第4話 最近の朝はちょっとした優越感に浸れる

 静かに耳を掠めるのは鳥のさえずりと、車の走行音。

 慣れてきたというものの、やっぱり絨毯とベッドでは寝心地の差というものは天と地。


 若干痛む背中とともに意識がはっきりしていく中、遠くから聞こえてくるのは『カチャカチャ』と金属がぶつかる音と、『ジャー』という水が流れる音。


(同棲かよ……)


 そんな感想を心の中で浮かべたのもつかの間、止まった水道は1人の足音を生み出した。


「そろそろ起きてくださーい。朝ですよー」

「……同棲かよ」

「なーにバカなこと言ってるの。寝ぼけてるならさっさと顔でも洗ってきな?」

「…………おかんかよ」


 薄っすらと見える顔に様々な感情を抱く僕は、伸ばされた華奢な手を握って体を持ち上げる。


 驚くことに、あのワガママ娘は朝に強いらしい。

 まぁ岡山から来るのだからそれ相応の耐性がなきゃやってられないだろうが、ほんの恩返しということで朝ごはんも用意してくれている。


 願ったり叶ったりと言えばそれまでだが、泊まらせてやってるんだから当たり前だよな?


「……なんで睨むの。朝ごはん作ってあげたんだから感謝しなよ」

「かんしゃ」

「そこはありがとうでしょ!」

「はいはいありがとうありがとう」


 すっかり覚めた体を起き上がらせた僕は、おかんに言われたとおりに顔を洗う。

 これがここ最近の、僕の朝。幸せと言えば幸せだし、お節介と言えばお節介。


 まぁでも、少しばかり勝っているのは幸せという感情なのだろう。







「私は西棟だから。じゃあね〜」

「はいよ」


 大きく手を振る西宮さんに小さく手を振り返した僕は、踵を返して東棟に向かう。


 女子と何気なく学校に登校できるのは大学生としての余裕なのだろうか。それとも、ただの友達としか見ていないから一緒に歩けるのだろうか。


 どちらにせよ、高校時代に女性と歩こうものなら『あいつとあいつ絶対付き合ってるじゃん!』と噂され、登校中に見られようものなら指笛を鳴らされ、教室に入ればあること無いこと聞かれ、相手が石宮さんみたいに可愛い人ならばいじめられていたのだろう。


「うぅ……。想像するだけでもこわい……」


 季節的には似ても似つかない身震いを披露する僕は、チラッとだけ背後に目を向ける。


 ……さすれば、あっという間に生まれる人だかり。

 その中心に居るのは言わずもがなの人物。


 つい先程まで僕の家で一緒にご飯を食べていたというのも知らずに、元気よく挨拶する男子大学生たちはきっと、西宮さんの顔狙いなのだろう。


 まぁあれだけ可愛かったらモテるのも無理はない。

 というかやっぱりあれだけ可愛くて大学デビューってのは嘘が過ぎないか?


(僕は信じんぞ?)


 ひとりでに心にそう誓う僕は目を逸らして校舎へと入った。

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