムラインだらだら眺めてるだけでしょ?」

「馬鹿言え。俺は今、著名人の訃報を報じるニュース記事に、わざわざ『誰だよ』とリプライを送っている不躾ぶしつけな奴らのコンタクトレンズが目の奥深くに入ってしまうよう、呪いの念を送ってるのだ」

「いや、めちゃくちゃ暇じゃないすか。てゆーか、なんで相手が目ぇ悪いの前提なんですか?」


 そんなことより、とハルミンが続ける。


「実は、面白い噂を耳にしまして」

「ふうん——『からくりサーカス』の最後らへんとどっちが面白い?」

「ハードル高すぎません?」

「あ、今日の午後ロー、『リベリオン』だったんだ……観たことある?」

「話題を変えるな!こっちを向け!」


 まったく、やかましい奴だ。

 俺はやれやれと溜息をつき、スマホから顔をあげた。


「わかった、わかった。で、どんな話だ?」


 ハルミンはニヤリと笑うと、


「昨日のことなんですけどね——」


 と、こちらへ身を乗り出した。

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