第22話 カワル

「ねぇ、宮園さん」

背後からかけられた甘い声。


私は振り返る。

そこに立つのは、同じグループの亜久屋A子。

無理に作った笑みが、どこか冷たく見えた。


「ごめーん、あなたの制服、間違えて別の部屋に置いちゃったかも」


「そう」

短く返事をして、私は指定された部屋へ向かった。


分かっていた。

この先に何が待っているのか。

──篠宮くんと立てた作戦通り。


けれど、足は自然と震えていた。

心臓が早鐘のように鳴る。

本当にうまくいくのだろうか。

このまま、亜久屋さんが騙されて

当初の手筈通りに動いてくれるだろうか?


扉を開ける。

そこには“待ち構えているはずの男”がいた。


けれど彼は動かない。

代わりに、私へ向けて小さく頷いてくれた。


私は作戦通り、言葉を口にした。

「──篠宮さん、バッチリです」



「今よ!」

亜久屋の叫びが響く。


だが男は動かない。

宮園が落ち着いた声で合図を口にする。


その瞬間、僕──佐伯は前に出た。


「亜久屋さん……もう、やめてください!」


亜久屋の目が驚きに揺れる。

「誰……?あんた、私の邪魔したの?」


亜久屋がすっと無表情になって僕にとう


「違う。僕は……ただしに来たんです」

震える声で、それでも必死に言葉を重ねる。


「努力が報われなかった、立場を奪われた

……悔しいのは分かります。

その悔しさの一部は僕の所為でもあります。

でも、だからって宮園を壊そうとするなんて

僕が許さない!」


「うるさい!あんたに何が分かるの!」

亜久屋は机を叩き、鬼気迫る声をあげる。


正直、足は震えていた。

押されている──そう感じた。

でも、それでも逃げたくはなかった。


「僕は……宮園を守りたい。 僕の知らない所で、これ以上なにも壊させないために!」


必死に叫ぶ僕を、亜久屋は冷笑でねじ伏せるように見下ろした。

「甘いわ。お前に何ができるのよ」



いいや、できる。

だって篠宮くんがついているから。



そう思った時。



その瞬間、ドアが勢いよく開いた。


「もちろん、できるとも!」


驚いて振り返ると、そこには篠宮くん。

その篠宮くんの隣にはもう1人男性が立っていた。


その男性の厳しい目が亜久屋を射抜く。


「亜久屋……全部聞かせてもらった」


「しゃ、社長……?」

A子は一瞬怯んだが、すぐにかぶりを振って叫ぶ。

「嘘です!この人たちが仕組んだ罠なんです!私は何も──」


だが、その声をかき消すように、篠宮が前へ進み出た。

いつも穏やかな彼が、珍しく強い目をしていた。


「観念しろ。計画を練っていた時の会話の録音。他にもチャットの履歴

全ての証拠が君の有罪ギルティーを示している。」


「なんなのよ……お前……」

亜久屋は絶句し、足をふらつかせた。


社長が低い声で告げる。

「亜久屋。もう言い逃れはできん。観念しろ」


亜久屋は震える手で顔を覆い、その場に崩れ落ちた。

「……どうして、こんな……」

嗚咽混じりの声が、狭い部屋に虚しく響いた。

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