Gesrron

Pace Wolf

Chapter:1「黒の目覚め」

Episode:1「in 3 years」

―君は関わるか?あと30日後に消えるクラスメイトに。


―君は選ぶか?今から3年間、虚構と向きあい続けることを。


2035年 4月


その朝は清々しかった。歩いていると風が、自分の全身を優しく撫でた。それはまるで「大丈夫だよ」と、自分の緊張を少しでも和らげてくれたような気がした。そんなことを考えたいる間に、自分はとっくに目的地へ着いていた。”次の”を待つために、地下への階段を降りていく。

「...」

何か通知が来ているかもと、スマホの画面を見た。どうやら、彼女は自分と時間が合わないらしく、一緒には行けないみたいだ。仕方ない。

「―――4番ホームに、白浪行きが参ります」

そのアナウンスとともに、それは自分の前に現れた。始発のせいか、朝の通勤・通学ラッシュの時間帯とは思えないほど席が空いていた。Bluetoothをつけて好きな音楽を聞きながら、白浪駅への到着を待った。気付けば地下から地上へ出て、車内の窓から明るい光が射し始めていた。

「次は、白浪。白浪駅です」

どうやら、目的地にはもう着いたらしい。雨上がりの地面を反射する太陽、その前に咲く、桜の木。学校は、駅を出てすぐ見えた。え、この学校、駅から直通なんだ。正門は自分たちを吸い込むように、自然と足を前に向かわせた。


―この雰囲気、とても好きだ。


ここは、白浪高校。県内TOP10に入る進学校。そして、自分の人生をかなり大きく変える場所。

体育館前の掲示板で、自分のクラスを確認し、体育館の座席へと向かった。


式を終えて新しい教室に移動し、必要な提出書類を集めたあと、自己紹介の時間が来た。

誰か一発ギャグでもすんのかな...それか高度なジョークで笑わせてくれたり...どんな人たちがいるんだろう。そんなことを思っている間に、自分の番はすぐに来た。そりゃ苗字がクロノだから、来るタイミングは速いよな。

「...初めまして。黒野影文です。F-2中学校から来ました。趣味はギターで、今年10年目になります。よろしくお願いします。」

一礼すると、周りから拍手が起きた。超緊張してたから、妙にそれが温かく感じられた。

そんなこんなで、入学式は終わり、各自解散となった。そのまままっすぐ家に帰っても良かったが、話しかけないといけない人がいたので、その人に連絡をすることにした。


「お待たせ、カゲ君。」

駅前で自分に手を振ってきたのは、白石美来だった。

「何組だった?」

その言葉は2人同時に発せられた。

「あ、ハモった。6組だったよ、そっちは?」

「4組だったよ。それじゃ、行こっか」

僕達2人は、地下への階段を下って行った。


「何か...明るくなったよね」

自分がさっき駅前で会ったときまず初めに思ったことだった。まあいいっちゃいいんだけど。

「ふふーん、よくぞ気付いてくれました!」

いつものミクなら、”そうかなー?”って返しただろうから、明らかに変化してるのが分かった。

「だってカゲ君が、私を救けてくれたからさ」

さっきよりもトーンが落ちて、落ち着いた笑顔で言った。なんかこう...こういった表情向けられんの中々ないから、少しドキッとしてしまった自分がいた。

「そっか。じゃあ春休みも普通に過ごせたんだ?」

「もちろんっ!」

「...ならよかったよ」

中学時代の彼女を知っているせいか、彼女が何事もなく過ごせているのが、とても嬉しかった。少し、安心した。

『―――間もなく、青波。青波駅です』

「じゃあ、私もう行くね」

「...え」

不思議に思った。最寄り駅は一緒のはずだから、彼女が『青波駅』というところで降りる理由が分からなかった。何でと聞こうとしたけど、彼女はまたね、と言って行ってしまった。いや、むしろ今の自分には、不安の方が強かったかもしれない。昔その駅近くの建物で、11人が死亡したという事件を知っているから。


…何かがおかしい。間違いなく何かあるに違いない。あの時の彼女は、笑っていなかったから。


それからは、Bluetoothで音楽を聴きながら最寄り駅までの時間をつぶした。

『―――間もなく、終点です』

どうやら、もう着いたみたい。電車から降りて、改札への階段を上がろうとした。しかしその時―


『雨雲が現れました、速やかに地下に避難してください』


駅中に鳴り響く爆音の警報。雨雲...大雨警報でも出てないはずだ。なのに何で―

―――その時、僕は目撃した。”雨雲”の存在を。そして、身体中が凍り付いていたので、身動きがとれなかった。

「速く地下に逃げて!! もう入口が閉まる、死ぬぞ!!!」

焦りを感じた駅員にそう言われ、急いで地下へ逃げた。それと同時に、階段の入口は閉まった。

…さっき自分がぼーっとしてたのは言うまでもない。”雨雲”の正体を、見てしまったから。それは、銀色に輝く霧につつまれて、オレンジ色の目をしていた。とても人間には見えなかった。けど...


―――あの事件の報道で映った、謎の生命体に似ていた。


10分後、階段への入口は開き、何とか駅の外に出ることができた。外は既に暗くなり始めていて、街灯が点き始めていた。歩いているときにその薄明かりに照らされた自分の影は、揺れていた。


―――入学初日にしては、奇妙なことが起こりすぎていた。


一方その頃、青波駅で電車を降りたミクは、ある場所の中にいた。

「初めまして。鈴村実と申します。」

「...白石美来です」

学校から出ようとしたときに突然親に行くように言われたせいか、少し怖かった。

「どうぞ、よろしく。早速なんだけど、シライシミクさんは、”Gesrron”という生命体は知ってるよね?」

「はい、知ってます...。」

私はその後に言われる言葉を聞きたくはなかった。この後何を言われるのか、とうに想像がついてたから。

「ココに呼ばれたってことは分かると思うけど......今回の、被験者対象が君に決定した。」


-To be continued in Episode:2-

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