第一色 灰色に閉ざされた世界

 カン、カン、カン


 私は古びた階段を登る。

 一段登るたびに、誰もいない建物に音が響く。

 少しずつ、死に近づいていく。


 噂によると、このビルの屋上には“幽霊”が出るらしい。昔、飛び降り自殺をした少年の死霊が出るそうだ。

 ただ、全員の前に現れるわけではない。何かに悩み、折れやすい心を持つ人にだけ見えるようだ。

 私は幽霊を信じていないが、噂を思い出して少し身震いした。


 しばらく登ると、目の前に扉が現れた。友人に聞いていた通り、鍵はかかっていなかった。

 私は扉に手を掛ける。とても重たい。体重を乗せて、力を込める。


 ギ、ギギー……


 音を立て、なんとか開くことができた。

 外は強い風が吹き、雨脚も激しさを増していた。

 私はゆっくり、歩く。


 自分の意思に反して、足元が震えている。

 きっと、心のどこかにまだ迷いがあるのだろう。

 それを振り切るように、無理やり足を動かす。

 前へ、進む。


 屋上の端に着く。柵に両手を置き、街を眺める。

 空が曇っているとはいえ、あまりにもくすんで見えた。


 自分が生きている世界全てが、モノクロのように感じた。


 私は、柵から身を乗り出す。

 もう、こんな世界に未練はない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る