第37話 ①太った小麦の実
ずいぶん前にやったことだし、小麦を育てていなかったが、姉イザベラの農園は紅茶で売り上げが伸びたので、より低い海岸よりの地域の農地を購入した。そこは小麦畑で、昔のように背が高く、一つの穂からは10粒も収穫できない品種が育てられていた。
〇×△
マルコは昔のように、初めの年は種もみを手のひらに載せては背が低くなるように願った。2年目には70cmぐらいになり、収穫量は倍増した。
今度は、失礼にならないように「太って」と女神にお願いした。20粒ほど取れて、1.5倍の大きさの実がなるようになった。
要求があれば、その種もみはほかの農家にも販売した。シチリア島の東で小麦を作っている農家は、収入が倍増することとなった。いや、実質3倍だ。
〇×△
ある日、裁判所の書類を持った衛兵がやってきて、マルコを拘束した。
翌日裁判が開かれ、禁固40年という判決を受けた。
シーちゃんは泣き出すが、姉のイザベラは理由を聞きだした。
本国の貴族が、一つの穂から約20粒収穫できる小麦の品種を所有していて、その昔咀嚼された。その収穫量の多い小麦は、その貴族の所有する土地だけで育てられていた。
マルコが、それを盗んだという罪だ。
それを聞いたシーちゃんは、それって昔マルコが開発した小麦だと言い出した。でも、だれも聞きいれてはくれず、そのままマルコは牢屋に入れられた。
マルコ20歳の秋だった。
イザベラの小麦農園は国に没収された。何もしてくれない夫に愛想をつかし、イザベラは実家に戻った。
シーちゃんは実家に戻っても毎日泣いていた。
〇×△
イザベラの小麦畑は没収されたのち国の管理となり、ある荘園主に払い下げられた。周辺の農家はすでに品種改良した小麦を作っていたので、数年後、イタリア全土にその品種が普及してしまった。
もちろん国力は飛躍的に増したし、冬餓死する人も激減した。
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