ちょっと怖い超短編集

Sera K

神隠し


ある会社勤めの人が、珍しく仕事を早めに終え、

まだ外は夕方の明るさが残る時間に帰宅していた。

いつも通る帰り道は普段と変わらず、子どもたちの声や自転車の音が聞こえる。


早く帰れたせいか、歩いていると、普段は気にならない細かい部分にも目が向いた。

空き地に、いつもは気づかない小さな物がいくつも置かれている。

子どものおもちゃ、折れた傘、小さな靴──乱雑に転がっていた。


不思議さと少しの楽しさに背中を押され、遠回りして散歩を続ける。

普段通らない道には、小さな発見がいくつもあって、心が少しずつ弾んでいく。


気づけば隣駅まで歩いていて、ふとおなかがすいていることに気づく。

通りかかった店に入り、食事をとると、体も心もほどけてゆくようだった。


食後、少し冷えた空気の中を、ゆっくりと歩きながら帰る。

気づけば、時計の針は普段帰宅するのとほとんど同じ時間を指していた。

「結局、今日は早く帰っても同じか」と苦笑しながら、

さっき通った空き地に差しかかる。


──違和感があった。

視線を向けると、そこにはもう何もなかった。

おもちゃも、傘も、靴も──すべて消えている。

まるで最初から何も置かれていなかったかのように。


不思議に思いながらも、きっと誰かが片付けたのだろう、と思った。

思っているはずなのに、胸の奥に、ひっかかる感覚が残る。

何もないはずの空き地が、なぜか妙に静かで、

息をひそめてこちらを見つめているように感じた。


──そして、背後から、かすかな足音が聞こえたような気がした。

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