Dの恋愛相関図

図1

 Eくんと Fちゃんはうちのクラスの、代表的カップルでしょ? 他の子たちはどうなんだろ。

 ぽかぽかと太陽の光が窓から降り注ぐお昼休み。

 私はシャーペンを持って紙一枚とにらめっこしていた。

 書かれているのは、二年一組のクラスメイト、総勢二十八人の名前。もちろん、自分含め。

 私はEくんとFちゃんの間に相互の矢印を書き、その真ん中にハートマークを付けた。

   E←♡→F

 そう。私が書いているのは、何を隠そう、『恋愛相関図』である。

 彼らは二年に上がってすぐに付き合い始めた、有名なカップルである。

 Eくんが教室のど真ん中で、しかも授業真っ只中に告白をし始めた時は、みんながかたずをのんで二人を見守っていた。

 しかし、お祝いムードになったのもつかの間。

 とにかくあの二人はケンカが多すぎる!

 恋が実ったその放課後には、手のつなぎ方でもめて、仲直りしたと思ったら翌日にはお互いの呼び名でもめて。周りの友達、あきらかに迷惑そうだったぞ!

 そのくせ、翌日の朝にはけろっとした顔してて、放課後にはまた険悪ムード。

 二人はそれの繰り返し。

 ほら、今日も黒板の前でチョークと黒板消しを持ちながら言い合ってる。

 もはや、みんなもう完全無視だ。

(この痴話ゲンカカップルめ……!)

 とはいえ、それがうらやましいのも私の本音だ。

 だって、恋人どころか好きな人が見つかりそうにもないもの。

 高校生で付き合うといえば、クラス内か、部活内か、バイト先か。大体そこら辺に限られている。

 でもうちの高校は基本的にバイト禁止だし、部活はほぼ幽霊部員だし。そして何より、クラス内は絶対にありえない。

(このクラス、みんないい人なんだけど、なんかおかしいんだよなあ……)

 簡潔に言うとみんなの個性が強すぎるのだ。

 地味な顔してよく聞いてみれば意味わかんない会話をしてる二人組、紅茶ばっかり飲んで暇さえあれば一人ティーパーティーをする男子、謎に探偵チックな一般人、まじめな天然学級委員長ちゃん……。あげだしたらきりがない。

 高校全体がそうかと言われたらそうでもない。偏差値そこそこのフツーの公立高校。

 だけど、二学年の一組だけ。教室内がカオスなのだ。

 毎日恋愛相関図を書いている私は、ほかに比べたら超フツーだ。

「こんなの、私の青春が何もないまま終わっちゃうじゃん~~!」

 がばっと後ろにのけぞると、そばを通ろうとしていたGが顔を覗き込んできた。

「おおっ? その顔は何か悩みがあるのだね、D。どれ、私が当ててあげよう」

 Gはあごに手を当てて何かを考えるような仕草をとる。

 うげっ。変なやつに捕まった。

 私は紙で自分の顔を隠してそそくさと席を離れる。

「ふむふむ。握りしめたシャーペン、難しい顔、お昼という時間……。わかった! 弁当を食べ終わったばかりなのに、おなかがすいて悩んでいるんですね⁉」

 Gは全く見当違いな推理(?)を繰り広げている。

 あいつ、うるっさいんだから。

 私は今がベスト! と、Gから遠ざかった。

「いや、違うな。そうと見せかけて、勉強ができなくて困っているんだ! それならそうと早く私に頼ればいいものを……って、あれ? Dは?」

 Gは私を探してきょろきょろしている。

 無事逃げ切れた私がはあ、と息をついた瞬間。

 背中が誰かとぶつかった。

「あっ、ごめん……て、あ」

「Dか」

 ぶつかった主・Bくんは平然とした顔で振り向く。

 今日も今日とて、Bくんは友達のAくんとしゃべっていたらしい。Aくんも「Dじゃ~ん」と話しかけてくる。

「ご、ごめんねっ。ぶつかっちゃって」

「いや、別に」

 Bくんと真正面から目が合ったら声がうわずった。

 うわっ、私ってば、なに緊張してるんだろ。ただのクラスメイトなのに!

 恥ずかしくて熱くなった頬を手で覆う。

「DもBの話聞きなよー。こいつ、めっちゃ面白いの」

「俺は普通の話、してるだけなんだが」

「いいい、いい!」

 思わず叫んで教室を飛び出した。

 な、なにこれ⁉ 目が合っただけで心臓バクバクだよっ。

 はあはあと肩で息をする。

 凛とした顔。きりっとした目。

 思い出しただけでも、また熱を帯びてきそうだ。

「……?」


   D→?→B

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

2ー1のいたって平凡な高校生活 水波日莉 @Nichiri_Minami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ