四月二十八日 県予選まであと四十六日(佐藤太志)

 まだ四月の終わりだというのに、日が照り付けてくる。

とても暑い。

その暑さを吹き飛ばそうと「よし、七人揃ったし、ゲームをイメージした練習も段々やっていこう!」遠藤、大助先輩が高らかに拳を振り上げる。

「おー」

俺も空も、みんな高く拳を振り上げる。

ワンピースにもこんなシーンあった気がする。

でも誰の腕にもばつ印はなかった。

それでも、俺たちはチームメンバー、仲間だ。

この七人で、勝つんだ。

昂りを抑えられない。

声を上げても、発散しきれずに無尽蔵に溢れ出す。

ああ。やめられない。

これだからチームスポーツは楽しいんだ。

勝っても勝てなくても、最悪、いい。

このメンバーで泥まみれになっても、雨に降られても、楽しみ続けたい。




 ここまで繋いだボールを脇に挟むようにして、走る。

人数が少ないから、まだ相手はいない。

倒れろブレイクダウン‼︎」

タックルされたイメージ。

腰のあたりに。

肘から地面について、次に肩を、そのまま腕を遠く遠く伸ばしてボールを少し後ろへ。腰の位置を前へ、そしてノットリリースザボールを取られないように、ボールを離して、上から抑える。

「ナイスブレイクダウンー‼︎」

団先輩の声だ。嬉しいぞ。これ。

空が抑えているボールを取る。

走り込んできた、団先輩が「パス‼︎パス‼︎」

空が大きく腕を伸ばして、ボールを飛ばす。

ボールは回転しながら進む。

でも空のボールは、団先輩の方へ届かなかった。

代わりにボールは変な方向へバウンドし、ころころと地面を撫でるように転がる。

少し、なぜか、確実に、気が楽になった気がした。

——— すげぇ。マジ天才じゃん。先輩みてくださいよー

確かに純粋な気持ちでそう言った。

ジリジリと皮膚を刺していた日差しが、いつのまにか雲に隠れ、影を差していた。

そうだ。起き上がらなきゃ。

顧問が居たら、遅いって怒られてたなって思う。

「涼‼︎」次、団先輩からパスを受け取るはずだった涼先輩がボールを走って拾う。

細い体が崩れる落ちるようにして、ブレイクダウンを作る。

また、誰れかがパスしそれを受け取る。

それをずっと繰り返す。そこにはもう昂りはなかった。



 ボスン。と持っているタックルバックが凹む。

その衝撃が体にもジーンと響く。剛先輩のタックルはものすごく強い。

そして、鉄球を体に叩きつけられたみたいに痛い。

くぅぅぅぅってなる感じ。

フォワードとバックスで分かれてする練習は少ない人数がさらに少なくなる分キツイ。

向こうから「そうそう。スクリューも上手いね」という大助先輩の声が聞こえる。

低く重心を落として構える。

ポス。タックルはされたけど、衝撃は来なかった。悠真先輩が腰を掴んでいた。

次は走りながらのランパスだな!と団先輩が多分眩しい笑顔で言う。

そうだ。意外だった。なぜ、この人がフッカーなんだろう。

確かにフッカーはラインアウトとかのセットプレイでは、専門性が高いことをする気がけど。

「悠真!足かけ!」

ズ、ズズズ。やばい。手の締め付けバインドが強い。

スパイクが地面に食い込んで跡ができる。

グ!歯を食いしばって、押し返す。

足の筋肉が沸き立つ。

ふくらはぎが浮き立ち、足に影をつける。

やめブレイク!」

はあ、はあと必死に体から二酸化炭素を出す。ドッと疲れた。

「ゆうま、マジでバインドした後が強いんだよなぁ、最初の衝撃インパクトは残念だけど、」

剛先輩の白い歯が、暗くなる空と赤黒い肌に浮いて見えた。


水道で泥を落とす。

剛先輩が手で水鉄砲を作って水をかけてきた。

負けじとやり返す。

泥で汚れていないバックスのみんなも寄ってきた。

蛇口を上に向けると綺麗な弧を描いて水が飛んで地面のアスファルトにたくさんの水が飛び散る。

そうするとお祭り騒ぎだ。

男達がパンイチになって水をかけ合う。

「くらえー」と言って団先輩はホースの先を抑えて勢いよく水を吹き出させた。

それを大助先輩は笑って見てる。

重力に逆らっていた剛先輩の髪もぺったりと焦げ茶色の肌にくっつく。

剛先輩も負けじと水をかける。

「うわーやめろー汚いー」剛先輩が団先輩の腹に向かって抱きつくみたいにタックルした。思わず、ゲラゲラと声を飛ばす。

「誰かー助けてー」情けなく叫ぶ団先輩の声が裏返った。

思わず手を叩く。

パシャッ。頭の後ろから、少し鋭い水が飛んできた。

顔に水をかけてきたのは、かけてくれたのは大助先輩だった。

「部室にあった」と言って笑う。目も細くなる。ほら。と言って一個くれた。

「団にかけようぜ」「いいっすね」

剛先輩にホースでべちょべちょにされてる団先輩を見て、思わず、息ができなくなるほど笑う。涼先輩も空も転げ回っていた。

団先輩のおでこにはベッタリと髪がついてた。

大助先輩がそのおでこに向かって水を飛ばす。

「うわ!やめろー!朝アイロンしたのにー‼︎」

「もう遅いだろ〜」

俺は服を着替えようとして、脱ぎ終わった空に向かって水を飛ばす。

「おっやったな」と言うと、空は水筒のお茶を口に含むとフグみたいに頬を膨らましてこっちに来た。

「ちょ、やめろってー」

裸足のまま、まだ熱が残るアスファルトの周りをペタペタと走り回った。

笑いすぎてお腹が痛い。

みんなでふざけた。

みんなで笑った。

それだけでお腹が膨れるはずだった。

焼き肉食べ放題のあと、一気に来る空腹みたいに何かの栄養素が足りない気がした。

体についた水滴をタオルで拭かないと、夜風に吹かれて風邪をひきそうなくらい、帰る頃の夜は冷えていた。

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