辛酸

白川津 中々

 失意のまま部屋に入ると、もうベッドに横たわるしかなかった。

 何もする気になれない。生きる気力もない。ルイがタクミと付き合っているなどというスキャンダルを聞いてどうして平常でいられようか。おまけにあの二人の顔、絶対いくとこまでいってやがる。そういう距離感の表情だった。許せねぇ。俺の方が早く好きだったのにタクミの野郎寝取りやがって。まず権利は俺にはるはずだろう。紳士協定すら守れないような男などクズ以下。奴とは絶交だ。

 それにルイもルイじゃない。ちょっと話ができる男に簡単になびきやがって、貞操観念どうなっているんだ。あいつ、俺の消しゴム拾ってくれた時、手が触れて「きゃっ」って恥ずかしがっていたじゃないか。あの反応は嘘だったのか? カマトトぶりやがって。そう考えると、ルイなど取るに足らない女のように思えてきた。そうとも、他人を欺き、軽薄な男の口車に乗せられ、そのくせ未成年の分際で一線を越えているのだから、そんな女はこちらから願い下げではないか。どうせ腹黒で、他人の悪口や醜悪な愚痴を延々と聞かせてくるようなくだらない人物に決まっている。と、すると、よかったじゃないか、愚か者同士が番を作ってくれたのだから、俺があの女の毒牙に掛かる事もなかったのだから! 馬鹿馬鹿しいな! せいぜい子供を沢山こさえて将来的に代々プロレタリアートの家系を紡いでいっていただければという所存だ! 俺は金を持って、資産を持って、あいつらを顎で使ってやるのだ! 楽しみにじゃないか! 実に! ちくしょう!




「ルイぃ……」




 涙が、情けなく零れる。同時にあの二人が重なって混じり合っている姿を想像すると、抗い難く心臓が動き、締め付けられる。


 ……


 ルイの顔を、タクミの顔を、俺はもう直視できない。


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辛酸 白川津 中々 @taka1212384

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