星を食べる烏
@MooMoo555
星を食べる烏
はるか未来のこと。
科学者たちは興奮した面持ちで目の前の機械を見つめていた。
パンドーラーX
それは、『光すら脱出できない』とされるブラックホールの内部を、視覚的に観察するための機械だ。
科学者たちは、この機械がブラックホールの正体を解き明かし、人類の科学が大きく前進することを期待していた。
科学者たちは、様々なブラックホールを観測し、そのデータをパンドーラーXに解析させた。
解析には1ヶ月程の時間を要したが、今日が最初のデータ出力日だった。
科学者たちは、モニターに映し出されたプログレスバーがジワジワと進むのを見つめながら、今まで数々の偉大な科学者が提唱してきた仮説について語り合っていた。
そして、自分達がその歴史を塗り替えることに興奮していた。
ただ、パンドーラーXを考案し、実際に製作したY博士がいないことを残念に思っていた。
Y博士はここ数年で宇宙科学を飛躍的に進歩させ、世界を牽引してきた天才だった。
実のところ、Y博士が発表した理論のいくつかは、まだ誰も理解していなかった。
ただ、スーパーAIによる査定では概ね正しいと判定されており、Y博士のこれまでの輝かしい業績を踏まえて、その結果を追認しているというのが実態だった。
パンドーラーXもその理論が使われた機械で、世界中がY博士の理論が証明される瞬間を心待ちにしていた。
そんな中、Y博士は数ヶ月前に失踪してしまった。「世界は絶望に満ちている」というメモを残して。
ピー
パンドーラーXは、簡素な電子音と共に10秒程の映像を出力した。
そこに映し出されたのは1羽のカラスだった。
いや、カラスのような鳥が豆を啄んでいた。
そして、その豆は様々な恒星や惑星の見た目をしていた。
科学者たちは状況が理解できなかった。
一体、自分達は何を見せられているのか?
宇宙空間に超大質量の星を食べるカラスがいるとでもいうのか?
困惑は次第に怒りに変った。
そして、その矛先はY博士へと向いていた。
曰く、『Y博士はでたらめな理論を発表し、ただのコラージュ画像生成機で世界中の人々を欺いたのだ』と。
科学者たちが騒いでいる横で、パンドーラーXは黙々と超大質量生物が星を食べる映像を出力し続けていた。
星を食べる烏 @MooMoo555
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